寺島 実郎・日本総合研究所会長

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「国連決議で棄権にまわったCIS加盟国、中国との関係からもロシアの孤立があぶり出されている」

日本総合研究所会長
寺島 実郎 Terashima Jitsuro

「2022年には1人当たりGDP(国民所得)がイランやタイ、ブラジルと同じ水準になる。ロシア国民の生活は一段と厳しい局面に入っていく」─。こう話すのは、日本総合研究所会長の寺島実郎氏。寺島氏は〝プーチンの誤算〟は「政治は経済の上位にあり、政治の力学でいくらでも経済を抑え込めると考えていたことにある」と分析する。経済制裁に加え、ソ連邦崩壊後、バルト三国を除く旧ソ連の国々で結成されたCIS(独立国家共同体)加盟国、そして中国との関係からも見えてくる「ロシアの孤立」の現実とは─。(このインタビューは3月9日に実施)


「軍事大国」だが
「経済小国」のロシア

 ─ ロシアのウクライナ侵攻は民間人を巻き込み悲惨な状況ですが、ロシアは世界で孤立し始めていますね?

 寺島 経済へのインパクトを中心に話しますが、まずプーチンの誤算はどこから起こったのかということです。

 軍事侵攻を起こした段階から、逆四の字固めのような状況になっています。

 当初は、軍事的な攻勢をかけているロシアが、ウクライナを短期的に制圧するだろうという見方をしている人が多かったのですが、わたしは当初から、仮に軍事的に制圧しても、ロシアは地獄の苦しみに入ると言ってきました。まさに、そういう展開になってきているというのが率直な思いです。

 プーチンの誤算は、政治というのは経済の上位にあって、政治の力学でいくらでも経済を抑え込めるというように考えていたことです。

 彼はKGB(国家保安委員会)の出身で、諜報の世界で生きてきた人物。ウクライナ侵攻は「権力=すべてができる」という幻想の中に生きてきた男の限界を見せていると思います。要するに、相互依存時代のグローバル経済に対する理解がプーチンにはほとんどないということが検証されたということです。

 一番重要なことは、ロシアの経済産業力に対する自己認識の甘さです。ロシアは軍事大国で核大国ですが、経済小国だということです。

 世界のGDPに占めるロシアの比重というのは、わずか2%です。わたしたちの試算では、2021年の段階で2%、正確にいうと1.68%です。

 ルーブルの下落がどこまで進むかにもよりますが、ルーブルはすでに4割下落しています(3月10日現在)から、このままいくと2022年にロシア経済が世界に占める比率も1.0%を割ります。 しかも、経済的豊かさを示す指標である1人当たりのGDP(国民所得)でも、ロシアは20年の段階でほぼ中国と同じで、1万ドルの水準を超すところでした。これもルーブルの下落を受けて、おそらく22年には6000ドルから7000ドルのレベルまで落ちていくでしょう。

 わかりやすく言うと、これはイランやタイ、ブラジルと同じ水準です。ですから、ロシアの国民の豊かさは、一段と厳しい局面に入っていく。

 それから、もっと言うならば、ルーブルの下落だけでなく、ロシア国債も投機的という段階にまで格付けが落ちてしまった。つまり、ロシアに投資も集まらなければ、ロシアを信頼して物流や商取引をする人たちもいなくなり、モノもカネもほとんど動かない状態に近づいている。

 SWIFT(国際銀行間通信協会)からも排除され、国際決済の金融の仕組みからも排除されているからです。

 そういう意味合いにおいて、プーチンは、経済は政治によって、いかようにも動かせるものだと思っていましたが、今、それを覆されて、ものすごい恐怖の局面に入ってきています。