【前川孝雄】コロナで「早期退職」激増中…「50歳から独立」で成功する人しない人 国も「フリーランス独立」を勧め始めた

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政治の迷走と行政の混乱がコロナ禍に拍車をかけ、経営破たんする企業が急増している。中小企業のみならず大企業でも破たんする企業が出てきており、今後は「早期・希望退職」募集の増加も必至である。

もはや会社に頼れない時代に、中高年からのキャリアをどう組み立てればよいのか。とくに「独立」という働き方にはどのような未来があるのか。発売2か月で4刷の『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHPビジネス新書)の著者であり、ミドル層向けのキャリア研修やセミナーも手掛ける株式会社FeelWorks代表取締役の前川孝雄氏が考察する。

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「早期・希望退職」がコロナ禍で激増

東京商工リサーチによると、コロナ禍で経営破たんする企業は、2月2件、3月23件から4月は84件に急増、5月も83件、6月は100件を超える勢いだ。

レナウンをはじめ一部の大企業も、もともと業績低迷していた企業からコロナ禍でとどめを刺され経営破たんに至り始めている。また破たんに至らないまでもリスク回避のために「早期・希望退職」募集を実施する企業の増加は避けられないだろう。

実はコロナ禍が起こる直前の比較的好景気だった昨年2019年でも、上場企業で「早期・希望退職」募集を実施する企業数は増加傾向にあった。東京商工リサーチによると2018年の12社に対し2019年は36社と3倍増しており、特徴的なのは業績不振以外の企業が34.3%を占めていたことだ。いわゆる黒字リストラだ。内部留保が潤沢にあるうちに、新卒人材のポテンシャル採用や即戦力人材の中途採用を増やす一方で、構造改革に向けてスキルが陳腐化してきた中高年人材をリストラしたい企業の思惑が透けて見える。

リモートワークの急速な普及を筆頭に、「できない理由」を並べたてる抵抗勢力が壁になり遅々として進まなかった変革が、コロナ禍で一気に進んでいる。10年かけて起こる変化が1年程度で起こるだろう。となれば、経営ダメージの少ない業界や企業は、構造改革のためにさらに黒字リストラを進め、「早期・希望退職」募集を早める可能性が高い。たとえば、コロナ禍で伸びるネット金融サービスにより、銀行や証券や保険などの金融業界ではさらなる構造改革が進むだろう。

また、コロナ禍で深刻な経営ダメージを受ける業界・企業では、当然のことながら赤字リストラを断行せざるを得ない。2020年1〜5月に「早期・希望退職」募集した上場企業は33社とすでに昨年から倍増ペースになっている。この中には緊急を要する赤字リストラ企業が多いと思われるため、今後黒字リストラ企業が増えてくれば、通年では3倍増になるかもしれない。

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ひっそり改正された高年齢者雇用安定法

コロナ騒動のさなか、終身雇用を標榜してきた日本型雇用の転換を示す法改正がひっそりとなされた。今年3月31日、高年齢者雇用安定法等の改正案が国会を通過したのだ。一部報道はされたもののコロナショックでかき消されたため認識していない人も多いだろうが、中高年サラリーマンには衝撃の内容が含まれている。

改正前の法律では、定年の65歳への引き上げ、定年の廃止、65歳までの継続雇用制度(再雇用など)の導入が企業の実施義務とされていたが、改正後は引き上げ努力義務の年齢が70歳になる。継続雇用制度についても「70歳まで」とされた。この部分の改正は、人生100年時代を踏まえた今までの延長線上といえるが、特筆すべきはこれら想定内の3つの選択肢のほかに新たな2つの選択肢が加えられたことだ。

ここは重要なポイントなので、厚生労働省の資料の文言を引用しよう。

(4)高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
(5)高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入

(4)は、今までの仕事を会社から独立して業務委託で受託するということ。従来の雇用の枠組みの中での処遇と比べて、より踏み込んだ方針が政府によって示されたわけだ。この方針は『創業支援等措置(雇用以外の措置)』とされており、高齢者を「雇用する」という従来の方針とは明確に線引きされている。現行法は<高年齢者雇用確保措置>を趣旨としているが、新設法では<高年齢者就業確保措置>と、「雇われない働き方」も視野に入ってくる。

要するに、この法改正は、国が中高年サラリーマンに向けて「辞めて独立することも考えなさい」という意思表示をしたと捉えることができる。この法律は令和3(2021)年4月1日に施行される決定事項だ。中高年人材の処遇に悩んでいる企業にとっては、この新たな選択肢はまさに渡りに船かもしれない。

