中国三峡工事洪水防止センターの気象データから、2011年4月の三峡ダム地域の天候は非常に複雑で変化が急激であることがわかる。それにそれは最近50年の同時期にはめったにない現象であることもわかる。

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 中国三峡工事洪水防止センターの気象データから、2011年4月の三峡ダム地域の天候は非常に複雑で変化が急激であることがわかる。それにそれは最近50年の同時期にはめったにない現象であることもわかる。

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 「2011年4月の三峡ダム地域の気候は異常で、夏になっても気温が上がらないばかりか、かえって気温が下がる趨勢を見せた。4月末の平均気温は摂氏12度以下であった。4月中旬なのに周辺の山地では広い範囲の雪が降った。1カ月の間で3回も急激な低温に襲われた。急激な気温の差や季節外れの気候現象が頻繁に起きた。そのほか、4月の降雨量は236.5ミリで、ダム地域の10年ぶりの降雨量記録と宜昌地区の118年ぶりの降雨量記録を更新した」と「中国三峡工事報」が報じた。

 三峡ダム地域は地質構造が複雑なので、昔から暴雨、洪水、地すべりが頻発した。三峡ダムの付近の地質構造は主に硬い花崗岩であるが、上流は主に砕屑岩、石灰岩である。国土資源部の調査だけでも地すべり現象が起きる区域は2490カ所がある。この2年の間、中国の気候は極めて異常である。2011年、重慶地方には大雨で、山崩れが頻繁に起きた。それは三峡ダムによる生態系の変化と関係があるかどうかは今のところ分からない。近いうちに専門家の観察と論証によって明らかになると思う。

 長江の中、下流流域には50年来の干ばつで今も苦しんでいる。干ばつによる「食糧不足、電気不足、水不足、環境破壊」などの懸念が強くなって、三峡ダム工事の妥当性がもう一度問われている。三峡ダム工事が干ばつの原因であるという見方までも出ている。その見方は三峡ダム工事の建設に対する最も激しい輿論衝撃であるのは間違いない。

 前世紀90年代から世界では環境保護理念が文明の主流となりつつある。その背景で、三峡ダム建設に対して反対意見が少なくなかった。それにも拘らず、三峡工事建設案は1992年第7期全国人民代表大会(全人代)第5回会議で投票により採決された。賛成票は1767票、反対票は177票、棄権票は664票で採決された。つまり、三峡工事建設案は全人代の史上、一番少数の賛成票で採決されたことになる。

 三峡工事案に採決の経緯から思い出すのは中国の教育体制と人材選抜体制である。前世紀50年代、中国の教育は「ソ連兄貴」の真似をした。各大学は従来の教育システムを改造して文理科大学と工科大学というシステムを投入した。目的は「大機械」に必要な「標準規格部品」のような人材を養成することであった。この「標準規格部品」は自分の専攻以外の分野には知識が乏しかった。当時に頻繁な政治運動の中で、文科は「危険学科」と見なされ、重視されなかった。結果的に「高知識低文化」の人材がたくさん養成された。

 国家という「大機械」には「標準規格部品」を必要とした。重なる政治運動で「独立思想者」は次第に「失脚」して置き去りにされ、人材選抜制度は「精鋭淘汰制」(エリートが先に淘汰される制度)になった。文化蹂躙、道徳蹂躙が横行した文化大革命を通じて、「大機械」のいいなりになる「標準規格部品」がもっと脚光を浴びるようになった。

 1949年以降、人文科学の発展は横ばい状態を続けてきた。その状態は国の施政にも影響を及ぼすことになった。単なる技術教育で養成された人材は得てして人文的な思惟に欠けている。改革開放以降、政府は長い期間「模索しながら一歩ずつ前進しよう」というスローガンを掲げて「模索しながら前進する」方針をとった。その「模索」は「中国式」の模索でもあり、ある意味では「技術の実験」でもある。

 どんな工事施設も寿命がある。三門峡と三峡も例外ではない。三門峡工事施設は4年も経たないうちに「水利工事施設」が段々「水害工事施設」に変身している。生態系に変化による被害が挽回できない羽目に陥る場合、生態系を取り戻すためにそのクズモノをどう処分するだろうか? その責任をだれが負うだろうか?

 筆者は水利には素人である。素人の常識から見ても、自然規則を守らないと自然の懲罰を受けるのは当たり前のことだと思う。大きな川は地球の大動脈である。大動脈である大きな川の変化は生態系の変化を引き起こすのは当然のことであり、大きな川の蒸発、侵蝕、汚染などは気候の変化に影響を及ぼすのは当然のことである。

 国の重大な決定は実験になってはならない。中国はユートピアニズム実験で20年という貴重な時間を無駄にした。それに三門峡工事という生態大実験は「母なる川」である黄河を破損した。その莫大な「授業料」の支払いはまだ済んでいない。今、三峡工事がもっと大きな生態実験場になっている。中国で一番大きな「母なる川」である長江の運命はどうなるだろうか? その歴史的な責任をだれが負うだろうか? 今はそれを見届けることしかできない。(編集担当:祝斌)



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