健康診断では"異常なし"なのに…医師が警告「更年期のだるさ」「疲れ」を引き起こす"隠れ酸欠"の落とし穴
※本稿は、梶尚志『更年期の不調の原因は栄養不足が9割』(あさ出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■だるさの原因は「見えない酸欠」
鉄は、体にとって欠かせないミネラルのひとつです。鉄というと、「食事からとるのが難しそう」「レバーを食べなきゃいけないんでしょ?」「貧血の人が飲むサプリ」といったイメージがあるかもしれません。
でも、鉄は年齢を問わずすべての女性にとって大切な栄養素であり、とくに更年期の不調とも深く関わっています。
鉄は、体のすみずみに酸素を届けるために欠かせない栄養素です。体の中では、鉄が赤血球の中にある「ヘモグロビン」の重要な構成成分で、このヘモグロビンが、肺で取り込んだ酸素を全身に運んでいます。
つまり、鉄が足りなくなると、体の中が酸欠のような状態になってしまうのです。酸素が行きわたらなければ、内臓の機能が十分に働くことができず、その結果、だるさの原因にもなります。また脳の酸欠が頭痛、めまいを引き起こし、その他動悸、冷え、息切れなど、さまざまな不調が起こりやすくなります。
体のエネルギーの元となる「ATP(アデノシン三リン酸)」をつくるときにも鉄が必要です。鉄がしっかり足りていれば、ATPの産生がスムーズに行われ、疲れにくい体を保つことができます。
■健康診断で安心してはいけない
健康診断で「貧血ではありません」と言われたとしても、体の中に蓄えられている鉄が足りていないことがあります。

この蓄えられている鉄のことを“貯蔵鉄”といい、フェリチンというタンパク質の値(血清フェリチン濃度)を調べることで、ある程度わかります。
ヘモグロビンの数値が正常でも、フェリチン値が低ければ「隠れ貧血」の可能性があるのです。
女性は、思春期に月経が始まってから体の成長に鉄が使われ、更に妊娠・出産・授乳などを通じて、長いあいだ鉄を失い続けています。
とくに月経時の出血が多い人や、過度なダイエットをしている人、子宮筋腫による過多月経がある人は、鉄の喪失がさらに多くなります。
でも、多くの方が「自分は鉄不足かもしれない」ということに気づいていません。なぜなら貧血の状態に慣れてしまって、不調があっても、それが鉄不足によるものだとは思わないまま過ごしている方が少なくないのです。
更年期になると、閉経によって出血はなくなりますが、それまでに鉄をしっかり蓄えてこなかった場合、その影響が閉経後もさまざまな形であらわれやすくなります。
私のクリニックでは、更年期を迎える前の段階から鉄の補充を始め、年齢に応じたケアを行っています。
■鉄は「肌・メンタル」も支えている
鉄は、酸素を運ぶだけでなく、筋肉の維持やコラーゲンの合成にも関わっています。年齢とともに落ちやすくなる筋力や肌のハリを保つためにも、鉄は欠かせない栄養素です。
「年齢のせい」と見過ごされがちな不調も、鉄をしっかり補うことで、驚くほど元気を取り戻す方がたくさんいます。
鉄は、気持ちの安定、肌の若々しさ、薬の効き方にも関わっている、大切な栄養素です。気分が落ち込みやすい、イライラしやすい……そんな心の不調の背景に鉄不足があることも。
神経の伝達に必要なホルモンは鉄を使って作られるため、鉄が足りなくなると気分の波が大きくなりやすくなります。
月経前になると気持ちが不安定になったり、ささいなことで人に当たってしまったりすることはありませんか? こうした変化は、若い女性だけでなく、更年期以降の世代にも起こります。
さらに、鉄は「カタラーゼ」という酵素の材料にもなります。この酵素は、肌の「サビ」を防いで、シミやくすみの予防をサポートしてくれる存在です。