長年、終身雇用・年功序列というルールの中で働いてきて、まだその意識から抜け出せていない大企業サラリーマンのなかには、「そうやって自分たちを切り捨てるのか」「なんてひどい話だ」という声を上げる人もいるだろう。「収入が不安定になる独立なんて自分にできるわけがない」とショックを受け、「生活レベルが下がるかもしれないが、収入が安定する中小企業に転職するしかない」と覚悟を決める人も少なくないだろう。

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しかし、中高年人材の雇用に受け皿になってきた中小企業の多くはコロナ禍によって、甚大な経営ダメージを受けている。2008〜2009年のリーマンショック時には、1万人採用を打ち出したMKタクシーや、正社員500人採用を打ち出した居酒屋最大手のモンテローザなど、サービス業が雇用の受け皿となったが、コロナ禍ではそのサービス業の大半が壊滅的だ。

東京商工リサーチによると、2020年の倒産は7年ぶりに1万件を超え、事業継続をあきらめる休廃業・解散は前年比15%増の5万件に至る可能性がある。外出自粛要請のさなかであった4月の休業者は過去最多の597万人に上り、少しずつ経済活動が再開したとはいえ、人員に余剰感を感じている中小企業は多く、経営者の頭の中は資金繰りと既存従業員の雇用をいかに守るかでいっぱいだ。当然ながら、中高年人材を新たに採用する余力のある中小企業は限られている。

時代の変化に伴ってルールが変わることは致し方ないことだ。昭和・平成のルールのままでは企業が生き残っていけないことも事実。であれば、ルールが変わったことをただ嘆いているより、新しいルールの下でどう生き延びるかを考えるほうが生産的ではないだろうか。

「早期・希望退職」の対象になるのは40代半ば以降が多い。ボリュームが多いのはバブル期に大量採用された50代前半層だ。こう考えたとき、大企業の中高年サラリーマンの新しい選択肢として現実味を帯びてくるのが「50歳からの独立」だ。

フリーランスの典型は「50代以降男性」

では、そもそもこの国に独立した自営業者やフリーランスはどのくらいいるのだろうか。

公的な統計では、日本には241万人(内閣府2019)から390万人(労働政策研究・研修機構2019)規模のフリーランスがいると試算されている。比較的実態を正しく表わしている調査は2020年3月30日にリクルートワークス研究所が発行した「データで見る日本のフリーランス」だ。

同研究所は、フリーランスを(1)雇用者のいない自営業主もしくは内職であり、(2)実店舗をもたず、(3)農林漁業(業種)従事者ではない人と定義し、2018年調査では約472万人(就業者の約7.2%)いるとしている。また、「本業」をフリーランスとして働いている人は約324万人とする。就業者全体の3〜5%程度というところだろう。

さらに興味深いのは、フリーランスで働く人たちの人物像だ。平均年齢55.4歳で、男性が78.6%。男性のうち50歳以降が54.8%と過半を占めている。職種のトップ5は、1位「営業・販売職」、2位「建築・土木・測量技術者」、3位「生産工程・労務職」、4位「その他専門的・技術的職業」、5位「クリエイティブ職(美術家、写真家、デザイナー)」となっている。

平均年収は、「営業・販売職」で317万円、「クリエイティブ職(美術家・写真家・デサイナー)」で380万円、「ソフトウェア・インターネット関連技術職」で393万円だ。

昨今では、YouTuberなどネットで稼ぐ若者やウーバーイーツの配達で自転車で走り回る若者が増えているので、フリーランスは20〜30代の若者が中心かと思いきや、実態はスキル、技術、経験を蓄えた50代以降の男性なのだ。

複数顧客を持つ独立した働き方はローリスク

こう考察してくると、「結局、50歳にもなると、転職できないから致し方なく独立して働いているだけじゃないか」「年収300万円なんて、とてもやっていけない」「やっぱり冷や飯くわされても大企業にしがみつくしかない」といった声が聞こえてきそうだ。

実際、私が営むFeelWorksが開講する「50歳からのキャリア戦略セミナー」には大企業の中高年サラリーマンが受講してくるが、独立の話をすると、こうした不安の声があふれ出てくる。

しかし、私は役職定年や雇用延長で嘱託社員となりモチベーションを失いつつある大企業サラリーマンには、独立こそ有望なキャリアの選択肢だと考えている。なぜならば、大企業から中小企業に転職しても、都落ちした感覚を拭いきれず、知らず知らずのうちに上から目線で接してしまい、新しい職場の同僚や上司と折り合わず、また辞めてしまう例が少なくないからだ。

また人生100年時代でもあり、たとえ転職先で60歳や65歳まで働き定年したとてまだまだ人生は長く、結局は独立という選択肢を考えることになるからだ。

さらに強調したいのは、すでに独立開業している人たちは、大企業サラリーマンが想像するように自身を「不遇な状況にある」とは捉えていない傾向が強いことである。希望を感じられる調査がある。

