ドンキはイオンに勝てるのか? 新業態「ロビン・フッド」がスーパー業界にもたらしそうな“劇的変化”
〈なぜ、異例の「タテ長イオンモール」が駅前に誕生したのか イオンが「津田沼ヨーカドー跡地」に狙いを定めたワケ〉から続く
この3月、「らしくないイオンモール」が誕生した。これまでのイオンモールと言えば、郊外立地かつファミリー層がベビーカーなどで苦労しないよう縦の移動を極力排除した低層のものが基本だった。
【ドンキの新業態!】「スーパーみたいでスーパーじゃない」ロビン・フッドをじっくり見る
ところが、京成松戸線新津田沼駅の南口かつJR津田沼からも近い立地にオープンした「イオンモール津田沼South」は、地上8階・地下1階建ての計9フロアと珍しく「タテ長」なのである。
もともとイトーヨーカドーが営業していた建物にイオンが食指を動かしたのは、地方・郊外での立ち位置を確立したこと、そしていよいよ首都圏など都心部への勢力拡大を目論んでいるという背景があるとみられる。
売上規模自体は巨大ではあるものの、首都圏でしのぎを削る強力なライバルと比較して成長性はちょっと物足りない。そこで、イトーヨーカドーを筆頭に閉店が増えてきた好立地の総合スーパー跡地を狙っているわけだ。

写真のような、従来の「ヨコ長」ではない「タテ長」のイオンモールが3月に誕生した(写真はイオンモール岡崎、公式サイトより)
駅前立地の再生は「イオンの独擅場」と思いきや、ライバルが……
「カテゴリーキラー」と呼ばれる、特定のジャンルに特化した専門店チェーンが主流となった小売業界では、この数年で大きく勢力図が変わってきた。ダイエーが関東で消滅したり、イトーヨーカドーが大量閉店に追い込まれたりしたように、一時期小売業界の雄ともいえた総合スーパー各社は「時代遅れ」の感も出ている。ダイエーやヨーカドーなどGMS(総合スーパー)が主戦場としてきた都市部から離れ、郊外でモールという鉱脈を掘り続けてきたイオンはそんな逆風の中でも力を維持してこられた。
つまり既に総合スーパーを新規出店するライバルはほとんど存在しておらず、イオンにとってライバルとして名前が挙がるのは食品スーパーばかり。閉店が続く総合スーパーレベルの大きさの物件をほぼ自社で埋められるのは、事実上イオンくらいしかないのはチャンスでしかない。
イオンはこれまでも、自社総合スーパーだった物件をリニューアルしたり、再構築したりして新店として再生してきた。他社にはない「総合スーパー物件の再生」もイオンのノウハウであり、ライバルに対する対抗力となっている。もちろん、ここ数年少しずつその数を増やしている「そよら」ではイチから店舗を作っているケースもある。しかし出店の多くは古い自社総合スーパーの再生であり、こうした場所を手放しで他社に譲らない、というのも地味ながらイオンの底力でもある。
と、ここまでの論をたどると最終的にイオンが一強かと思われるが、そう簡単にはいかないのが面白いところ。総合スーパーなど大型物件の再生ノウハウを持っている企業はイオンを除きほとんどないのだが、手ごわい競合も存在する。
「ドンキ」がイオンにとって強力なライバルである理由
近年、積極的に大型物件の居抜き出店を実現してきた数少ない存在が、ディスカウントストア最大手のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)である。PPIHは総合スーパーの大手、長崎屋、ユニーを傘下に入れ、見事に再生したことは皆さまもご存じの通りであろう。
ざっくり言えばPPIHは、総合スーパーの不振の元凶である2階以上=非食品フロアをドン・キホーテ(ドンキ)に転換して活性化してきた。そして、上層階に呼び込んだ顧客を1階の食品フロアにも降ろすことで、食品売場も活性化してしまう。
結果としてドンキの売上も増えるし、1階も来店客が増える。こうして、かつて総合スーパーだった商業施設は見事に賑わいも採算ラインも回復する――という必殺技を持っており、実際これで多くの物件が今でも「ドンキの店」として存続している。
この技でPPIHは多くの総合スーパー跡地を自社物件として獲得してきたのだが、このやり方は一段落してしまった。なぜかと言えば、再生すべき総合スーパー物件が西友の買収、イトーヨーカドーの大規模リストラによって、当面のタマがほぼなくなったからだ。そして、最後のまとまった売り物件が、PPIHが買収したオリンピックだった、ということになる。
総合スーパータイプの大型店とより小型の食品スーパーを混成した構成のオリンピックは、大型店をドンキ転換による従来型で、食品スーパーは新業態ロビン・フッドに転換することで再生を図る、とされている。と聞くと、「そうなんだ」、と聞き流してしまいそうになるが、実はこのプロジェクトは業界再編の歴史において大きな転換点となるかもしれない注目の案件なのだ。
新業態「ロビン・フッド」安売りだけではない、大注目すべきポイントとは?
