【TBS日曜劇場の原点】『渡鬼』を手がけた99歳の現役ドラマプロデューサー・石井ふく子が残した「名作量産に求められるサービス精神」
「ドラマのTBS」と呼ばれる所以には、1956年から現在まで放送が続く老舗ドラマ枠「日曜劇場」がある。近年も『VIVANT』や『半沢直樹』など国民的ヒット作が生まれているが、その原点には同枠の黎明期にドラマプロデュースを手がけてきた石井ふく子(99)の存在は欠かすことができない。5月22日から開催される「TBS レトロスペクティブ映画祭」では、石井がキャリア初期に手がけた日曜劇場の名作のリバイバルが実現する。「渡る世間は鬼ばかり」や「ありがとう」から、ホームドラマというジャンルを確立した石井の制作思想は現在の「日曜劇場」まで受け継がれていると、本映画祭をプロデュースした佐井大紀は語る。
聞き手は、『フェイクドキュメンタリーの時代』、『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』などの著書があるてれびのスキマ氏。テレビ番組の制作者にインタビューを行なうシリーズの第13回【前後編の後編。文中敬称略】。
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ハリウッド映画的サービス精神
石井ふく子が礎を築いた「日曜劇場」は、局員にとっても一際重みのあるドラマ枠だと佐井は語る。
「日曜劇場という枠を担当してきた諸先輩方に共通しているのは『観ていただいた後に元気になってほしい』『視聴者の方にすごくポジティブな気持ちをちゃんと伝えたい』という想いだと思います。第一に、皆さんに楽しんでいただいて、『あ、明日も頑張ろう』と思ってもらえるものにしたいという共通認識がある。
私の中で、それはハリウッド映画のような、純粋なサービス精神に近いのではないかと思っています。例えば『タイタニック』は観て泣ける作品ですが、観ている最中は没入しながら楽しく観られるじゃないですか。『E.T.』も最後は泣けるけど、楽しく観られる。極端に言い換えるなら『日曜劇場は(スティーブン・)スピルバーグではないか』という感覚も自分の中にあって。それを実現するためには本当に多くの人の技術と才能とサービス精神と、文化芸術への愛が必要なはずです。先輩方がそれを誠実に積み重ねてきた先に日曜劇場があるというのは、一緒に仕事をしながら感じます」
そして、その精神の根幹には石井ふく子の存在があると佐井は言う。
「制作サイド私たちの日曜劇場ではなくて、"視聴者の日曜劇場"なんだと思います。"視聴者の火曜ドラマ"、"視聴者の金曜ドラマ"があって、それを作る。石井先生がずっと実践されてきた考えだと思います」
佐井自身も石井作品を通じてテレビドラマを作りたいと感じた原体験があると続ける。
「自分がテレビドラマ作りに向いていないのではないかと悩んでいた頃、実家のリビングでエリック・ロメールの『緑の光線』を観ていたんです。みんながご飯食べていて、一人がなんか変なことを言ったせいで気まずくなって誰かが出て行って、というのを繰り返している。それを観て父親が『あ、これ「渡鬼」と一緒だな』と言ったんですよ。そのとき、ロメールと『渡鬼』がつながった。ロメールが好きな自分でもテレビドラマという仕事ができるのかもしれないと思ったんです」
深夜ドラマは「不倫、復讐ではなくても届く」
「TBSレトロスペクティブ映画祭」を企画・プロデュースする佐井は、普段はドラマプロデューサーとして活躍している。2026年1月から3月まで放送された深夜ドラマ『終のひと』は、関東ローカル放送でありながら大きな話題を呼んだ。「思っていたよりも観ていただけた実感がある」と感じた佐井が当時、視聴者として狙ったのは、映画やサブカルチャーを愛する層だった。
「『まほろ駅前番外地』のような10年くらい前の深夜ドラマや、名作の『傷だらけの天使』に近いトーンを狙いました。"野党"だったなあという実感もありましたが、不倫や復讐といったTVerで回る定番ジャンルではなくても、誠実に面白いと思うものを作れば届くという手応えがありました」
意外だったのは、視聴者から「泣ける」「あったかい気持ちになる」という反応が多かったことだという。同作は、余命宣告を受けた破天荒な元刑事の葬儀屋が風変わりな葬儀に挑むというもの。佐井自身は、死という悲惨な出来事を引きの目線で描くブラックコメディ的な要素を意識していたが、主演の柿澤勇人らの好演により、予想以上にキャラクターが愛された結果だった。
「人が亡くなることをブラックコメディ的に描こうとしていたので、そんなに泣かすつもりで作っていなかったんです。伊丹十三さんの『お葬式』のように、非常に悲惨なことと非常に滑稽なことが同居する、あの引いた目線がベースだったので。
嗣江さん(柿澤勇人)があんなに愛されるとは思っていなかったし、ボンちゃん(西山潤)があんなに嫌われないのも思ってもみなかった。自分がプロデューサーとしてキャスティングするときに意識しているのは、役者さんが持っている無限の引き出しの中から、まだ出していない部分を出していただくこと。柿澤さんを始め、その引き出しの豊富さを改めて実感できた仕事でした」
教育者としても一流の坂元裕二
佐井は現在のドラマシーンに、明確な地殻変動を感じている。
「配信プラットフォームが出てきて数年が経って「これは配信のパイ、これは深夜ドラマのパイ、これはゴールデンタイムのパイ」といったすみ分けが明確になってきている気がします。配信、深夜、民放ゴールデンタイム。NHK。この4つがそれぞれの支持層を持ちながら並立しているのではないかと思います。ドラマの本数が一気に増えて何から見ていいかさっぱりわからないという数年間が終わって、制作サイドも視聴者サイドもコンセンサスを取り始めているのかもしれません」
ドラマシーンが変化する中で、プロデューサーとして注目している脚本家を尋ねると、自身と共に仕事をしてきた脚本家たちを挙げた後、こう続けた。
「坂元裕二さんのゼミ(東京芸術大学大学院映像研究科脚本領域)出身の人たちが気になっていますね。映画『この夏の星を見る』や『VRおじさんの初恋』(NHK)などを書いた森野マッシュさんや、『階段下のゴッホ』(TBS)でご一緒した加藤法子さんらを輩出している。坂元裕二さんは教育者としても一流なのかって(笑)。ちゃんと"坂元裕二"というOSがインストールされつつ、それぞれが独特な言葉の選び方とかトーンみたいなものを持っている。自分の性質と合うのかどうかは別にして、ひとつのうねりのようなものを感じます」
(了。前編から読む)
*「TBSレトロスペクティブ映画祭 石井ふく子特集」5月22日(金)Morc阿佐ヶ谷ほか順次ロードショー! 最新情報は公式Xをご確認ください。https://x.com/tbs_retro
【プロフィール】佐井大紀(さい・だいき)/2017年TBSテレビ入社。ドラマ制作部に所属。ドキュメンタリー映画『方舟にのって〜イエスの方舟45年目の真実〜』『日の丸〜寺山修司40年目の挑発〜』を監督している。直近のプロデュース作品は2026年放送のテレビドラマ『終のひと』。
◆取材・文 てれびのスキマ/1978年生まれ。ライター。戸部田誠の名義での著書に『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『タモリ学』(イーストプレス)、『芸能界誕生』(新潮新書)、『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989』(双葉社)、菅原正豊との共著に『「深夜」の美学―『タモリ倶楽部』『アド街』演出家のモノづくりの流儀』など。
撮影/槇野翔太
