「秀吉が市を救出」は真実か?小谷落城の裏で三姉妹を逃がした<あの人>の存在…濱田浩一郎が『豊臣兄弟!』を解説
天下人・豊臣秀吉…ではなく、その弟・秀長が主人公!これまでになかった視点からダイナミックに描く大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK総合、日曜午後8時ほか)。兄を支え続けた“もう一人の豊臣”にスポットが当たることで映し出される新たな戦国の世界が話題です。そこで歴史家で作家・評論家の濱田浩一郎さんに、ドラマをもっと楽しむための”ツボ”を解説していただきました。
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兄・信長を苦しめることに…
大河ドラマ「豊臣兄弟」第17話は「小谷落城」。
『豊臣兄弟!』において織田信長の妹・お市は宮崎あおいさん(*崎はたつさき)が演じています。
お市は北近江の大名・浅井長政に嫁ぎますが、長政は信長から離反し、越前国の朝倉義景と共に信長を苦しめることに。
いわゆる「信長包囲網」により信長を苦境に立たせたこともあったのですが、甲斐国の武田信玄の死などにより包囲網の一部は破綻。
浅井・朝倉は信長に追い詰められていき、天正元年(1573)8月、越前朝倉氏は滅亡します。
秀吉らが久政を自害に追い込んで
朝倉氏を滅ぼした信長はすぐに軍勢を浅井氏に向け、長政の居城・小谷城(滋賀県長浜市)を包囲します。

『秀吉と秀長 天下統一の軌跡』(著:濱田浩一郎/内外出版社)
小谷城は落城の危機を迎えたわけです。
織田の家臣・羽柴秀吉も小谷城攻めに加わり、浅井久政(長政の父)が籠る京極丸(小谷城の曲輪)を陥落させ、久政を自害に追い込んでいます。
信長の家臣・太田牛一が著した信長の一代記『信長公記』によれば、秀吉は介錯された久政の首を信長のもとに持参しています。
秀吉が市を救出した記述は…
浅井長政もまた自害することに。
大河ドラマなどではよく、小谷落城の際、秀吉がお市とその3人の娘たち(茶々・初・江)を救出したと描かれることがあります。
しかし、『信長公記』にはそうした記述はありません。
『信長記』(江戸時代初期の儒学者・小瀬甫庵が著した信長の伝記)も同様です。
また、甫庵が著した秀吉の伝記『太閤記』にも、秀吉がお市らを救出したとは記述されていません。
送り届けた者の名は…
お市とその娘を無事に信長のもとに送り届けた者の名は『浅井三代記』(浅井氏三代の興亡を記した軍記物。史料的価値は低い)に記されています。
その名は「藤掛三河守」(永勝)。
藤掛は織田の臣で、お市が長政に嫁ぐ際に岐阜から随伴し、小谷に入った武将でした。
実際には妻と3人の娘を死なせたくないと思った長政がお市や姫に藤掛を添えて信長のもとに送ったのでした。
そうした意味で真にお市らを救ったのは長政であると言えるでしょう。
(主要参考文献一覧)
・桐野作人『織田信長』(KADOKAWA、2014年)
・濱田浩一郎『秀吉と秀長 天下統一の軌跡』(内外出版社、2025年)
