南極に忍び寄る熱い深層水。南極大陸の氷にとって脅威
ここまでくると知りたくなかったって思うことの方が多いな…。
気候変動が南極に壊滅的な変化をもたらしていることについて、科学者は何の疑いも持っていません。でも意外なことに、特定の温暖化傾向について確実な結論を出すのに十分な海洋データを持っていませんでした。
で、ついにその必要なデータが出そろってみたら、温暖化の兆候がかつてないほど明確に姿を現したそうです。
南極に迫る温暖な深層水
20年間にわたる海洋観測調査によると、温暖な周極深層水の水塊が南極の棚氷に向かって少しずつ近づいていることが判明しました。
こうした温暖な深層水の移動は、気候モデルの予測にも現われていましたが、科学誌Communications Earth & Environmentに掲載された最新の研究結果は、それを実証的に裏付けるものとなりました。
ケンブリッジ大学(イギリス)の地球科学者であるJoshua Lanham氏は、声明で次のように述べています。
これは単にモデルが示唆する将来のシナリオではなく、現在進行中の現象であり、炭素や栄養塩、熱が地球規模の海洋を通じて循環するシステムに、より広範な影響を及ぼしています。
地球の自然な調節機能
米海洋大気庁(NOAA)によると、深層海流は地球の気候システムだけでなく、海洋の栄養塩や二酸化炭素の循環を調整するうえで、とても重要な役割を果たしています。これらの海流は、水温や塩分濃度の変動によって生じる水の密度の差によって駆動しています。最近よく見聞きするようになったAMOC(大西洋南北熱塩循環)が駆動するシステムと同じです。
極域周辺では、非常に低い気温によって冷たく密度が高くなった水が深海へと沈み込み、その際に熱や炭素、栄養塩も一緒に移動します。このプロセスは、熱帯から北極へ熱を再分配し、地球の気候を調節するAMOCにとっても極めて重要です。
一方、周極深層水(CDW: Circumpolar deep water)は、太平洋とインド洋の異なる水塊が混ざり合って形成される水塊を指します。
研究チームは論文のなかで、周極深層水は南極大陸の棚氷付近で0℃まで上昇することがあり、この地域における海洋熱の主要な供給源となっていると説明しています。
不吉な予感
最新の研究結果は、南極付近の水温が高いCDWの量が「ほぼすべての経度にわたって」増加しているという、不吉な予感がするような証拠を示しています。
チームは、南極海に大量投入されている小型の自律式浮遊観測装置であるアルゴフロートと、表層海洋を漂う他の自律型浮遊装置による公開データを統合して分析を行なったといいます。その後、機械学習技術を用いて、そのデータと調査遠征によって収集された長期的な傾向を統合しました。
CDW拡大の潜在的な理由として、他の水塊で起こっている未確認の変化や、南極海周辺の偏西風が強くなっていることなどを挙げていますが、さらなる裏付け調査が必要と論文で述べています。
まるで水風呂のなかの熱湯風呂
いずれにしても、南極で「熱い水」が幅を利かせはじめている証拠がまたひとつ増えました。本研究の上席執筆者であり、スクリップス海洋研究所の海洋学者であるSarah Purkey氏によると、南極海は海洋が蓄えた人為的な熱の大部分を吸収しているといいます。
また、海洋全体で地球温暖化によって生じた余剰熱の90%以上を吸収しているとのこと。海洋が吸収してくれなくなったら、海洋が蓄えた熱を一気に放出したら…と考えるとゾッとします。
Purkey氏は次のように説明しています。
かつて氷床は冷たい水風呂に守られていたおかげで融解を逃れていました。しかし、現在は海洋循環が変化したようで、まるで誰かがお湯が出る蛇口をひねったように、お風呂がどんどん熱くなっているんです!
このちっともありがたくない「熱いお風呂」のような状態が続いて棚氷が崩壊すれば、深刻な事態になるでしょう。NASA(アメリカ航空宇宙局)によると、南極の棚氷は地域の氷床や氷河を支えています。
もし南極大陸の氷がすべて融解すれば、世界の平均海面を58メートル上昇させるのに十分な淡水を保持しています。
研究チームが特に懸念するのは、CDWの拡大が、地球が持つ天然の二酸化炭素吸収システムである南極周極流にどのような影響を与えるかという点だとしています。
気候変動の影響を予測するうえで、南極で起こっていること、これから南極で起こることを把握するのはとても重要なので、この分野の研究は積極的に進めてもらいたいところです。
Source: Communications Earth & Environment, ケンブリッジ大学, NOAA (1, 2), NASA, Caltech

