「登録者130万人超の74歳水彩画YouTuber」柴崎春通氏が考えるオンリーワンの“優しいバズり方”【Watercolor by Shibasakiインタビュー・前編】

「Watercolor by Shibasaki」の柴崎春通氏。後ろに見えるのは登録者数100万人で贈呈される「金の盾」だ
YouTubeで、こんな動画を見たことはないだろうか。
穏やかな笑顔をした “おじいちゃん先生” が、本格的な水彩画を描いたり、誰もが使ったことのある「サクラクレパス」で絵を描いたり、視聴者のお悩み相談に答えたり……。
柴崎春通(しばさき・はるみち)氏が運営するYouTubeチャンネル「Watercolor by Shibasaki」のことだ。
現在、74歳ながら、水彩画YouTuberとしての活動は6年め。登録者数は134万人にものぼる。いったい、どんな流れでこれほど “バズった” のか。柴崎氏の自宅で話を聞いた。
(柴崎氏の「経歴」に迫ったインタビューは別記事の「“日本一サムネでみるおじいちゃん” 動画では知りえない柴崎春通氏の『経歴』心臓手術は6回も【Watercolor by Shibasakiインタビュー・後編】」で、お読みください)
――柴崎さんがYouTubeを始められたのが、2017年。きっかけは何だったのでしょうか。
僕はもともと長年、絵の講師をやったり、絵描きとして毎年個展を開いたりといった活動をしていました。おかげさまで、講師の仕事は毎回、満席で、個展にもたくさんのお客さまが来てくださっていました。
ですがある日、息子が「個展でもお客さんはいっぱい来てくれるけど、最近はYouTubeっていうものがある。もっとたくさんの人が作品を見てくれるよ」と、すすめてくれたんです。
当時、僕は「海外で展覧会をやってみようかな」と考えていた時期でした。でも、海外だと作品を輸送したり、画廊を押さえたりと作業が多く、この歳ではなかなか大変。そんなときに息子の提案があったので、「じゃあ、ちょっとやってみようか」と乗り気になり、話が始まりました。新しいことには興味津々な性分でもありましたから。
講師の仕事では、自分が絵を描いている姿を撮影し、その動画を生徒さんに送ることもありました。人前で話すことにも慣れていましたから、YouTubeの仕組みは理解しやすかったです。
――活動を始められて6年めですが、現在の登録者数は134万人(6月3日現在)。登録者数がここまで伸びたことは、どう感じていますか。
あまりに数が多くて、ちょっと実感がわかないですね。最初はなかなか数が伸びなくて、登録者数が10万人にいくまで1年以上かかったんです。10万人はまだイメージしやすくて、(チャンネル登録者数が10万人を超えると贈られる)銀の盾が届いて「これはすごいものをもらってしまった」なんて思いました。
視聴者のみなさんは「おめでとうございます! 次は金の盾ですね」とコメントしてくださったんですが、「10万人でこんなに大変だったんだから、100万人になるころは生きてないね(笑)」と、本気で返していました。
しかし、次第に海外メディアが注目してくださって、『CNN』に出たりしているうちに、いろいろなところでバズり出したんです。“バズる” という言葉はそのとき覚えました。
そのまま、意外と早く50万人、80万人ときて、気づけば100万人を超えてしまいました。自分の力で成し遂げた、というより、皆さんに押し上げていただいた感覚です。
――登録者100万人超えとなると、ご家族の方々も喜ばれたのでは。
孫たちは、まわりの方に「おじいちゃんすごいね」と言われるらしいです。でも、僕は普通のじいさまとして暮らしているだけなので、孫にとってはただのおじいちゃんですね(笑)。
息子は、たぶん嬉しかったのでしょうが、お互いに淡々としていました。つねに話題は「次はどんな動画を作ろうか」です。
――動画の編集は息子さんが担当し、企画内容は柴崎さんが考えていると伺っています。視聴者から送られた絵を添削する企画や、スケッチに出る企画のほか、100円ショップの絵の具のような身近な画材を “使い倒す” 系の動画や質問相談コーナーなど、幅広い動画を出している印象です。
最初はぜんぜん違って、「透明水彩」のすばらしさを、自分の作品を通して伝えたい、という思いが大きかったんです。
透明水彩というジャンルは、僕が40、50代のころ、一般の方はまったくご存じなかったんですよ。ですから、透明水彩とはどういうものか? 画材は何を使うのか? どう描くのか? どんなテクニックがあるのか? そんなことを扱う動画を作っていました。
