なぜインフラは早めに治療したほうがいいのか…青森県が出した「ひとつの答え」
日本はこのまま崩れ去ってしまうのか? 道路、鉄道、水道、インフラ、橋……なぜ全国各地で次々に事故が起きるのか? お金も人も足りない……打つ手はあるのか?
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(本記事は、岩城一郎『日本のインフラ危機』の一部を抜粋・編集しています)
青森県のアセットマネジメント
それでは各地で進められているアセットマネジメントの具体例を見ていきましょう。
まずは青森県です。青森県は47都道府県の中でもいち早く橋に対するアセットマネジメントを取り入れました。
なぜ対応が早かったかというと、県知事から県職員に対して県政に対するアイディアの募集があり、そこに当時欧米で進められていたアセットマネジメントを導入したいと応募したものが採択されたためです。その内容をまとめたパンフレットには、こんなことが書かれていました。
「橋はこれまで、悪くなってから架け替えるということを繰り返してきました。アセットマネジメントでは、橋をこまめに治療することで長生きさせ、架け替えるよりもお金を掛けないで、県民の資産である橋への予算(投資)を効率よく運用することができます。これにより、県民の負担を軽減することができるのです」
青森県では、このような考えのもと、ITを活用した予算シミュレーションを実施しました。50年間の橋の予算を計算した結果、早い段階で集中的に橋を治療したほうが、将来にわたる予算が安く済むことがわかりました(図表4-5)。
具体的には、悪くなってからすべて架け替えると50年間に約2000億円、悪くなってから直すと約1500億円、悪くなる前に計画的に直すと約800億円というものです。
計画的に橋のメンテナンスを進めるため、2006年度から5年間は、橋の治療費を県民一人当たり約2000円使うこととしました。計画通り進むと6年目からは、半分の約1000円に下げられるとの試算結果を県民に示したのです。
このようにある程度どんぶり勘定であっても、具体的な数字をもって県民に対し政策の根拠を示すことはとても重要なことで、まさに県民への説明責任と合意形成を果たすために欠かせない視点と言えます。
青森県ではその他にも、単に事後保全から予防保全への移行を進めるだけではなく、補修・補強などの措置を施しても性能が元には戻らず、じきに解体・撤去せざるを得ない橋については早めに見切りをつけて、新しい橋に架け替えるという判断もおこなっています。
私もプロジェクトに参加した青森県鰺ヶ沢町にある国道101号(県管理)の新赤石大橋もその一つです。この橋は、使われ始めてから約30年で架け替えを余儀なくされました。なぜこんなことになってしまったのか。解体前に実橋を使って大規模な実験をおこない、撤去後は橋桁のコンクリートをすべて削り出して内部の鋼材を調査しました。人体解剖のようなものですね。
その結果、鋼材が腐食するメカニズムについて、さまざまな知見が得られました。この橋は海の側に架けられた橋で、海水による影響(塩害)によって内部の鋼材が腐食し、劣化が進行したことまではわかっていました。解剖したことで、どこの鋼材がどのくらい腐食しているのか、中にはまったく腐食していない鋼材があることなどが明らかになったのです。まさに病気で亡くなった方の原因を病理解剖により究明し、その後の医療に活かす手法と同じです。
実例を見てみることで、アセットマネジメントの重要性についてなんとなく理解できたかと思います。それでも、課題がないわけではありません。
たとえば、これまで私は多くの自治体のアドバイザーを務めましたが、コンピュータシミュレーションの結果をうのみにし過ぎるきらいがありました。シミュレーションはあくまで援用ツールです。その結果が妥当であるか否かについては、最終的に技術者が判断すべきでしょう。得られた結果に基づいて、コンピュータの入力値やプログラムの仮定に実態とかけ離れたものがないか、冷静に見極め、最後の判断はコンピュータではなく人がおこなうべきなのです。
さらに、アセットマネジメントではライフサイクルコストを最小化することが目的なのですが、コストを削れば削るほどじつは構造物の性能も削られることがあります。その結果、思いもかけず橋の安全性が低下し、大きな問題が生じることもありえます。コンピュータに頼り過ぎていないか、コストを下げることに偏重しすぎていないか、インフラメンテナンスに携わる技術者の責任は重大なのです。
さらに、「日本はこのまま崩れ去ってしまうのか…意外と気づかない「インフラ危機」本当の実態」」では、いま大問題として迫っているインフラ老朽化問題をひきつづき見ていく。
