世の中には「身長が高い方がモテる」「身長が低いと社会的に不利」といった考えを持っている人も多く、わざと脚の骨を折って身長を伸ばす美容整形手術である「骨延長術(イリザロフ法)」を受けるケースも増えています。ところが、骨を折る骨延長術にはリスクが大きいとのことで、ブリストル大学の解剖学教授であるミシェル・スピアー氏が骨延長術の仕組みやリスクについて解説しました。

Why some people are purposefully having their legs broken by cosmetic surgeons

https://theconversation.com/why-some-people-are-purposefully-having-their-legs-broken-by-cosmetic-surgeons-265015



◆骨延長術を受ける人が増加中

骨延長術は1950年代にソ連の整形外科医であるガブリル・イリザロフが開発した、治癒が遅れた骨折や先天性の四肢変形を治療する方法が基盤となっています。美容目的で骨延長術を受ける人は全体で見ればまれであり、手術費用も数百万円と高額ですが、近年ではアメリカ・ヨーロッパ・インド・韓国などの専門クリニックで需要が増加しているとのこと。

一部の民間クリニックでは、美容目的で骨延長術を受ける人の数が医学的に必要な手術の件数を上回っているといわれています。これは、身長に関する社会的な理想を達成するために、リスクが高い外科的処置を受けることをいとわない人が増えているという文化的な変化を反映するものだと、スピアー氏は指摘しました。



◆骨延長術の仕組み

一般的な骨延長術では、外科医が大腿(だいたい)骨または脛骨(けいこつ)を切開します。この際、既存の骨の健康状態を維持しつつ新しい骨が成長できるように、骨の血液供給と骨の外側を覆う骨膜をそのまま残すように注意が払われます。

そして、切断された骨は体外に突き出る外部フレームに接続され、毎日微調整して骨の両端を引き離すという処置が行われますが、近年では骨自体の内側に伸縮性のロッドを挿入する方法も導入されているとのこと。骨の内部にロッドを埋め込むことで、患者は体外フレームの装着による不快感から解放され、傷口からの感染症リスクも軽減されますが、体外フレームよりもかなり高価な上にすべての患者に適しているわけではありません。

体外フレームの見た目はこんな感じ。



by @drdonghoonlee

体外フレームを使うか伸縮性のロッドを使うかにかかわらず、その後のプロセスは同じです。外科医は短い治癒期間を空けた後、デバイスを調整して骨の両端を非常にゆっくりと、通常は1日当たり約1mmずつ離していきます。このゆっくりとした分離により、体は新しい骨を作る「骨形成」によって隙間を埋めようとし、同時に筋肉や腱(けん)、血管、皮膚、神経などもこれに応じて伸びていきます。

1回の骨延長術では、数週間〜数カ月間で5〜8cmほどの身長増加が期待できます。一部の患者は大腿骨と脛骨でそれぞれ1回ずつ骨延長術を受けることで、合計12〜15cmの身長増加を目指すとのこと。



◆骨延長術のリスク

脚の骨を折ってゆっくり引き延ばすという骨延長術は、非常に体への負担が大きい美容整形手術であり、当然ながらさまざまなリスクが存在します。骨延長術の根本的な課題は、「引き離されている骨を体が絶えず修復しなくてはならない」という点にあるとスピアー氏は指摘しています。

骨が折れた場合、骨折した部分の周囲に急速に血栓が形成され、骨形成を行う骨芽細胞は骨折部を安定させるための仮骨(軟骨)を作ります。通常であれば、骨芽細胞が数週間ほどかけて仮骨を新しい骨に置き換え、徐々に骨を再構築することで強度と形状を回復させます。しかし、骨延長術では骨折した部分が徐々に引き離されていくため、体の修復プロセスが絶えず中断されてしまい、仮骨の硬化が遅れてしまいます。

また、骨延長術は非常に強い痛みを伴うことでも知られており、患者はしばしば強力な鎮痛剤を必要とします。運動機能を維持するための理学療法も不可欠ですが、たとえ手術が成功したとしても患者には筋力低下や歩行障害、慢性的な不快感といった後遺症が残る場合があるとのこと。



骨延長術は回復までに数カ月、時には1年以上かかる長期的な手術である上に、その期間の大半を移動が制限された状態で過ごすため、患者に対する心理的な負担も大きくなります。特に、手術によって数cm身長が伸びたものの期待していたほど自信が向上しなかった場合、うつ状態になったり手術を後悔したりする患者もいます。

筋肉や腱も本来の能力を超えて伸長を強いられるため、回復後も硬直した状態が続く可能性があります。特に神経は骨と異なり、長距離にわたって再生することができないため、安静時の6〜8%以上伸びると神経線維が損傷し、機能不全に陥るリスクがあるとのこと。患者は処置中にチクチクする感じやしびれ、焼けるような痛みを感じることが多く、神経損傷が永続的なものになる可能性もあるとスピアー氏は解説しています。

さらに、数カ月間にわたって関節が固定されることにより、関節にかかる力や体重の分散が変化するため、関節が硬直したり関節炎を発症したりするリスクもあるそうです。

スピアー氏は、「美容目的の骨延長術の増加は、美容外科におけるより広範な傾向を物語っています。つまり、医学的な必要性がない人々に、ますます侵襲性の高い手術が提供されるようになっているのです。理論上は、誰でも数cmほど身長を伸ばすことができますが、実際には数カ月にもわたる骨折や脆弱(ぜいじゃく)な新生組織、過酷な理学療法、そして常に続く合併症のリスクを意味します。医療上のニーズがある人にとって、その恩恵は人生を変えるほどのものです。しかし、身長を少し伸ばしたいだけという人にとっては、数カ月にわたる痛みと不安に耐えることが本当に価値があるのか​​という疑問が残ります」と述べました。