この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。小売業者がホリデーシーズンに向けてメタバース戦略の運用を開始しているなか、バーチャル店舗は多くの小売業者が選択するフォーマットとなっているようだ。Jクルー(J.Crew)は11月初め、体験型コマースプラットフォームのオブセス(Obsess)と提携し、今夏に開設したメタバース店舗のホリデーバージョンをオープンすると発表した。11月には、美容品ブランドのロクシタン(L’Occitane)も、プロバンス地方のフレンチアルプスのシャレー(山小屋)を模したホリデーショップをメタバース内に開いた。ブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)もまた、旗艦店を3Dで再現したメタバース店舗をこのホリデーシーズンに復活させると発表した。

Jクルーのホリデーシーズン向けバーチャル店舗

ブランド各社はこの3年間、ホリデーシーズンのマーケティングキャンペーンにさまざまなメタバース体験を取り入れてきた。いくつかのブランドは、バーチャル試着体験やインタラクティブなチャレンジを作ったり、ユーザーがバーチャル商品を共同制作する機会を提供するなどしてきた。しかし、このホリデーシーズンは、より多くのブランドが、メタバース店舗を通じて、店舗内ショッピングの楽しさをデジタルの世界に持ち込む方法に投資している。

依然としてメタバースに高い関心を寄せるブランド

「消費者の共感を呼んでいるのは、メタバースという名前ではなく、利便性やカスタマイズの方だ」と、ミシガン大学(The University of Michigan)のマーケティング教授で『フォー・ザ・カルチャー(For The Culture)』の著者であるマーカス・コリンズ氏は言う。「人々は自主性を望んでいる。自分たちの望む方法で、望むときに、自分の裁量で買い物ができる主体性を望んでいる」。メタバースの盛り上がりが収まった後、いくつかのブランドはメタバース戦略を縮小しはじめた。たとえば、ウォルトディズニー(Walt Disney)はメタバース戦略を計画するチームの規模を縮小し、ソーシャルメディア大手のメタ(Meta)は2019年以降、約465億ドル(約6兆8400億円)の損失を出した。しかし、バーチャル空間への関心はなおも増しつつある。メタバースプラットフォームであるロブロックス(Roblox)の第3四半期の決算レポートによると、1日の平均アクティブユーザー数は前年同期比20%増の7020万人に達した。フェンティビューティー(Fenty Beauty)やメイベリンニューヨーク(Maybelline New York)のような美容品ブランドは、ロブロックス上で没入感のある空間やアクティビティの開発を続けてきた。ロブロックスは13歳以下の子どもたちの人気を獲得したが、特定の関心分野に特化したニッチなコミュニティも存在する。メイベリンニューヨークは、バーチャルDJのカイ(Kai)とのパートナーシップにより、ロブロックス上での最新のブランドキャンペーンにおいて、同プラットフォーム上の「活気のある音楽コミュニティ」の注目を集めることを特に狙ったとプレスリリースで述べた。非営利のデータ標準化組織GS1 USでイノベーションとパートナーシップ担当シニアバイスプレジデントを務めているメラニー・ヌース・ヒルトン氏は、これらのバーチャル店舗を利用することで、ブランドはより幅広い消費者にリーチできると語る。実店舗の近くに住んでいないユーザーは、ブランド体験を十分に味わえないことが多い。「没入型体験の重要な利点は、非常にさまざまなペルソナの利用者にアピールできることだ。実店舗とデジタルを結びつけるというアイデアは、ますます関心を集めている」とヒルトン氏は話した。

実店舗の世界観を再現する

ブルーミングデールズのような一部のブランドは、旗艦店にならってバーチャル店舗のモデルを作成するという戦略を採用している。ブルーミングデールズのバーチャル店舗は、旗艦店のホリデー用ウィンドウディスプレイ、ギフト用ルーム、ビューティーバーを模しており、代名詞ともなっているチェック柄の床を使用している。クレート&バレル(Crate & Barrel)も11月、オブセスと提携して初のバーチャル店舗を作り、新しいフラグシップ店舗を精密に再現した。クレート&バレルの商品・ビジュアル・ウェブ3.0(Web 3.0)担当シニアバイスプレジデントを務めるセバスチャン・ブラウアー氏は、ファストカンパニー(Fast Company)によるインタビューで、オブセスの手法によって、バーチャル空間にあまりなじみがない高年層の買い物客でも店舗を訪れやすくなると語っている。「人々が店舗を訪れるのを好むのには理由がある。ブランドの世界に足を踏み入れ、新しい商品に出会うのが好きなのだ。これで、ニューヨークまで足を運ばなくても、誰もが旗艦店を訪れられるようになった」と、ブラウアー氏はファストカンパニーに語った。デジタルコンサルタンシー企業CI&Tの小売戦略ディレクターを務めるメリッサ・ミンコウ氏は、買い物客が実店舗で見つけられないような細かい部分を、ブランドが組み込むこともできると語る。たとえばJクルーのバーチャル店舗では、訪問者が選択肢を選ぶような質問にいくつか答えることで、その回答に基づいてホリデーのグリーティングカードを作成することができる。一方でロクシタンのバーチャル店舗では、インタラクティブなミニゲームを通じてギフトのラッピングについて学ぶことができる。「これは実店舗のプレゼンスを拡張したものであり、実店舗ではできないことが行える。バーチャル店舗は、実店舗よりもはるかに多くの人々を迎えることができる。さらに、消費者がホリデーシーズンの大混雑を嫌うことを考えると、この方法は、徒歩でのトラフィックとは異なるトラフィックを促進できる」と、ミンコウ氏は述べている。

投資回収を生み出せるか

ただし、バーチャル店舗が効果的に売上を促進することを示すデータは多くないとも、ミンコウ氏は述べる。さらに、ブランドがバーチャル店舗のようなメタバース体験に投資すると、投資回収を生み出せる可能性があるほかの分野から資金を奪うことにもなる。「これにより、ほかのルートから投資を奪ってしまう。一般的に従来のルートよりもオーディエンスが少なく、売上の可能性も小さいとわかっているルートを追い求めることになる」と、同氏は述べている。[原文:Virtual stores are taking center stage in brands’ holiday metaverse strategies] Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)Image via J.Crew