記事のポイント
ウォルマートがビューティーブランドを拡充し、コスメの新たな購買拠点として存在感を高めている。
ターゲットが売上減少や批判に直面するなか、ウォルマートが顧客流入とブランド参入を獲得している。
オムニチャネル戦略や即時配送を強化し、Amazonと競合する利便性を高めている。


ターゲット(Target)が失速するなか、ウォルマート(Walmart)はビューティーの目的地となる機会をつかんだ。

ブルック・ハーヴィー=テイラー氏が手がけるヴィーガンビューティーブランド、パシフィカビューティー(Pacifica Beauty)はすでにターゲット、Amazon、アルタビューティー(Ulta Beauty)などの主要小売店で販売されていたが、顧客からは「お気に入りの化粧品店でまだ彼女のブランドを見つけられない」と声が寄せられていた。

その店とは、ウォルマートである。

「ウォルマートで買いたいお客様もいらっしゃいますが、私たちは出品していない」と、パシフィカビューティーの創業者でチーフクリエイティブオフィサーのブルック・ハーヴィー=テイラー氏は語った。

「ここ1年半ほどで、顧客の意識がはっきり変わってきた。『ビューティー商品を探すならウォルマートがいい。そこでビューティー商品を買っている』と話す人が顕著に増えている」。

3月、パシフィカビューティーは香水、スキンケア、ヘアケアのラインをウォルマートで発売し、同月末までに2000店舗への展開を完了した。同様の動きを見せているビューティーブランドは、このブランドだけではない。

2024年に就任したウォルマートのビューティー担当バイスプレジデント、ヴィニマ・シェカル氏のもとで、ウォルマートは4月に一部店舗で「ビューティーバー」を導入すると発表した。

ウォルマートはビューティー戦略についてのコメントを控えたが、過去6カ月間で約60の美容・グルーミングブランドを新たに棚に追加したと明かしている。

ブランドがウォルマートを選ぶ理由



「米国人口の約90%は、ウォルマートかサムズクラブ(Sam’s Club)から10マイル(約16km)以内に住んでいる。これ以上多くの人々にリーチできる場所はない」と語るのは、ヘアケアブランドのオデール(Odele)のCEO、ザック・リーケン氏である。

同ブランドは2月、1500以上のウォルマート店舗で販売を開始した。

「我々が家庭で知られるブランドになる使命を考えると、ウォルマートとの協業は目標に一歩近づくことになる」。

ビューティー商品の強化に投資している大型量販店はウォルマートだけではない。3月、ターゲットは店内ショップ形式の「ターゲットビューティースタジオ」を発表した。

これは8月に終了予定のアルタビューティーとの提携が残す空白を埋めるものだ。

しかし、売上減少に直面しながら新たな立ち位置を模索しているターゲットとは対照的に、ウォルマートは上昇基調にあり、低価格だけでなく「美容に関する新たな発見の場」を求める消費者を取り込もうとしている。

ウォルマートは、従業員を犠牲にして低価格を実現しているとして、これまでたびたび批判を受けてきた。

米国のバーニー・サンダース上院議員は、同社が数十億ドルの利益を上げる一方で、多くの従業員がフードスタンプ(食料支援)に頼っているとして、繰り返し同社を非難している。

しかし、批判は買い物客を遠ざけてはいない。ほかの店舗で買い物できる収入層の顧客でさえ、ウォルマートを利用している。

ターゲットの苦境とウォルマートの好調な業績



同社は第4四半期の決算説明会で、もっとも大きな成長が年収10万ドル(約1500万円)以上の世帯から来ていると報告した。同四半期の売上高は前年同期比5.6%増の1907億ドル(約28兆6000億円)だった。

不透明な経済状況が富裕層の消費者を価値重視型小売店へ向かわせている可能性もあるが、リーケン氏は高所得層の来店増加について、ウォルマートの商品構成の向上、とくに美容関連商品の品ぞろえの充実によるものだと指摘する。

「新しい美容コンセプトやカテゴリーのレイアウトを見ると、まるでショップインショップのような雰囲気だ。以前よりも体験重視の売り場になっている」と同氏は語る。

「オデールのカテゴリーで見ると、ウォルマートの店舗に来る買い物客の34%は、すでに10ドル(約1500円)以上のヘアケア商品を探している。まさに我々が参入する価格帯だ」。

一方、親しみやすくも洗練されたショッピングスポットとしてイメージを確立し、「タージェイ(Tarzhay)」の愛称で呼ばれてきたターゲットは、2025年以降、多様性、公平性、包摂性(DEI)施策を後退させたことを理由にボイコットの標的となっている。

さらに2026年のはじめからは、ミネアポリス本社を含む店舗で移民税関捜査局(ICE)の捜査員の立ち入りを阻止できなかったとして、社内外から批判を受けている。

ターゲットの苦境は業績にも表れている。

同社は2025年第4四半期の純売上高が305億ドル(約4兆5750億円)となり、前年比1.5%減少したと報告した。また、店舗とオンライン双方で顧客数が4四半期連続で減少している。

