4対0で勝ったというのに、「快勝」の二文字が思い浮かばない。
 3月28日のタイ戦である。

 8分に先制したのは素晴らしかった。19分のゴールも見事だった。前半のうちに2点目を奪ったのは、最終予選で初めてのことである。

 攻撃の中核を担うべき香川真司と岡崎慎司に、最終予選初ゴールが生まれた。
ケガで離脱した大迫勇也の欠場を、感じさせることはなかった。

 だが、日本はリズムに乗りきれない。前半から不用意なボールロストで自分たちを追い詰め、タイに決定機を許してしまうのだ。

 2対0というスコアに似つかわしくない内容を受けて、ハーフタイムにどのようなマネジメントが行われていたのだろう。ロッカ−ルームでのやり取りは見聞きできないが、テンポよくパスをつなぐのは依然としてアウェイチームなのだ。前半に続いて後半も、最初に決定機を作り出したのはタイだったのである。

 23日にサウジアラビアと対戦したゲームでも、タイは多くのチャンスを作り出していた。終盤の2失点で0対3の敗戦を喫したが、ビルドアップと崩しの局面ではサウジに見劣りしていなかった。

 だからといって、日本が苦しめられる理由にはならない。

 後半の57分には、久保裕也がチームの3点目をマークした。UAE戦で代表初得点をマークした23歳の2試合連続弾は、落ち着いてゲームを運ぶシグナルとなっていい。それなのに、ピッチ上の空気は引き締まらないのだ。

 ここまで1分け5敗で最下位のチームに、ペースを握られたままでいいはずがない。長谷部誠も今野泰幸もケガで出場できず、酒井高徳が代表で初めてボランチで出場していたことを差し引いても、である。攻守両面に深く関わる山口蛍とのダブルボランチは急造だったが、ハリルホジッチ監督のハーフタイムのマネジメントも、ゲーム中の修正能力のいずれにも、問題があったと言わざるを得ない。

 吉田麻也が83分にダメ押しの4点目を決めても、直後にPKを与えてしまうのである。長友佑都のクリアが酒井高に当たる不運に見舞われたが、そもそもの問題はあっけないほどに右サイドを割られたことにある。GK川島永嗣のPKストップで失点は許さなかったものの、最後までタイに振り回された90分だった。12対14というシュート数は、試合内容を的確に表したものだ。

 UAE戦とタイ戦をトータルで振り返れば、結果は申し分ない。勝点6をプラスして勝点16とし、得失点差もプラス9まで伸ばした。タイとイラクに連勝したサウジと勝点は同じだが、得失点では上回っている。勝点13のオーストラリアも抑え、日本はグループ首位に立った。

 最終予選は結果がすべて、という考えかたはある。すべての試合で安定したパフォーマンスを発揮するのは難しいことも確かだ。

 ただ、W杯の出場権争いは、なおも結末が見えていない。日本の残り3試合は、タフなゲームが続く、6月に中立地でのイラク戦があり、8月末からの2連戦はホームでオーストラリアと向き合い、アウェイのサウジ戦に挑む。最終予選の最終局面では、これまでよりもさらに厳しい連戦が待ち受ける。

 それだけに、タイ戦を「快勝」で片づけてはいけないのだ。