@AUTOCAR

写真拡大 (全6枚)

スポーツカーにとって変化の時代

1980年代はスポーツカーにとって変化の時代だった。1960年代に定評を獲得し、1970年代まで姿を変えず生き延びた英国製スポーツカーは、存在感を失っていた。

【画像】290万円以下のクラシック・スポーツ 1970〜1980年代 現行のAMG SLとコルベットも 全133枚

オープンカーの数は減り、グランドツアラーと呼ばれる境界線は曖昧になり、ハッチバックが若者の支持を集めた。歴史を持っていたモデルは、時代への対応に迫られた。メルセデス・ベンツ500 SLとシボレー・コルベット C4の2台は、その好例だろう。


ブラックのシボレー・コルベット C4と、シルバーのメルセデス・ベンツ500 SL

3代目となるR107型SLは、1971年に登場している。だが、1979年にモデルチェンジしたW126型Sクラスのコンポーネントを借用し、1980年にアップデート。エンジンのラインナップも見直されている。

その時点で追加されたのが、500 SL。ボンネットに納まった5.0L V8エンジンは、レーシングカーのホモロゲーション・モデル、450SLC 5.0由来のものだった。

フラッグシップとして、アルミホイールにパワーウインドウはもちろん、集中ドアロックやアルミ製ボンネットなどが標準装備された。メタリック塗装も追加費用なしで選べたほか、4シーター版のSLCもラインナップされている。

確かに、スタイリングは古びていなかった。サスペンションは、後のミディアムクラスとなるW114型譲りの構造で、リアに新開発だったトレーリングアーム式を採用。1980年代も乗り切れると、メルセデス・ベンツは考えた。

セパレートフレーム構造から脱却

アスファルト上では、モダンで落ち着いた印象を生んだ。サスペンションはソフトながら挙動は漸進的で、不安感なく連続するコーナーを巡ることができた。

ステアリングホイールは大きく、レシオはスロー。正確に反応したが、フィードバックも薄かった。スポーツ度が高いとはいえないだろう。


シボレー・コルベット C4(1984〜1996年/北米仕様)

1983年に登場したシボレー・コルベット C4は対照的。今回ご登場願ったブラックのクーペは1989年式で、Z51と呼ばれるハンドリング・パッケージが組まれ、一層シリアスに仕立てられている。

スプリングは硬く、アンチロールバーは太く、ステアリングラックは速い。低くシャープなスタンスと相まって、ドライビング体験は間違いなくスポーティだ。軽快には感じられないとしても、重心が低く、500 SLとは比較にならないほどフラットに旋回する。

この4代目のC4では、GMがユニフレームと呼んだ、セミモノコック・ボディに鋼管フレームを組み合わせた構造を採用。セパレートフレーム構造から脱却した初めてのコルベットで、歴代最大のアップデートが図られている。

キャビンが中央部の構造体をなし、高いボディ剛性で粗野な振動を抑制。欧州製の洗練されたスポーツカーへ、接近できたコルベットといえた。それでも、英国のように雨が振りがちで、舗装が傷んだ場所が多い土地では500 SLの方が親しみやすいが。

近未来感を印象付けるデジタルメーター

インテリアには、1980年代らしく先進的なデザインが与えられた。パワーシートにエアコン、パワーウインドウを標準装備。ダッシュボードにはデジタルメーターが据えられ、近未来感を印象付けた。

品質や静寂性では及ばなくても、ダッシュボードの直線的な造形や、ボタンが並ぶエアコンパネルなどの景色は魅力的。サイドシルが高くフロアは低く、乗り降りしにくいが、500 SLが保守的で古く見えてしまうことは間違いないだろう。


メルセデス・ベンツ500 SL(1980〜1989年/英国仕様)

長いボンネット内に収まるエンジンは、全世代のC3からのキャリーオーバーが中心だった。しかし、1985年にL98型と呼ばれる新しい5.7L V8エンジンが投入され、最高出力は253psへ上昇。従来より信頼性も高く、燃費効率も改善された。