変化するプレステージの定義



ウォルマートがより高級志向な美容消費者を取り込もうとしたのは今回が初めてではない。

2022年には英国の高級ビューティー小売店スペースエヌケー(Space NK)との提携を発表した。2024年にはスペースエヌケーが米国事業を売却し、2025年にはアルタビューティーが買収した。

しかしウォルマートは、スペースエヌケーのような小売店のお墨付きを得なくても、プレミアム顧客に対応できるとみられている。

「10年前は、高級品を区別する要素は流通の独占性と価格帯だった。しかしAmazonがこの分野で存在感を強めるにつれ、高級品、大衆向け、そのあいだの境界線は本当に曖昧になった」とリーケン氏は語る。

「いまは流通よりも、消費者との接点が重要になっている」。

ブランド各社は、美容にまだなじみのない層にリーチする手段としてウォルマートを見ている。

特にセフォラ(Sephora)やアルタのような専門店が近くにない地域では、意味が大きい。

2026年1月時点で、ウォルマートは全米に5200以上の店舗を展開している。アルタは米国に1500以上、セフォラは北米に700以上の店舗を持つ。ターゲットの店舗数は米国で約2000である。

「ウォルマートを通じて、我々は非常に幅広く多様なビューティー消費者にリーチできると考えている」と語るのは、オーストラリアのセルフタンニングブランド、バリボディ(Bali Body)のCEO兼創業者ローラ・ウーステルロー氏である。

同ブランドは2月、約2900のウォルマート店舗で販売を開始した。

「初めてセルフタンニング商品を試す若い顧客から、手頃な価格で信頼できる商品を求める買い物客まで含まれる。アルタやターゲットのような小売店はすでにビューティーカテゴリーに深く関わる顧客を引き寄せる傾向があるが、ウォルマートではビューティー愛好家だけでなく、この分野に初めて触れる一般消費者にもリーチできる」。

オムニチャネル戦略とAmazonへの対抗



ウォルマートは新しい消費者の購買行動にも適応している。

10月にはOpenAIとの提携を発表し、消費者がChatGPT上から直接ウォルマートの商品を購入できる仕組みを導入した。4月には、オンラインで注文して店舗で受け取るサービスを改善するため、650以上の店舗を改装する計画も発表している。

「我々の顧客はオムニチャネル体験を非常に重視している。デジタル体験と店舗体験が交わる部分が極めて重要で、ウォルマートはそこを非常にうまく実行している」とハーヴィー=テイラー氏は語る。

「人々は店舗で商品を見つけて確認する。しかし店舗で買わないこともある。その後、自宅に帰って次に食料品をカートに入れるとき、『そうだ、ビューティー商品もあった。まとめて買える』と思い出す。そういう意味で、ウォルマートはその点でAmazonと直接競争している」。

こうしたデジタル面での強化は重要になる可能性が高い。ターゲットやウォルマートのような量販店は、Amazonのようなオンラインプラットフォームに市場シェアを奪われつつあるからだ。

Amazonは最近、シャーロットティルブリー(Charlotte Tilbury)のような高級化粧品ブランドや、バスアンドボディワークス(Bath&Body Works)のような大衆向けブランドをビューティーラインアップに追加している。

投資銀行TDコーエン(TD Cowen)のレポートによると、Amazonのビューティー市場シェアは2024年の10%から2030年には15%まで拡大すると予測されている。これはウォルマートに次ぐ規模となる見込みだ。

結果、ウォルマートとターゲットの合計シェアは2024年の26%から2030年には25%へとわずかに低下するとみられている。

「5分以内配達」と店舗体験の課題



高級志向の顧客を獲得するには、ブランドの選定だけでは不十分である。利便性もまたプレミアム価値のひとつになり得る。

たとえばウォルマートが2020年に会員プログラム「ウォルマートプラス(Walmart+)」で導入した当日配送などである。

9月には当時の米国プレジデント兼CEOのジョン・ファーナー氏(2月よりウォルマート社のプレジデント兼CEO)が、5分未満で配送する記録的なスピードを達成したと発表した。

「高所得層の買い物客は、そうした迅速な配送の利便性にお金を払う」と語るのは、コアサイト(Coresight)のグローバルリサーチ責任者ジョン・マーサー氏である。

大型量販店で棚に商品がどんどん並んでいて、なかなか手に入らないという状況に多くの顧客が不満を抱いているなか、配送の手軽さは特に魅力的だ。

「デジタルでは迅速配送のおかげでフリクション(商品を購入する上で感じる面倒くささ)が減っているが、店舗ではむしろフリクションが増えている。特にターゲットでは商品を施錠するケースが多い」とマーサー氏は語る。

「セルフレジも防犯対策の柵もフリクションを生む。ターゲットだけでなく小売全体で、オンラインでフリクションを減らしたのと同じように、店舗でもフリクションを減らし、バランスを取る必要がある」。

[原文:Beauty Briefing: How Walmart became a beauty destination]

Emily Jensen(翻訳、編集:藏西隆介)