「すぐクビになっていい。無責任にスカウトして」愛知高校30本塁打→橋下徹事務所 橋下氏も驚く現役弁護士と野球選手の二刀流 NPB狙う理由
弁護士資格を持ちながら、独立リーグのグラウンドで汗を流す男がいる。大分B-リングス・杉山幸太郎(28)。司法試験に合格してから7年ぶりに野球を再開。「理屈っぽいんで向いているんじゃないかな」と弁護士になった男が、なぜ今さらプロ野球選手を目指すのか。法廷とグラウンド、二つのフィールドで全力を尽くす異色のキャリアに迫った。
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橋下徹氏も惚れた弁護士スラッガー
神戸大学法科大学院出身、橋下徹氏率いる法律事務所に所属。大分B-リングスの主砲・杉山幸太郎は、弁護士で野球選手という異色のキャリアを持つ二刀流だ。
単身アパートの一室。木製バットやプロテインに囲まれて、大型モニターとパソコンが肩身狭そうに置かれている。4月ながら強い日差しを浴びて練習を終えた杉山に、これまでの人生とプロ野球選手を目指す理由を聞いた。
「野球熱が冷めて」高校30本塁打も強豪大学を2か月で退部
1997年、愛知県名古屋市生まれの28歳。私立愛知高校で甲子園には近づけなかったが、主砲として通算30本塁打を記録した。一般入試で関西大学に進学し、野球部に入部。しかし、そこで待っていたのは思いがけない現実だった。
「改修工事でグラウンドが1つしか使えなくて。しかも4学年で部員は150人くらい。1年生はもうほったらかしで『来てもやることないから』という雰囲気」
2か月で練習は3回ほどしかできず、心が折れてしまった。
「こんな感じじゃやっていける気がしないな、と思って。野球熱が冷めてやめちゃいました」
しばらくして中学のチームメイトが大学野球の聖地・神宮の舞台に立ったと聞き、悔しさがこみ上げた。次第に野球を遠ざけるようになり、学業にのめり込んでいった。
「食いっぱぐれないかな」法曹見据えた15歳
弁護士を目指したのは、中学時代にさかのぼる。
「将来ちゃんとした職に就きたいと思って、難関資格を取れれば食いっぱぐれないかなと思って」
医者と弁護士が目に入り、当時放送されていたドラマに刺激を受け弁護士を目指すことにした。
「楽しそうな職業だなと思いました。論理性が大事だという情報を見て、自分は理屈っぽいところがあるし向いているかなと」
関西大学では政策創造学部に入ったが4年間みっちりと法曹について勉強し、神戸大学法科大学院に進んだ。
逃げてきた野球、湧き上がる後悔
野球と再会したのは、大学院に入学した2020年の夏。コロナ禍のオンライン授業続きでふさぎ込みそうになる中、草野球の助っ人に呼ばれた。
「僕がぼってぼてのヒットを打っただけで、見ず知らずの大人が両手を挙げて喜んでくれたんです。ああ、野球って楽しいんだなって思い出しました」
月に一回は試合に出るようになり、素振りや筋トレを再開するとみるみる腕が戻ってきた。一日何百スイングとしていた高校時代を思い出し、杉山の胸にある思いが湧き上がるようになった。
「あんな形で野球と縁を切ったままにしておくのは嫌だな」
司法試験浪人中に一念発起、ひとり静かにトレーニングを始めた。
浪人期間の1年は勉強と筋トレに没頭し、体重も68キロから80キロ台に増やした。「体を大きくしないと打てないと思って。もうペンとダンベルしか握ってなかったですね」あっさりと話す杉山の体は恵まれた天性ものではなく、分厚く積み重なった努力の結晶である。
「アホやなあ」異色の二刀流誕生
司法試験合格の通知を受け取ったのが2023年11月。そのわずか2週間後、杉山は故郷ではなく学生時代を過ごした関西で独立リーグのトライアウトに挑んだ。
「この年で落ちたら野球は諦めるつもりだったので申し込みもしていなくて。受かったあとに申し込めるのが関西独立リーグだけだったんです」
トライアウト当日、複数の球団から声をかけられた。しかし、司法修習中は兼業が原則禁止で研修所の許可がないとプレーできない。「平日の練習は無理」「土日しか試合に出られない」という条件を聞いてほとんどが手を引いた。
「でも姫路イーグレッターズだけ逆に面白がってくれて。『アホやな』みたいな反応でとってもらいました」
姫路イーグレッターズでは満足に練習に参加できなかったものの、2年間で55試合に出場し2割6分7厘ホームラン1本。途中出場が多くとも堅実な打撃で結果を積み上げた。
橋下徹氏「聞いたことないスタイル」即採用
大分に来てからの日々は、午前中に練習を終えてから昼食を取り、午後3時頃からリモートワークをするというリズム。主に企業法務を担当していて、対面も必要なため月に1回は関西に赴く。
所属する法律事務所の橋下徹代表は強くエールを送る。
(橋下徹氏)「履歴書を見た際、本業としてプロ野球選手を目指しながらサブで弁護士をする、という聞いたことがないスタイルに興味を持ちました。実際に会うととても好青年でストイックな人物でしたので、応援したいとすぐ採用を決めました。業務もしっかりと遂行しています。後悔のないよう、思う存分野球に打ち込んでもらえたら」
打席では”バットを折る”「合理的でしょ?」
今シーズンは開幕から7試合連続安打中。まだ長打は1本だからと控えめに語る杉山だが、結果は確かに出ている。その理由に耳を疑った。
「試合では”バットを折るぞ”と強く念じて打っています。折るためには体の近くで打たないといけない。体も開かないしピッチャーに向かっていける。心理学的にも身体動作的にも合理的でしょ?」
理論で思考を研ぎ澄ませた先にはセオリーと真逆の発想。その覚悟の表れとして、杉山は同じ型のバットを5本常備している。「1本折れたら2本発注します。まだ折ったことないですけど(笑)」
「ホームランは夢への架け橋」理論家が描くのは
最後に、スラッガーとしての核心に触れる質問をぶつけた。
ホームランとは何か?
「夢への架け橋ですね。ホームランを打てることが自分の価値なので」
夢は、NPBドラフト指名。しかし、大学1年で辞めてから再開まで7年間の空白があり、現在は28歳。独立リーグでは最年長に近い。
「野球歴でいえば高卒3年目、実質21歳ですから。その伸びしろを評価してもらって、代打で使えるかなと思ってもらいたい」
「高校生や大学生と違って、すぐクビになっても自分で社会に出ていけますから。球団には無責任に獲得してほしいですね(笑)」
バットと六法全書、どちらが手に馴染むかと聞くと「バットですね。六法全書は机に置いて見るものなので」と笑って即答した。
法務の論理的思考と、野球への飽くなき愛情。弁護士スラッガーは、夢へのアーチを思い描き、バットを振り続ける。
(取材:OBS・渡辺敬大)
【選手プロフィール】
杉山 幸太郎(すぎやま・こうたろう)
1997年生まれ、28歳。愛知県出身。178センチ、88キロ。右投げ左打ち。
【経歴】 愛知高校ー関西大学(途中退部)ーKD姫路ーKAL大分
【プレースタイル】 内野(一・三塁)と外野をこなすユーティリティーな長距離砲。スイングスピードは170キロ超を計測。高いミート力と選球眼を兼ね備える。