アントレ『脱サラ309人「お金と仕事」白書』によると、退職前のデータでは年収300万円未満層は17.8%だが、独立後仕事と収入が安定してくるはずの3〜5年後には年収300万円未満層が40.1%と2倍以上に増えている。つまり、年収はほぼ確実に減る。しかし独立後「会社員に戻りたい」という人はわずか7%しかいない。圧倒的多数の71%が「(会社員に)戻りたくない」と答えているのだ。

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なぜだろうか。答えはシンプルで、お金に換えられない満足や幸せを感じられていることに尽きる。つまり、自分のやりたい仕事に真っすぐに打ち込めて働きがいを感じられ、何より嫌な上司や人間関係や雑務に煩わされず、働き方も自由でストレスフリーになっていくからなのである。なんといっても、一国一城の主として仕事も働き方も決定権は自分にある満足感は雇われ人には得難いものだ。

これは、私自身、13年前に大企業から脱サラ独立した当事者の一人だから実感がある。先述のリクルートワークス研究所「データで見る日本のフリーランス」でも、年代が上の層ほど「仕事と生活の両立ストレス」を感じていない傾向が明らかだ。ストレスを感じている割合は、20代で78.0%、30代で65.0%と高率だが、60代になると39.2%、70代では37.3%と半減する。

とはいえ、独立するリスクを拭いきれない人は多いだろう。しかし、日本型雇用のルールが崩壊した今、1社に依存してキャリアを考えることそのものが大きなリスクではないだろうか。ウィズコロナの不安定な時代に、相応のキャリアを積み上げてきた自分の人生を1社だけに預けることは本当に得策だろうか。株式投資で1社に全財産を投資することが危険なのと同じではないか。それなら分散投資をすればいい。つまり、独立して、まずは長年働いてきた会社と業務委託契約を結び、そこから少しずつ顧客を増やしていけばよいのだ。

そもそも、独立は決して特別な人にしかできない特殊な選択肢ではない。今でこそ就業者のうち9割が雇用者=サラリーマンだが、戦後の1950年代では4割強にすぎなかった。過半の6割弱の人たちはみんな独立して自営業で家族力をあわせて働くことが一般的だったのである。

さらには、独立=スタートアップ起業と考えるのは早計だ。そもそも革新的なビジネスモデルを掲げて起業し、斬新な戦略を策定し、投融資を募って社員を高給で雇い、時代の波に乗って急成長し上場を目指すスタートアップ起業は、ハイリスクハイリターンだ。家や財産を失い家族を路頭に迷わせるリスクまでとって一攫千金を目指したいなら別だが、たいていのミドルは、家族を養うことができ、老後の不安をなくせる最低限の収入を得られ、何より自分を活かせる仕事ができるなら十分のはずだ。

そもそも世のフリーランスや中小企業経営者には、こちらのタイプが圧倒的に多い。大企業の中高年サラリーマンが目指すのはスタートアップ起業ではない。もちろん野心のある人がチャレンジすることは好ましいことだし、停滞する日本経済の活性化のためにはそうしたミドル・シニア起業家は輩出されるべきだろう。

しかし、そんなつもりが毛頭なかった人たちにまでハイリスクハイリターン起業を求めるのは酷だ。堅実にキャリアを積み上げてきたミドルにはミドルならではのローリスクな独立スタイルがある。

給料をくれる主体が変わるだけ

20年ほど前。キャリア支援雑誌の編集長をしていたころ、竹中平蔵さんにインタビューをしたことがあるのだが、ご自身のキャリアを振り返ってこんな印象的な発言をされたことを覚えている。

「よくアメリカ人以上に職を変わっていると紹介されるんですが、私はずっと同じ仕事をやっているんです。ただその時々で給料をくれる主体が違うだけです」

まさに、これからのキャリアのあり方だ。自分は不遇だと感じるかもしれないが、突然解雇された中小企業サラリーマンや雇い止めにあった非正規雇用者など今日明日の暮らしに行き詰まる人が急増している現在、これまでの蓄えもあり考える時間的余裕も持てる大企業のミドルは恵まれているともいえる。

もちろんこれまでのように会社に依存したキャリア意識は変えなくてはいけない。不足するスキルも学び直さなくてはならない。会社に守られた状態から飛び出し、自分で社会の荒波に立ち向かうには勇気や胆力も必要だろう。しかし自分の経験値を活かした働きがいある仕事を真っすぐに追求しつつ、対価をもらう相手(企業や個人)を変え増やしていく独立は、経験を積んできた大企業サラリーマンにとっての有望な選択肢ではないだろうか。