前述の通り、PPIHは総合スーパーの再生ノウハウは持っていたが、食品スーパーに関してはそもそも非食品売場がないため、前述の「必殺技」が使えず、M&Aの対象とはしてこなかった。
そんな中、傘下に収めたユニーに「ピアゴ」という食品スーパー業態があったことは大きい。PPIHはこのピアゴの活性化策を研究し続けて、ついに開発したのがロビン・フッドだと言ってもいいだろう。食品6割、非食品4割の売上構成とし、食品は利幅を薄くまさに「驚安」で訴求して集客、ドンキ商材で構成した非食品をついで買いしてもらうことで収益を確保する――というのが、新業態の目指す姿であるという。
これが成功すればPPIHは、M&Aの対象先を、全国で多様に生き残ってきた食品スーパーに拡張することができるのだ。それは、これから急速に寡占化が進むスーパーの再編に、ドンキが名乗りを上げるということでもある。新興ながら2兆円規模の小売業にまで成り上がってきたドンキが、正面から業界再編に乗り出し、流通大手イオンと覇権を争うことを宣言しているわけだ。
自ら「魔境」と称する宝探しじみたエンタメ空間を生み出すことで独自の店づくりをしてきたPPIHは、基本的に消費者が「生活必需品を短時間で補充する」という目的で訪問するスーパー業界とは、これまでキレイに棲み分けをしてきた、と考えられている。よりタイパ重視が強まる生活の中で、ドンキの宝探しエンタメ売場は、余計な時間がかかるのであり、忙しい人の多くは日々の消耗品を補充するためにドンキを使ってはこなかった。
しかし、PPIHが日々の生活必需品の買物に対応した業態であるロビン・フッドを成功させれば、もう棲み分けは出来ない。
再編が進む中で、台風の目は間違いなく「ドンキ」
生活必需品補充の外にいたはずのPPIHだが、これからはスーパー業界にとってガチンコの競合相手となる可能性がある。こうしたロビン・フッドの戦略的意義が分かっているイオンや業界大手は、この業態の成否を、固唾を飲んで見守っているだろう。
過去の経緯を見れば、「パワーコンビニ情熱空間」や「ドミセ」などPPIHは新業態に果敢にチャレンジするも失敗・撤退したことも多い。それでも再チャレンジして成果を見つけてきたのが同社の強みでもある。
人手不足、人件費高騰、困難な価格転嫁、電気代の高騰などが直撃して、スーパー業界は今後10年で急速に寡占化が進む時代に入ったと言われている。だからこそ、イオンは大都市中心に一気にグループ再編とシェアアップを進め、トライアルが西友を買い、ヤオコーがブルーゾーンHDになって即、2社の買収を発表する、というニュースが続発しているのである。
中でも小売業界4位の売上規模2兆円超にまでのし上がったドンキは、イオンのトップ確定に「待った」をかけることが出来る筆頭候補であろう。ロビン・フッドとは、庶民の味方のヒーローと言う意味合いからとったものらしいが、その目的を達成することができたなら、ドンキは業界地図を一気に変えるかもしれない。
(中井 彰人)
