LA路上で意識不明で発見された日本人男性が死亡。ヘイトクライムを指摘する声も「事件性ナシ」の疑問
ロサンゼルス・サンペドロの日本人男性が意識不明の状態で発見された現場付近
10月、ロサンゼルスで身元不明の若いアジア人男性が意識不明の状態で発見された。所持品に日本円が含まれていたことから、日本人である可能性もあるとして、日本の複数のメディアでも取り上げられた。結果的に、男性は米当局によって日本人であることが確認されたが、それは彼が息を引き取った後のことだった。その後、日本でもアメリカでも報道は途絶えたが、彼が命を落とすことになった原因についてはいまだ謎のままである。
ロサンゼルス南部にあるサンペドロの住宅街の一角で、アジア系の若い男性が意識不明の状態で発見されたのは10月9日(現地時間)のことだった。搬送先のハーバーUCLAメディカルセンターで、男性は「外傷性脳損傷」で深刻な状況にあると診断されたが、所持品は黒いバックパックと日本の通貨のみが入った財布や携行用の衛生用品数点のみで、身元の判明ができなかった。そこで地元の公衆衛生当局は、昏睡状態の男性の顔写真を公開して情報提供を呼びかけていた。
しかし結局、男性は身元の特定がされないまま、一度も意識も取り戻すことなく13日に死亡した。身長約178センチ、体重約72キロということ以外、全くの情報がないまま亡くなった名もなき遺体は行旅死亡人リストに加えられ、「John Doe#3084」という番号が与えられた。
ロス市警から在ロサンゼルス日本領事館に「遺体の身元が判明した」と連絡が入ったのはそれから10日後のことだった。米国入国者の指紋情報データベースと照合した結果、20代の日本人であることが特定されたのだ。その後、日本領事館によって遺族とも連絡が取れ、男性は行旅死亡人リストからは除外された。
■男性死亡も残る不審点
一方で解明されていないのは、男性が怪我を負った理由についてである。ロサンゼルス在住の日本人ジャーナリストが話す。
「意識不明に陥るほどの外傷性脳損傷は、日常の事故でそうそう起きるものではありません。さらに搬送先の病院が公開した男性の写真を見ると、目もあたりも青紫色に腫れ上がっており、皮下出血しているようにも見える。
所持品からパスポートやクレジットカード、米ドルなどが全く見つかっていないことから、男性の負傷に関係のある人物が持ち去ったことも考えられます。また、現場は閑静な住宅ではありますが、周辺には若い男性が徒歩でわざわざ訪れるような場所もないため、負傷したのちに何者かに連れてこられたか、近くの住宅に出入りをした可能性を指摘する地元メディアもありました」(現地在住の日本人ジャーナリスト)
搬送先の病院は、昏睡状態のまま治療中の男性の顔写真を公開し情報を呼びかけていた
ところが、所轄のLAPDハーバーコミュニティ署は「事件性なし」との判断のもと、すでに捜査を打ち切っている。しかし、これは特別珍しいことではないという。前出の日本人ジャーナリストが続ける。
「ロサンゼルスのみならずアメリカの多くの都市では、変死事件などに対する警察の調べも日本と比べれば格段にあっさりしていて、どうみても不審な点が多いのにすぐに『事件性なし』と結論づけられることも多い。一番の理由は、犯罪が多すぎる手が回らないからです。メディアによる報道も、同じ理由ですぐに途絶えます」(同前)
2022年のデータによると、ロサンゼルスでは毎年、人口1万人につきひとりが殺人によって命を奪われている。これは東京の100倍以上の頻度である。
■続発するヘイトクライムとの関連は?
ただ、男性が意識不明で発見されたエリアは、ロサンゼルスのなかでは特別治安の悪い場所というわけではなかったという。
「サンペドロはロサンゼルスの中では治安が良いことで知られる高級住宅街で、日系企業が集まるビジネスエリア、トーランスからも程近い。男性が発見された場所は昼間なら車も多い海岸通りから1ブロック隔てただけの、見通しのよい路上です。特別警戒しないといけないような場所ではありません」(同前)
一方で、在米の日本人社会では男性を死に至らしめた原因について「ヘイトクライムだったのではないか」と疑う声もあるという。
「コロナ禍以降、アジア系に対するヘイトクライムが急増しており、カリフォルニア州立大の2021年の統計によると、前年度比で339%増となっている。『道を歩いていたら見知らぬ人に急に殴られた』といった在米日本人も珍しくなく、それほど治安が悪くない場所でも被害が起きています。
そんななか、今回の亡くなった日本人男性についても、意識不明で発見された直後からヘイトクライムの可能性を直感した人は少なくありませんでした」(同前)
身元こそ判明したものの、謎を残したままの日本人男性死亡事件。このまま闇に葬られてよいのだろうか。
文/吉井透 写真/redfin.com、ハーバーUCLAメディカルセンター