"猪木イズム最後の継承者"藤田和之が、9月25日(日)に開幕する「RIZIN無差別級トーナメント」に参戦する。1回戦の相手は、昨年末、MMA(総合格闘技)デビューを果たした元大関・バルト(31歳)。198cm、170kgという、とてつもなく巨大な敵に藤田は立ち向かうことになる。45歳のレジェンドファイターが「闘い」を続ける理由は何か? 

今年プロデビュー20周年の藤田。無差別級トーナメントは「ひと区切りつけるのにいい舞台」だという

──プロレス、MMA問わず、多彩なリングで活躍してきましたが、ご自身にとって「ホームリング」といえばどこになりますか?

「ホームリングですか? うーん、ホームリングは......四角いリング。主催がどこであれ、四角いリングが僕のホームリングですね。僕は、あのアゴの長い師匠に『四角いリングの中では、何をやってもいいんだよ』と教わった人間ですから。ルールは決められた通りだけど、その中で『自分で考えて闘え』と。それが俺たちの仕事だと、最初に教わりましたからね」

──では、藤田選手にとって、PRIDEはどういう場所だったんですか?

「師匠の言う『闘いを忘れるな』ということで言うと、120パーセント『闘い』ができた場所だったかもしれないですね。僕が重きを置く『闘い』という意味では、PRIDEのようなリングは水が合っていたのかな。それこそ、僕が新日本プロレスでデビューしたばかりのグリーンボーイだった頃から、声をかけてくださっていた榊原(信行)代表(元PRIDE主催者、現RIZIN主催者)への恩もありましたしね」

──90年代にUFC含めいろんな格闘技イベントが出てきた当時、新日本プロレスの現場監督だった長州力さんは、新日本の選手たちに「そっちには触るな」と言っていた反面、頭の中では「誰だったらヒクソン・グレイシーに勝てるか」を真剣に考えたらしいんですよ。それで真っ先に浮かんだのが藤田和之だった、と。

「そうなんですか? じゃあ、そのときに言ってくれればいいのにねえ。ホントにさ(笑)」

──当時の新日本の若手選手には、藤田さんを含めレスリング出身の強豪がたくさんいましたよね。「腕試しをしてみたい」という気持ちはあったんですか?

「自分の中で、腕試しをしたいというのは確かにありました。まあ、若い選手はみんなそうだったと思いますけど。プロレスラーは強くなくちゃいけないということで入ってきていますから。ただ、『アマチュアを捨てろ』とも言われました。技術うんぬんだけじゃないのがプロレスだ、と。片や、猪木さんからは『プロレスラーは強くなくちゃいけない』とも言われたりして。今なら両方理解できますけど、若い頃は『どっちなんだろう』って(笑)」

──でもキャリアからすると、藤田選手はやっぱりナチュラル・ボーン・ファイターというか、MMAのほうが、水が合っていたような気がします。

「どちらかというと、そうなりますね。もっと強さを表現できていれば、今頃プロレスに残っていたと思いますし。今思うと、当時は『表現』という言葉に抵抗があったのかな......正直すぎたんでね。ただ、プロレスを学んでいなかったら、僕なんか本当にただのゴロツキですよ。プロレスを経由したから今の自分があるし、それはやっぱり猪木さんであり、長州さんであり、教科書がすごくたくさんあったので」

──今年4月、RIZINに初参戦しましたが、最初、オファーが来たときはいかがでした?

「うれしかったです。突然だったんで、『なんで、今なんだよ!』と思いましたけど(笑)。ただ、それはひとつの挑戦だし、こういう状況で闘うことが、またひとつ自分のキャリアになるのかな、と。しかも、今一番乗っている選手が相手だというので、よけいにありがたかったですね」

──4月の対戦相手は、昨年末の100キロ級トーナメントの準優勝者、イリー・プロハースカ選手でした(プロハースカが1ラウンド3分18秒、TKO勝利)。

「自分は年齢もキャリアもだいぶいっていますけど、相応の相手とお茶を濁すんじゃなくて、一番勢いのある選手と闘わせてくれたことに対してポジティブでしたね。結果はどうあれ、その雰囲気を肌で感じたいと思いましたし、『今、一番の選手です』と言われたら断る理由もないですよ」

──その前の試合は3年前、2013年大晦日の石井慧戦でした。この試合は防戦一方で「藤田和之は、もう動けないじゃないか」という印象もありました。しかし、プロハースカ戦は負けたとはいえ、テイクダウンからパウンドを落とすなど、石井戦とは動きがかなり違っていたように見えました。

「石井選手との試合は、本当に自分でも『どうしちゃったんだろう』と思うぐらいに体が動かなかったですね。もちろん、自分を攻略して勝った石井選手が素晴らしかったんですけど。でも自分の中では、正直ちょっと悔いが残っちまったかなあって。お客さんの前にあんな体調で出てしまって申し訳なかったなって。だから、それから少しずつコンディションを戻すようにして、生活習慣から意識するようにしました。タバコをやめたり、お酒を半分にしたりね(笑)」

──それで、コンディションは変わりました?

「やっぱり違いますね。お酒なんか大好きでどんどん飲んでいたけど、最近はちゃんと割るようにしているし(笑)。ただ、石井選手との試合の後は『もうMMAはないだろう』と思っていたんですけど」

──現在45歳の藤田選手が、「もうMMAはない」という考えもあった中で、またコンディションを整えようと思えることがすごいですよ。

「やっぱり、後悔なく生きたいですから。悔いのないようにひとつひとつやれば次の新しいものが見えてきますし、次のキャリアを積むときに新鮮な気持ちで臨めるじゃないですか。今年はプロになってちょうど20年なんですけど、そろそろ自分の中ではひと区切りつけて、次に行こうかなという気持ちもありますし」

──ひと区切り、と言いますと?

