すさまじい「人気」は占いブームだけでは説明できない…2000年代の“異常な熱狂”、テレビが作り上げた「最後の怪物」
「大殺界」「地獄に堕ちるわよ」
Netflixで細木数子氏を題材にしたドラマ「地獄に堕ちるわよ」が配信開始されて話題になっている。六星占術や「大殺界」「地獄に堕ちるわよ」といった強烈な言葉で一世を風靡した占い師・細木数子の半生を描くものである。【ラリー遠田/お笑い評論家】
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【写真】まるで別人…細木数子、“銀座のクラブママ”時代。“死の直前”に入籍した男性とのツーショットも
本作を制作するにあたって、瀧本智行監督は細木氏の自伝『女の履歴書』に加えて、彼女のダークな一面を暴いたノンフィクション作家の溝口敦の著書『細木数子 魔女の履歴書』も参考にしていた。
細木氏はテレビや出版界を席巻する一方で、霊感商法や裏社会との関係もささやかれた人物だった。このドラマでは彼女の表向きの顔だけでなく、闇の部分にもスポットを当てている。

つまり、このドラマが扱っているのは、単なる「有名占い師の一代記」ではない。戦後日本の大衆メディアが、どのようにして強烈なカリスマを作り上げ、消費し、やがて距離を取っていったのかという物語でもあるのだ。
細木数子は2000年代半ばのテレビ界を席巻していた。「ズバリ言うわよ!」(TBS系)、「幸せって何だっけ〜カズカズの宝話〜」(フジテレビ系)といった彼女のレギュラー番組はいずれも高い視聴率を記録していた。
1人の占い師がゴールデン・プライムタイムの地上波バラエティで主役を張るほどの活躍を見せたというのは、あとにも先にも例がない。当時は空前の「細木数子ブーム」が起こっていたのだ。
では、なぜ彼女はそこまで求められたのか。ブームの本質は、占いそのものの人気だけでは説明できない。もちろん、当時から彼女が書いた「六星占術」の本はベストセラーになっていて、占い師としては知られた存在だった。
しかし、それだけではあのすさまじい人気は説明できない。テレビの中の細木氏が熱烈に支持された理由は、彼女が「断言してくれる人」だったからだ。
2000年代前半の日本社会には、漠然とした不安が漂っていた。バブル崩壊後の停滞感は長期化の兆しを見せていて、終身雇用や家族制度への信頼は揺らいでいた。個人の生き方が広がって自由になってきた一方で、人々は自分の人生を自分で選ばなければならない重圧を背負わされていた。
価値観が多様化するほど、人は「何が正しいのか」を言い切ってくれる存在を求めてしまうところがある。細木氏はまさにその欲望に応える存在だった。
逃げ場のない言葉
彼女は相談者の悩みを受け止める優しいカウンセラーではなかった。むしろ、迷っている相手に対して、逃げ場のない言葉を投げつける存在だった。「あなたはこうしなさい」「それは間違っている」「このままだと地獄に堕ちる」といった断定の強さが、視聴者にとっては一種の快楽になっていた。
テレビでの振る舞いは占いというよりも「裁き」に近かった。彼女の番組では、芸能人や一般人が悩みを持ち込み、それに対して人生訓を授ける。だが、その構造は単なる人生相談ではない。そこには、相談者を前にして、視聴者が一緒にその人物の生き方を点検するという公開審問のような要素があった。
家族、結婚、仕事、礼儀、先祖供養、男女関係といったテーマを、独自の道徳観で裁いた。その言葉はしばしば乱暴で、現代の感覚から見れば問題含みのものも多かった。しかし、当時のテレビは、その危うさを含めて彼女を「強いキャラクター」として利用していた。
単なる毒舌を売りにしたタレントならほかにもいる。だが、彼女の場合、その毒舌が「運命」「因果」「家族道徳」と結びついていた点が特別だった。占い師という権威を利用して、真正面からは反論しづらい空気を作っていた。タレントとしての強みは、占いの神秘性と、テレビ的な毒舌芸と、昭和的な人生訓が一体化していたところにあった。
あのキャラクターは今の時代にはもはや通用しそうもない。一介の占い師が偉そうな口調で他人を裁くような真似をすれば、SNSなどで批判が殺到するのは目に見えている。いま振り返ると、あれはテレビが1人の強烈な人物を国民的な人気キャラクターに仕立て上げることができた最後の時代だったのだ。
だが、単純に「昔のテレビはひどかった」と断じるだけでは、この現象の本質は見えてこない。人々はだまされていたのではなく、彼女の断定口調を必要としていた。迷い続けることに疲れた社会が、迷わない人物を求めた。それが巨大なムーブメントを作っていたのだ。
現代はあらゆる権威が疑われる時代である。テレビも、占いも、家族道徳も、かつてほど素朴には信じられていない。しかし、その一方で、人々が不安の中で強い言葉を求める構造は変わっていない。
むしろSNS時代になったことで、別の形で「断定する人」「裁く人」「人生を一刀両断する人」が支持を集めている状況がある。細木数子は過去の怪物であると同時に、現在にも通じる「断言するカリスマ」の原型なのである。
ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。
デイリー新潮編集部
