『おとなの週末Web』は、手料理の魅力も紹介しています。中でもお酒好きなら、お供になる肴にもこだわりたいところ。自宅で作った様々な料理で「おとなの週末」を楽しんでいる年金生活の元男性編集者が、二十四節気に合わせ、自慢の酒肴を紹介します。連載第7回の「春分」編「「ゆで卵の殻」を一瞬できれいにむく「スゴ技」…たったひと手間で全然違う「煮卵」おつまみレシピ」に続く「清明」編をお楽しみください。

「春キャベツの浅漬け鰻屋ふう」の作り方

桜前線北上中の春、ニッポン。古くからの生活暦・二十四節気では「清明」と呼ばれる時期となります。今年の場合は、4月4日〜19日にあたり、大辞泉によれば、「天地がすがすがしく明るい空気に満ちる」とあります。まさに春爛漫の頃です。

69歳のオイラ、すべてに鈍感なジジイとなってしまいましたが、春の息吹は至るところで感じております。

たとえば、八百屋の店先に並ぶ春キャベツ。巻きがゆるく、色も黄緑色っぽいのが特徴ですが、葉のやわらかさと、食べたときの甘味は、いつものキャベツとはまったくの別物です。

いつものキャベツ(夏キャベツ)は巻きがしっかりしていて、葉は薄い緑色、というかキャベツそのものの色ですよね。生でもおいしいのですが、加熱するほどに甘みが増すらしく、煮込み調理に適しているとのこと。ロールキャベツがおしいそのはそういう理由だったのですね。(参考文献/カゴメ株式会社VEGEDAY「野菜の栄養・効果」より)

対して春キャベツは巻きがゆるく、色も黄緑色で葉がやわらかでみずみずしい。まさに浅漬けのためのようなキャベツだったのです。以来、春から初夏の間、オイラはキャベツの浅漬けを春キャベツで作るようになりました。

【仕込み編】

「春キャベツの浅漬け鰻屋ふう」の作り方は簡単です。使う野菜は、春キャベツ、きゅうり、大葉。これらを刻んで、大きめのポリ袋に入れてから、粗塩、刻み昆布であえるだけ。

浅漬けなので1時間もおけば味もなじみます。そのうえで、「鰻屋ふう」に迫るには、茎わかめの梅酢漬けを添えたいもの。ただし、梅酢など特別な調味料が必要なため、市販のものでもよいと思います。オイラの作り方をご紹介いたします。

1)春キャベツの葉7〜8枚を洗い、水けをきる。※重さでは200〜220gほどです

2)春キャベツの葉は、芯を取り除き食べやすく切る。※まず半分に切って、それを半分に切るくらいです。あまりこまかく刻まないほうが仕上がりがきれいです。

3)きゅうり1本はよく洗い、両端のヘタを落とし食べやすく切る。大葉4〜5枚はよく洗い、軸を取り、こまかく細切りに刻む。いずれもキッチンペーパーで水けを取っておく。

4)3〜4センチ角の昆布をこまかく細切りに刻む。※10分くらい水にひたしてから刻むと切りやすくなります。

5)付け合わせ用に、市販の茎わかめ梅酢漬けをこまかく細切りに刻んでおく。※市販の湯通し茎わかめ(生食用)から作る場合は、こまかく細切りにしたうえで、梅酢に一晩浸け込んでおきましょう。そのうえで、水けをきって添えましょう。なお、オイラは、梅干しの浸け汁を梅酢がわりに使っています。

【調理編】

1)大きめのポリ袋かジップロックなどの保存袋に、食べやすく刻んだ春キャベツ、きゅうり、大葉を入れ、粗塩をまぶす。※粗塩は5gほどです。春キャベツの葉7〜8枚は200〜220gなので、葉の重さに対して2.5%ほどの塩の量となります。お好みで加減を。 粗塩を入れたら手で混ぜ合わせる。塩が全体になじんだら、刻んだ昆布を加え、軽く混ぜ合わせる。