「いや、引退とかではないですよ。でも、キャリア20年で今回の無差別級トーナメントのお話をいただいたのも何かの縁ですし、自分の中ではひと区切りつけるのにいい舞台だと判断しています。だから悔いのないようにやって、今度は何を目標にするのか、それを見つけるのも楽しみですね」

──40代の選手の中には、「家族のため」「子供に闘う姿を見せたい」というのをモチベーションにされる方もいますが、藤田選手にはそういう思いは?

「それはないですね。僕の子供は、3人年子で小学生なんですけど、自分が何をやっている人かを言ったことはないですし。子供に訊かれたこともあるけど、『お父さんはお料理して、お掃除して、お洗濯して、魚釣ったり、カニ捕ってきたりする人だよ』って。うち田舎なのでね。学校で友だちに教えてもらってバレちゃいましたけど、『お父さん、違うじゃない!』と言われても、『それは違う人だよ』みたいな(笑)」

──ハッキリ言わないのは何か理由があるんですか?

「うーん、別に。気がついたら勝手に調べられる世の中ですから。それでどう思うかは本人の自由だし。自分のために『お父さんはこうだよ』と教えるのもなんか違うし。それを糧にする方もいますけど、僕の場合はまた別だなって。だから『何かのため?』と訊かれると、もちろん家族の生活のためですけど、僕としては悔いなくやりたいだけです。楽しく生きたいですからね」

──その、ひと区切りとなるRIZIN無差別級トーナメントは、PRIDE時代の熱を期待するファンもいる一方で、若い選手が力を示せる舞台でもあります。

「とにかく昔はみんながね、『稼いでやろう』『名前を上げてやろう』とハングリーでしたよ。きっと今の若い選手もハングリーな気持ちで来るだろうし、じゃあ僕らは何なのかというと、『まだまだ若いヤツらに負けないぞ』ということになっちゃいますけど。あとは、同時期にやっていたPRIDEの連中と、『おまえ、まだやってんのか。じゃあリベンジさせろよ』というのもありますよね」

──今回のトーナメントには、かつて藤田選手を破ったミルコ・クロコップやヴァンダレイ・シウバも参戦しますもんね。

「ミルコになんて、2回も負けてますからね」

──とはいえ、まずは1回戦、バルト選手です。

「170kgでしょ? この格闘技界を見渡しても、あれだけ大きな選手はいませんよ。僕は、彼には大きな可能性を感じていて、だからこそ彼と最初に闘えるのは、褌(ふんどし)締め直さないといけないなって」

──昨年大晦日のバルト選手のデビュー戦はご覧になりました?

「まだですね。最後に対戦相手のピーター・アーツがペシャンコにされているのだけは見ましたけど。(対戦相手の試合)映像は、夜寝る前に見ると、眠れなくなっちゃうんですよ。ずーっと試合運びを考えちゃうんで。本当は、練習する前に見るのが一番いいんですけどね。でも、練習を見ていただいている高阪剛(こうさか・つよし)さんにはアドバイスはいただいていますよ」

──となると、バルト選手の穴も?

「穴ですか。穴は......ないですねえ。強いて言えば、経験ですか。でも、素材も素質も図抜けていますから。新しい選手がどんどん出てきていますけど、彼は規格外。彼の気持ちひとつで、ものすごいビッグバンになると思いますね。彼がMMAデビューすると聞いたとき、『格闘技ブームのきっかけをつくるのは彼だな』と思いましたから」

──じゃあ、まさにこの試合が、そのきっかけになるかもしれない。

「だから、無差別級トーナメントでのバルト選手にはすごく期待を込めています......って、僕が対戦相手なんですけどね(苦笑)」

──ハハハハ! でも藤田選手にとって、それだけ魅力的な選手ということですね。

「間違いないですね。対戦相手をこんなに立てるのもおかしな話だけど。フフフフ、なんか僕もベテランになっちゃったのかなあ(笑)」

──このトーナメントは、12月29日が2回戦、31日が準決勝・決勝と、過酷な日程ですが、どんな展望を持っていますか?

「いやいや、そこまで考えていないですよ。そんなことを言っているようじゃ相手に失礼だしね。頭にあるのは9月25日、『闘い』に行くことだけ。またあの四角いリングに上がって、体ひとつでぶつかることだけです!」

●藤田和之(ふじた・かずゆき)
1970年生まれ、千葉県出身。レスリングで全日本学生選手権4連覇、全日本選手権を2度制覇し、96年、新日本プロレスでデビュー。2000年からPRIDEに参戦し、「PRIDE GRAND PRIX 2000」では、霊長類最強の男とうたわれたマーク・ケアーに勝利。03年には"皇帝"エメリヤーエンコ・ヒョードルを追い込む大善戦を見せた。PRIDE以降は戦極やIGFのリングでも活躍し、今年4月、RIZINでMMA復帰を果たした

●『RIZIN FIGHTING WORLD GP 2016 無差別級トーナメント 開幕戦』
9月25日(日)/さいたまスーパーアリーナ/13:30開場 15:00開始予定

松下ミワ●文 text by Matsushita Miwa