漫画家・楠本まきデビュー40周年ーー軌跡を辿る展覧会が示した“唯一無二のデカダント”

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 現在、東京・ヴァニラ画廊にて、漫画家・楠本まきのデビュー40周年を記念する展覧会「D is for Decadence ~Maki Kusumoto 40th anniversary 1984-2024~」が開催中だ(2025年1月13日[月・祝]まで)。

【写真】会場の様子

 楠本まきは1984年、「週刊マーガレット」にてデビュー。1988年に連載開始した『KISSxxxx』をはじめ、『T.V.eye』、『Kの葬列』、『致死量ドーリス』、『赤白つるばみ』など、この40年のあいだに彼女が生み出した珠玉の作品群は、世代を越えて数多くの読者を魅了し続けている。

■白と黒のキアロスクーロが織りなす唯一無二のデカダント

 さて、今回の展覧会は、タイトル通り、楠本まきの「Decadance(デカダント)」な面に焦点を当てたもの(それゆえ、楠本作品の中でもデカダン色の強い『T.V.eye』と『Kの葬列』の原画の展示がメインとなっている)。

 また、「Death(死)」、「Delusion(思い違い)」、「Decay(腐敗)」、「Disobedience(不服従)」……といった、「D」で始まる言葉をキーワードにしてそれぞれの作品を分類。いずれの作品の原画も、アナログならではの美しい描線と、激しい白と黒のキアロスクーロ(明暗対比)が圧巻である(原画の他、エッチングの新作なども展示)。

 ちなみに、「デカダント」という言葉は、通常、「退廃」や「堕落」(あるいは「虚無」)と訳されることが多いのだが、アートの文脈においては、「耽美的」、「唯美的」といった意味合いで使われる場合が少なくない。むろん、楠本作品におけるデカダントもおもに後者を意味しているのだろうが、個人的には、さらにもう1つ別の意味を付け加えてもいいのではないかと思っている。

 それは、既成概念にとらわれないある種のパンクスピリット――ある種の反骨精神だ。

 楠本まきの作品――中でも『赤白つるばみ』(と、そのスピンオフである『赤白つるばみ・裏』)を読めば一目瞭然だが、彼女は常にマイノリティの側に寄り添って物事を考え、社会的に弱い立場にある者たちを追い詰めようとしている何ものかに向かって中指を立てている。これをパンクといわずして何をいうのだろう。

 誤解を恐れずにいわせていただければ、そうした反骨精神――呼び方はパンクでもデカダントでもなんでもいいのだが――がなければ、楠本まきの漫画は、一部でカルト的な人気を博すのみのマイナーポエットで終わっていたかもしれない。しかし、実際はそうなっていないところを見ると、やはり彼女が描く漫画には、多くの人々の心に響く普遍的な魅力(力強いメッセージ)があるということではあるまいか。

 楠本は、『赤白つるばみ』の「あとがき」でこう書いている。

誰もが違っているということをごく当たり前と考え、違っているということを理由に誰も理不尽な扱いを受けることのない、ごく当たり前の世界は、今のところごく当たり前ではなく、不断の努力がなければ達成する以前に取り上げられてしまうのだ。私にできる努力として、この作品はある。~『赤白つるばみ』下・楠本まき(集英社)より~

■会場で流れている音楽も必聴

 なお、今回の展覧会の会場では、楠本と親交のあるミュージシャン――ヤマジカズヒデ(dip,yapoos)と森川誠一郎(Z.O.A,血と雫)によるオリジナルの音源が流されている。かつてトランスレコード(後のSSE COMMUNICATIONS)系のバンドにハマり、『KISSxxxx』をリアルタイムで愛読していたというような世代の人たちにとっては、嬉しいサプライズといえよう。

(島田一志)