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「配偶者が亡くなったときは、遺族年金が受け取れるはず」そう考えている人は多いでしょう。しかし、実際には対象外となるケースも少なくありません。その背景には、時代の変化に追いついていない制度の前提や、男女差の残る仕組みがあるようです。遺族年金が抱える問題点と「受給対象外」になってしまう条件について、事例をもとにみていきましょう。

“稼ぎ頭”の妻が逝去

マサヒロさん(仮名・52歳)は、妻57歳、社会人の長女24歳、大学生の長男19歳と4人で、都内の分譲マンションに暮らしています。

世帯年収は約1,300万円(夫500万円、妻800万円)です。

マサヒロさんは在宅勤務が多く、頻繁に出張がある多忙な妻よりも家事育児を担ってきました。保育園の送迎もマサヒロさんが担当していましたし、小学校の授業参観や保護者会に参加していたのもマサヒロさんです。

もしかしたら、その専業主夫のような状況をどこかで揶揄されていたかもしれませんが、妻はいつもマサヒロさんに感謝してくれていましたし、家族はそれでよいバランスだったといいます。

妻は60歳で定年退職する予定でした。夫婦で過ごす時間も増えるだろう、そんなふうに考えていた矢先、妻にガンが発覚、必死の闘病の末、残念ながら亡くなってしまいました。

現実感のないまま葬儀などを済ませたマサヒロさん、強烈な虚無感に苛まれたものの、子どもたちのためにも、なんとかこれからの生活に目を向けなければと身を奮い立たせます。

そして、遺族年金の手続きのため年金事務所に問い合わせたところ、まさかの返答が。

「申し訳ございません、遺族年金の支給については対象外です……」

「えっ、遺族年金がもらえないって……なんでですか!?」

遺族年金の仕組み

遺族年金には、国民年金に加入していた人が亡くなったときに支給される「遺族基礎年金」と、厚生年金に加入していた人が亡くなったときに支給される「遺族厚生年金」があります。

遺族基礎年金の受給対象者は、故人に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。「子」とは、次のいずれかの条件に該当する場合をいいます。

18歳になった年度の3月31日までである 20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態である

マサヒロさんが「遺族年金ゼロ円」の理由

遺族厚生年金の受給対象者は、故人に生計を維持されていた遺族のうち、「配偶者または子」「父母」「祖父母」の順で、優先順位の高い遺族から支給されます。「子」の条件は遺族基礎年金の場合と同じです。

マサヒロさんの子どもは19歳なので、遺族基礎年金は受給対象外となります。

そして、遺族厚生年金についても、配偶者ではありますが、受給対象外です。

共働きで「故人に生計を維持されていた」とはいえないからでしょうか。いえ、生計維持の収入要件は「前年の収入が850万円未満」であり、マサヒロさんは満たしています。

では、なぜ遺族基礎年金に加えて、遺族厚生年金についても支給対象外なのでしょうか。

遺族厚生年金の受給要件は、夫が死亡した場合と妻が死亡した場合で異なります。

遺族厚生年金の受給対象者のうち、優先順位が一番高いのは「配偶者または子」ですが、配偶者が夫の場合、55歳以上でなければ支給対象とはならないのです。そして、支給対象だったとしても、受給開始は60歳以上です。ただし、夫が55歳未満の場合でも、18歳未満の子がいれば、子に対して遺族厚生年金が支給されます。

ちなみに、夫の死亡により妻が遺族厚生年金を受給する場合、妻の年齢制限はありません。

マサヒロさんの場合、自身は52歳、子どもは19歳。よって、遺族基礎年金、遺族厚生年金、どちらも対象外になってしまうのです。

そんなに期待していたわけではないが、1円も受け取れないとは……。

家事も育児も担い、妻と協力してやってきたマサヒロさんだけに、なんだか納得がいきません。

遺族年金は改正予定

遺族年金制度は、「夫が外で働き、妻は専業主婦」という家庭を念頭に置いていて、夫を亡くした妻を支援する側面が強い制度です。しかし、共働き世帯の増加や女性の社会進出に伴い、時代にそぐわない制度となってきています。

遺族基礎年金は元々、一定の要件を満たす「子どもまたは妻」に支給されるものでした。それが2014年の改正で、支給対象者が「子どもまたは配偶者」に拡大され、夫にも支給されるようになっています。

さらに、2025年6月には「年金制度改正法」が成立し、遺族年金制度が大幅に見直され、男女差が解消されることになりました。

遺族年金の変更点は?

現在の遺族厚生年金の制度は、子どもがいない場合、

女性30歳未満で死別した場合→5年給付 女性30歳以上で死別した場合→無期給付 男性55歳未満で死別した場合→給付なし(今回のマサヒロさんの状況) 男性55歳以上で死別した場合→60歳から無期給付

となっています。

これが、男女共通で

60歳未満で死別した場合→原則5年給付 60歳以上で死別した場合→無期給付

となります。給付のための収入要件(収入850万円未満)は撤廃され、有期給付である代わりに、新たに導入される有期給付加算により、年金額は現在の1.3倍になる予定です。

2028年4月から段階的に実施されていく予定となっています。

“万が一”への備えは元気なうちに

遺族年金制度については、改正が進むものの、当面は過渡期が続きます。公的制度だけに頼らず、必要に応じて貯蓄や保険で備えましょう。

「共働きだから安心」と考えるのではなく、どちらかに万一のことがあった場合の生活や収入について、夫婦で具体的に話し合っておくことが大切です。

石川 亜希子
CFP