ですが、僕は根がおちゃらけた人間なので、畑をいじったり、山菜を取ったり、料理をしたり、そんな動画もたまに撮影していました。すると「柴崎先生の生活をもっと見たい」という声が多くなってきたんです。
一方で、透明水彩のハウツー動画は、意外と反応が少ない。10万人も登録者がいるのに、1万回しか再生されていない、なんてこともざらでした。
悩みました。よくよく皆さんのコメントを読んでみると、「絵を一緒に描きたい」という方は、割合としてそこまで多くない。どちらかというと、僕の声とか話し方を含めて、全体の雰囲気に癒される方が多いことがわかってきました。
それならばと、もう少し間口を広げて、描き方を教えるだけでなく、もっと気楽な気持ちで見てもらえる動画を増やしていったんです。
あとは、コロナ禍にもなりましたから、みなさん、ご自宅にいるでしょう。家にある鉛筆1本で、一緒に絵を描きましょうか、あるいは、小学校のときに使ったような絵の具で描きますから、ぜひ見てください、と。そうやって、動画の内容が多彩になっていきました。

視聴者に同じ視点を見せるために、顔の前に録画用のスマホを設置して撮影をおこなっている
――かなりの試行錯誤をされたんですね。
そうなんです。最初は、水彩のすばらしさをわかってほしい、と肩に力が入っていました。でも次第に、いま見ていただいている方々に、もっと正直な姿をさらけ出したほうがいいのかな、と考え方が変わりました。
すると、視聴者の方々が、自分たちの内実を告白するようなコメントが多くなってきたんです。「私はいま苦しくてつらいけど、先生の動画を見て癒やされた。昨夜は泣いてしまいました」とか。視聴者の方々と、心のつながりができてきた感覚です。
あらためて、絵を描くということの意味を問い直しましたね。これまで、自分の創作のために絵を描いてきました。でも、僕が絵を描く工程を見て、それだけで安らぐ人も多い。絵というのはそういう力もあるのか、としみじみ思いました。
――たしかに、柴崎さんの動画はコメント欄が交流活発ですよね。柴崎さんご自身も、非常にたくさんのコメントに返信されている。そこはこだわりなのでしょうか。
できるだけ返信するよう、心がけています。コメントをくれる方は、たとえ1000コメント来ても、お一人おひとり違う人。本当は、人それぞれ違うコメントを返したいのですが、どうしても時間的に難しい。だから、少なくとも定形でいいからありがとうって返したいんです。
特に、長い文章でいろいろと深いことを書いてくれる方には、極力、僕の文章でお返ししています。
●「くそじじい」コメントにも丁寧に返す
――動画内で、呼びかけが「あなた」なのも印象的です。自分にしゃべりかけられているような感覚になります。
僕が撮影するときも、同じ感覚です。そこには100万人以上の方々がいるんだろうけど、カメラの向こうにいる「あなた」に向けて、一対一で話しています。
絵の講師をやっていると、毎回、30名ぐらいの方がいらっしゃるんです。このときも「どうかな、わかった?」と、各々に話しかけることを意識しています。30名のかたまりがいるのではなくて、お一人おひとりが集まって、30名ですから。
絵に対する考え方も違うし、僕に聞きたいことも違います。こまめな声がけをしたり、笑い話を交えながら話をしたりして、クラスの雰囲気を作っていくんです。
YouTubeでも同じように、雰囲気作りをとても大切にしています。講師、生徒という立場を超えて、人間としての敬意の払いあいを何よりも重視したい。
若いころは誰でもそうですが、お若い方が生意気に「くそじじい」とかコメントしてくることもあります(笑)。それでも「君は若くてうらやましいね」とか、「君はすごくエネルギーがあるね。今度、僕の個展に来て、そのまましゃべってくれるとうれしいな」とか、丁寧に返す。そうやって、お手本を見せてあげるんです。
すると、次は丁寧な言葉で返ってくるものですよ。まだまだ視野の狭い若い人たちに、新しい視野を広げてあげるのも、おじいさんの役目だろうと思っています。
――動画内での教え方も優しいですよね。「あなたの絵のいいところはね」とまず褒める。そうした雰囲気作りへのこだわりがあるんですね。
自分がしてもらって嬉しいことは、人にしてあげたいんです。もちろん、言ってあげなきゃいけないことは言いながら。特にYouTubeだと、こちら側からの発信がメインですから、僕の発信の仕方ひとつによって、受け手の捉え方もずいぶん違うでしょう。動画内での一挙手一投足には気を遣っています。

取材時はまだ129万人だったチャンネル登録者数だが、あっという間に130万人を突破した
――実際に動画を撮影される際のこだわりもお聞きしたいです。
