『月夜行路 ―答えは名作の中に―』©日本テレビ

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 日本テレビ水曜ドラマ『月夜行路 -答えは名作の中に-』第5話では、カズト(作間龍斗)探しを終えた涼子(麻生久美子)の旅が、思いがけない形で次の局面へ進んでいった。前回、涼子はルナ(波瑠)の助けによって、かつて結婚を誓いながら突然姿を消したカズトと、意外な形での“再会”を果たした。悲しい別れの裏にあった彼の優しい嘘を知り、長く止まっていた時間がようやく動き出す。その真実を受け止めた涼子は、ようやく過去に区切りをつけ、東京へ帰ろうとする。

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 ところが、東京へ帰ろうとした涼子の前に、夫の菊雄(田中直樹)が現れる。東京にいるはずの菊雄が、なぜ大阪にいるのか。その理由は、ルナの口から明かされた。実はルナこそ、菊雄が担当している作家・重原壮助だったのだ。重原という名前は母の実家がある愛知県の地名から、壮助は戸籍を変える前の名前から取ったもの。ルナはここのところ新作の題材に行き詰まり、編集者である菊雄に相談していた。

 涼子が菊雄に“女の影”を感じていたのも、すべてはこの関係が原因だった。菊雄の残した名刺を頼りに涼子が「マーキームーン」を訪れたことから、ルナは彼女が菊雄の妻だと気づく。そして次の本の題材を探すために、涼子を大阪への旅に連れ出した。つまり、第1話から続いてきた旅の始まりには、ルナの作家としての事情も深く関わっていたのである。

 菊雄の浮気疑惑が晴れたあと、涼子は東京へ戻る。久しぶりに菊雄と2人で食事をし、彼から腕時計を贈られる場面は、止まっていた夫婦の時間を少しずつ動かそうとしているようにも見えた。涼子もまた、大阪でのカズト探しについてすべてを打ち明ける。カズトへの未練を断ち切ったことで、彼女は何気ない日常の大切さをあらためて見つめ直していた。

■ルナ(波瑠)が涼子(麻生久美子)に「友達になりたい」と打ち明ける 一方で、涼子が大阪旅への感謝を伝えようとしても、ルナへのメッセージは既読にならない。不安になった涼子が再び「マーキームーン」を訪ねると、店主のバブリー(真田怜臣)からルナが姿を消したことを知らされる。さらに、店の周辺ではルナを見張るような怪しい人物の姿もあったという。ここから物語は、涼子がルナを探す展開へと切り替わる。これまで涼子を大阪へ連れ出し、文学を手がかりに背中を押してきたルナが、今度は涼子に探される側になるのだ。

 ルナ探しには、東京へ異動してきた田村(胗俊太郎)も協力する。涼子は、ルナと過ごした大阪旅のことを思い返しながら、彼女がどんな人だったのかをたどっていく。借金取りに追われていたバブリーを助けたように、ルナは誰かの苦しみに敏感で、放っておけない人だ。だが、その一方で、自分自身の苦しみはなかなか見せようとしない。そのことが、涼子の中で少しずつ引っかかりになっていく。

 やがて、重原の新作が涼子とカズトの物語ではなく、ルナ自身の物語でもあることが見えてくる。菊雄からもらった万年筆、性別適合手術の相談、そして「マーキームーン」という店の名前。そこには、ルナが自分の人生をどう生きようとしてきたのかが刻まれていた。誰にも居場所を見つけられなかった過去があるからこそ、ルナは店を訪れる人たちに、自分の人生の主役として輝いてほしいと願っていたのだ。

 ルナが電話で「もう涼子さんには会わない」と告げたのは、涼子をただの取材対象として見ていたからではない。最初は新作の題材として、そして菊雄の妻として、涼子に興味を持ったかもしれない。そしてルナにとって菊雄は、担当編集者というだけではなく、特別な感情を抱く相手でもあったはずだ。けれど大阪で旅を重ねるうちに、涼子にも本当に心を許してしまう。菊雄への思いと、涼子への友情。その両方が生まれてしまったからこそ、ルナは自分から距離を取ろうとしたのではないか。

 涼子は、今度は自分が文学を手がかりにルナを探し始める。鍵になったのは、ルナが愛する川端康成の作品だった。『反橋』『しぐれ』『住吉』の3部作、そしてその22年後に書かれた『隅田川』。それらの冒頭に共通する「あなたはどこにおいでなのでせうか」という言葉から、涼子はルナの居場所を導き出していく。チンチン電車に乗って向かった先にいたのは、やはりルナだった。ルナがもう一度大阪に戻ってまで行きたかった場所は、重原の新作の最終章につながる場所であり、彼女自身の本音が隠された場所でもあった。

 「本当は涼子の友達になりたい」。ルナがそう打ち明けたことで、2人は初めて対等に向き合えたような気がする。これまでの旅では、ルナが涼子を導き、カズトとの過去に向き合わせてきた。だが第5話では、今度は涼子がルナの本音に気づき、彼女を見つけに行く。つまり、カズト探しから始まった旅は、涼子だけでなく、ルナにとっても自分の気持ちと向き合う時間になっていたのだ。ここから『月夜行路』は、友達になった2人が互いの人生にどう関わっていくのかを描いていくことになりそうだ。(文=川崎龍也)