鉄が不足すると、酵素の働きが弱まり、肌の老化が進みやすくなります。薬の代謝にも鉄は関わっていて、足りていない状態では、薬が体の中でうまく処理されず、副作用が出やすくなることもあります。
「なんとなく薬が合わない」と感じたとき、その裏に鉄不足がひそんでいるかもしれません。
■傷が治るのは亜鉛のおかげ
亜鉛は、体の中でさまざまな役割を果たしているミネラルです。女性ホルモンのバランスを整えるのに役立つほか、タンパク質の合成や細胞の分裂、抗酸化作用、生殖機能、免疫機能のサポートなど、幅広い役割を担っています。

私たちの体の中では、日々、細胞が少しずつ傷つき、古くなったものが新しいものへと入れ替わっています。とくに皮膚や髪、爪、口の中の粘膜などは、紫外線や摩擦、乾燥といった刺激を受けやすく、毎日ダメージと修復をくり返している部分です。
たとえば、擦り傷が1〜2週間で自然に治るのは、傷ついた細胞が新しい細胞に置き換わるしくみが働いているからで、この「修復と再生」の過程を支えているのが、亜鉛というミネラルです。
なかでも口の中の粘膜は、皮膚よりもデリケートで修復サイクルが早く、熱いものを食べてやけどしても2〜3日で治るのは、亜鉛がしっかり働いているおかげです。
外からの刺激を受けやすい口腔内では、とくに亜鉛が多く使われています。そのため、不足すると口内炎ができやすくなったり、できた傷が治りにくくなったりします。また、舌が荒れたり、味がわかりづらくなるなどの味覚異常が起こることもあります。
■薄毛は「土壌」の亜鉛不足
年齢とともに免疫力は少しずつ下がっていきますが、免疫力の維持にも、亜鉛は関係しています。
免疫細胞がうまく働かず、炎症がおさまらなかったり、ダメージを受けた細胞の修復が進みにくかったり……。そうした不調の背景にも亜鉛不足が考えられます。
肌や髪の健康にも、亜鉛は大切です。
皮膚の表面では、細胞が日々生まれ変わっています。この「ターンオーバー」(生まれ変わり)がスムーズに行われるには、亜鉛の助けが必要です。不足すると、このターンオーバーがうまくいかず、肌荒れやたるみ、くすみ、小ジワといった変化があらわれやすくなります。

また、髪の毛を植物に例えると、頭皮という“土壌”に亜鉛などの栄養素が足りない場合、植物同様育ちにくくなります。実際、男女問わず、脱毛や薄毛のある方が亜鉛不足であることは少なくありません。
さらに、メンタル面ではうつ症状との関係も指摘されていて、亜鉛をとることで改善が見られたという研究もあり、更年期にありがちなイライラや不安、気分の落ち込みなども改善される可能性があるのです。
Q.亜鉛は心身の健康のほか、美容にも大きな効果をもたらす栄養素とのこと。できるだけ食品からとりたいのですが、おすすめの食材・手軽な食べ方を教えていただけますか?
A.亜鉛の多い食材として有名なのは牡蠣ですが、頻繁に食べられないのでその他の食材からもとるよう意識していきましょう。レバーや丸ごと食べる魚(煮干しなど)、貝類、赤身肉、卵・納豆・海藻・ナッツなどを日常の食事に取り入れるのがコツです。
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梶 尚志(かじ・たかし)
梶の木内科医院院長
1964年生まれ、富山県出身。富山医科薬科大学(現富山大学)医学部医学科卒業。医学博士。総合内科専門医、腎臓専門医として患者を診察する中で、通常の診察では解決できない「体の不調」に栄養学的なアプローチから治療と生活指導を行う。著書に『え、私って栄養失調だったの? その不調は病気でなく状態です!』『え、うちの子って、栄養失調だったの? その不調は食事で改善します!』(みらいパブリッシング)がある。
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(梶の木内科医院院長 梶 尚志)