いちばんこだわっているのは、絵を描くときに僕が見ている目線で、みなさんにも見ていただくということ。そのために、絵を描く様子は僕の視点と同じ位置からスマホで撮っています。
絵を置くイーゼル(画架)と、僕が座る椅子の間に、三脚で立てたスマホを設置しています。少々、変な姿勢で描くことになりますが、まったく問題はありません。
途中まで描いたら、少しスマホの位置を動かして、そのとき描いている部分を拡大することもあります。編集のことも考えながら、いろいろ調整しつつ撮影しています。
対面の講座をやっていて、生徒の皆さんが絵を見るのに苦労されていると感じてきました。人が多いと、位置的に逆さに見るしかない人もいて。
だから、少なくとも動画では、見やすい目線で見ていただきたいんです。描いている過程がすべてわかるよう、できるだけカットもしないようにしています。
添削動画を撮るときなどは、パズルをやっているような感覚になります。パレットを持って、元の絵を見て、コメントをしつつ、自分でゼロから添削を反映させた絵を描いていきます。考えながら描くのは慣れているので、いまさらどうということもないのですが。
――添削動画では、動画の冒頭で抽選をしてから、当選者の絵を見て、柴崎さんも描き始めるというスタイルですよね。いつも素早い解説に驚かされます。
長年の講師生活で、添削は得意分野なんです。でも、添削動画では直前まで何を描くかわからないし、選べない。即断即決で、すぐにデモンストレーションしなくてはいけません。
描いてきた方の持ち味を壊さず、直したほうがいいところはできるだけ視覚的に見せる必要があります。みなさん一生懸命描いてきてくださるので、いいところはまず褒める。
ここは素晴らしい、配置はいい、などと指摘しながら、もう少し遠近感を出すといい、もっとこんな色を入れるといい、といったアドバイスもきちんと伝えます。
手を加えなさすぎても「違いがわからない」と言われたり、加えすぎると「元の絵はあんなによかったのに」と言われたり、塩梅がむずかしいんです。でも、そこがおもしろい。
――添削依頼の絵が、海外からくることも多いですよね。視聴者の何割ぐらいが海外の方なんでしょうか。
9割は日本の方、残り1割は外国の方です。英語の字幕をつけていますから、英語圏のアメリカやインドの方が多いです。海外の視聴者さんは絵を学びたい方が多いようで、添削依頼でいえば、日本の方7割、海外の方3割といったところでしょうか。
字幕もつけているので、編集はすこし大変です。撮影を終えたら息子にデータを送り、大まかな打ち合わせをします。次にデータを外注に出して、すべて、日本語で文字起こしするんです。僕が話している内容と合っているかチェックしたうえで、翻訳に出します。
最後は翻訳をつけて、サムネイルを作ります。1本の動画を作るにも、なかなか工程が多いです。
●「じいさまが出演している」は真似できない
――サムネイルで必ず柴崎さんご本人が出ているのは、こだわりなのでしょうか。
すみません、本当に出たがりなじいさんで(笑)。絵の世界では、何者にも侵されない “オンリーワン” であることが大切です。僕の動画では「こんなじいさまが出演している」というのが大きな特徴です。僕の顔が全面に出ているほうが、誰にも真似できないサムネイルになるだろうと思っています。
――柴崎さんがYouTubeを始められたとき、ほかに絵画系YouTuberさんはあまりいなかったと思います。ロールモデルがいないというのは、大変だったのではないでしょうか。
ほかの方はぜんぜん意識になくて、調べてもいないです。僕のやりたいことを、僕に関心がある方に提供して、その場を作ることだけを考えていました。
僕は長く絵を描いているけども、もともとほかの絵描きには関心がないんです。YouTubeも同じです。あるとき、取材に来た方で、「絵画系のYouTuberの人が多くなってきましたが、どう思いますか」と質問を受けましたが「そうなんですか!」と返したぐらい、ぜんぜん知らなかった。でも、増えるのはいいことですよ。
息子は、YouTubeを作るためにいろいろな動画を覗いて、参考にしながら編集を始めたみたいです。僕は息子に「ものを作るとき、あちこちからいいとこどりをしても、絶対にいいものはできないよ」という話をしたんです。
「人のYouTubeを見るのはいいけど、あれこれと集めてくるようなやり方は、今後、絶対やめようね」と。そういう行為は、自分を見失うもとです。人のものを見すぎたり、参考にしすぎたりすることは、魔物ですからね。
僕は長年、ひとりで自分の絵を描いてきました。だから、いままでの人生経験からそう思っているんです。
写真・久保貴弘