今回のC4が積むのもL98型で、アメリカンV8らしく太いトルクが頼もしい。ギアを問わず、アクセルペダルを傾ければ強力に加速を始める。2速へロックすれば、鳥肌モノのダッシュを披露する。

対する500 SLが搭載するV8エンジンは、いかにもドイツ的。低回転域では特に滑らかで優しい印象だが、高回転域まで躊躇することなく吹け上がる。ハイスピード・クルージングに主眼が向けられているのだろう。

最高出力は234ps。コルベット C4と目立った違いはないが、アクセルレスポンスが鈍く、車重は120kg重く、乗り比べると遅く感じてしまう。

両車ともサウンドは聴き応えがある。市街地では穏やかな500 SLだが、回転数の上昇とともに唸りを上げる。コルベット C4は常時うるさい。心地良いメカノイズが、高負荷時には重なってくる。

普段使いに乗れるモデルとして間口が広い500 SL

サーキットを攻め込むならコルベット C4が圧倒するはず。FRP製のボディや、プラスティックが多用された内装で、1480kgと見かけより軽い車重を生んでいる。だたし、優れた動的能力との引き換えといえる、ドライバーの不便は小さくない。

日常的な場面を考えると、500 SLの質感へ惹かれる。スイッチ1つに至るまで、内装は洗練されている。積極的に運転している途中に、部品が折れるようなこともないだろう。シートポジションはサルーンのように快適でもある。


メルセデス・ベンツ500 SL(1980〜1989年/英国仕様)

コルベット C4の乗り心地は落ち着かない。路面の凹凸の存在を隠すことはない。短い旅行でも、しなやかな500 SLを選びたくなってしまう。スポーツカーとしての評価からは、少しずれているかもしれないが。

1980年代のクルマは、長距離の快適性や充実した装備などで、次の水準へ高められた。それはスポーツカーでも同様。「スポーツ」という基準ではコルベット C4の方が勝るといえるが、「カー」としての基準でいえば500 SLの方がベターだといえる。

シボレーは進化したコルベット C4を、驚くほどの低コストで提供していた。現在でも、1万8000ポンド(約289万円)の予算を準備すれば、悪くない状態の1台を探せる。500 SLの場合は、ようやく見つけても多少の修理は前提になるはずだ。

筆者なら、晴天のドライブでも駅までの友人のお迎えでも、500 SLを選ぶと思う。普段使いに乗れるモデルとして、間口が広いことは確かだ。

協力:SLショップ社、リチャード・ポーター氏

メルセデス・ベンツ500 SLとシボレー・コルベット C4 2台のスペック

メルセデス・ベンツ500 SL(1980〜1989年/英国仕様)

英国価格:4万1700ポンド(新車時)/5万ポンド(約805万円)以下(現在)
販売台数:1万1812台
全長:4580mm
全幅:1791mm
全高:1298mm
最高速度:215km/h
0-97km/h加速:7.4秒
燃費:7.1km/L
CO2排出量:−
車両重量:1600kg
パワートレイン:V型8気筒4973cc自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:234ps/4750rpm
最大トルク:41.1kg-m/3000rpm
ギアボックス:4速オートマティック

シボレー・コルベット C4(1984〜1996年/北米仕様)

北米価格:3万1568ドル(新車時)/2万ポンド(約322万円)以下(現在)
販売台数:35万8180台
全長:4534mm
全幅:1859mm
全高:1186mm
最高速度:241km/h
0-97km/h加速:6.0秒
燃費:9.2km/L
CO2排出量:−
車両重量:1480kg
パワートレイン:V型8気筒5732cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:248ps/4300rpm
最大トルク:46.9kg-m/3200rpm
ギアボックス:4速オートマティック


シボレー・コルベット C4(1984〜1996年/北米仕様)