円熟のメンバーでドイツW杯を制した後、イタリア・サッカー界では新世代の息吹が聞こえ始めた。今季セリエAではビアンキ(レッジーナ)、ロジーナ(トリノ)などイタリア人若手アタッカーの台頭が目を引いた。中でも一風変わった出自を持ち、注目を浴びるタレントの一人が、ジュゼッペ・ロッシ(パルマ)だ。

 現在のパルマには、かつて90年代を席巻し、中田英寿らを擁して5年前にコッパ・イタリアを制した面影はない。クラブは一度破産し、再生の途上。今季は前半戦が終わった時点でブービーの位置がやっと。降格やむなしと見られていた。だが監督ラニエリを招聘し、救世主となるべくイングランドからレンタルでやってきたのがロッシだった。
 ロッシは生粋のイタリア人でありながら、父がプレーしていた米国で生まれ、4歳でサッカーを始めると瞬く間に頭角を現した。祖国イタリアが放っておくわけがない。パルマの下部組織にスカウトされると下部リーグにいた4年で205ゴールという脅威の怪物ぶりを発揮する。この若き才能に目をつけたのはプレミア・リーグだった。

「2004年に初めてサー・ファーガソンと会ったとき、握手する手が震えた」と述懐するロッシは、FWファン・ニステルローイ(当時)らの薫陶を受けながら05年10月にサンダーランド戦でプレミアに初出場、デビュー・ゴールを奪って勝利に貢献した。CLでも出場経験を積んだ。今季前半はニューカッスルで修行を積んでいたが、パルマからSOSがかかると祖国のトップリーグでプレーすることを選んだ。後半戦19試合で9ゴールし、PKキッカーもすぐにまかされた。その活躍をもってパルマは怒涛の追い上げを見せ、夢のような大逆転残留。ロッシは立役者となった。


 しかしロッシにはパルマに残る意思はない。
「このセリエA後半戦で自分の才能に確信を持つことができた。今、マンチェスターUのトップチームで活躍できる自信があるよ。驕りじゃない。ルーニーやクリスティアーノ・ロナウドがいても、イングランドじゃ試合数が多いからチャンスはある。マンチェスターUでプレーできるなら、ファン・デルサールのポジションでもいいよ(笑)」
 GKですらやってもかまわないと言う。“レッドデビルズ”への忠誠心にあふれ、才能の塊のようなこの20歳の保有権を手放すことをサー・ファーガソンが許すはずがない。すでにU21伊代表でも存在感を見せつけているロッシ。来季プレーするチームは夏の移籍市場次第だが、それがどこであっても目を離すことなどできない新星であることは間違いない。

弓削高志