2)〜4)混ぜ終わったら、ポリ袋かジップロックのままで1時間ほどおく。皿に盛り付け、茎わかめ梅酢漬けを添えて、出来上がり。

※すぐに食べないときは、ポリ袋、保存袋の空気を抜いた状態で冷蔵庫に保存しましょう。経験上、3日以内に食べきりましょう。

鰻屋で待つ間の「キャベツの浅漬け」がうまい

「あ〜、キャベツの浅漬けが食べたくなった。じゃ、鰻のKKに行くか」

というのが、オイラの春爛漫の頃の行動パターンです。謎のボケ行動ではありません。なぜ、春キャベツを見ると、鰻屋へ行きたくなるのかーー。はい、これから順を追ってご説明いたします。

オイラは、大の鰻好きです。好きなものを順位づけすると、鰻→寿司→すき焼きとなります。 なぜ、鰻が1位なのか。それは、鰻といえば蒲焼きだから。家では絶対に作れない、ありつけないものだからです。

寿司も大好物ながら、握り寿司とは限りません。のり巻き、ちらし寿司、いなり寿司とくれば、おふくろの味でもあります。すき焼きも、家のごちそうのひとつ。お父さんが案外頑張るメニューかもしれません。

ところが、鰻の蒲焼きとなるとそうはいきません。 知る限りですが、家で蒲焼きを「普通」に作るのは、鰻の養殖で有名な静岡の浜松の人ぐらいらしいですよ。なので、ときどき「鰻切れ」を起こすと、鰻屋に足が向きます。とくに焼いているときのタレが焦げるような独特のにおいをかいでしまうと、店の中に吸い込まれてしまいます。

鰻屋の唯一の難点は、鰻重であろうが、白焼きであろうが、注文してからかなりの時間を待つことです。裂いて蒸して、そのうえで、焼くのですから時間がかかるのも当然です。

オイラの愛読書美味しんぼ』の1シーンには、「まっとうな鰻を食べるのに時間がかかるのは承知している」旨、フキダシに書かれていた記憶があります。

そんな時間を潰してくれるのが、鰻屋のお品書き。「とりあえず、ビールと肝焼き」はお約束でしょうね。鰻を卵焼きで巻いた「う巻」を頼む方もいらっしゃると思いますが、肝焼き→う巻→鰻重では、たんぱく質ばかりじゃないですか。

そこで先人は考えたのでしょう。東京・神田に本店のある老舗の鰻屋KKには、そんな食べる側の心理をついた人気メニューがあるのです。その名も「キャベジン」。胃腸薬ではなく、キャベツの浅漬けです。

じつは、キャベツときゅうりの浅漬けなのですが、キャベツ率は90%ほど。ほぼキャベツの浅漬けと言って間違いないでしょう。こいつがたまらなくうまい。正確にいうと、刻んだ大葉も入っていますし、付け合わせに真っ赤な茎わかめも添えられています。梅酢味です。

こんなキャベツの浅漬けをつつきながらながら、ビールとともに鰻を待つ時間は至福のひととき。「キャベジン」はかくも偉大な鰻屋の一品であり、オイラの条件反射行動である「キャベツ→鰻」に結びついていたということです。

鰻の老舗、神田きくかわの「キャベジン」

この「キャベジン」、老舗KKの都内にある支店(日比谷、上野毛)でも提供されていて、値段こそ異なるのですが、お味は一緒。じつに完成度の高い鰻屋の一品なのです。それゆえ、夏も春も安定の味わい。おそらくは、通年出回るキャベツで作っているのではないでしょうか。

「こいつをやわらかな春キャベツで作ったら、さぞうまいのでは……」

と、ジジイに妄想が芽生えたのは、10年ほど前です。ちなみにキャベツは1年中ありますが、通年で出回る夏キャベツと、春に出回る春キャベツ(新キャベツともいう)とでは、実際、種類も産地も異なるのだそう。

…つづく「「ゆで卵の殻」を一瞬できれいにむく「スゴ技」…たったひと手間で全然違う「煮卵」おつまみレシピ」では、煮卵のレシピとともに、圧倒的にゆで卵の殻がむきやすくなる、超簡単なひと手間を紹介しています。

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文・写真/沢田 浩

さわだ・ひろし。書籍編集者。1955年、福岡県に生まれる。学習院大学卒業後、1979年に主婦と生活社入社。「週刊女性」時代の十数年間は、皇室担当として従事し、皇太子妃候補としての小和田雅子さんの存在をスクープ。1999年より、セブン&アイ出版に転じ、生活情報誌「saita」編集長を経て、書籍編集者に。2018年2月、常務執行役員パブリッシング事業部長を最後に退社