マインクラフトで原爆投下前の広島の街並みを再現した片山さん(28日、米ニューヨークで)=岡本与志紀撮影

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NPT会議に合わせNYで展示

 【ニューヨーク=岡本与志紀】核拡散防止条約(NPT)再検討会議に合わせ、米ニューヨークで28日、東京大大学院生らが、デジタル技術を活用して被爆の実相を伝える研究成果の展示会を開催した。

 「被爆者なき時代」が迫る中、体験継承の新しい形を模索する試みだ。

 展示会は、再検討会議の会場となっている国連本部近くのホテルで、東大の渡邉英徳教授(51)(情報デザイン学)の研究室のメンバー4人が開いた。渡邉教授は10年以上前から、戦前や戦時中の白黒写真をAI(人工知能)でカラー化するプロジェクトなど、最新技術を活用した戦争の記憶の継承に取り組んできた。

 「継承の新しい可能性を広く伝えたい」と、再検討会議に合わせた現地での展示会を企画。会場には、自身のアバター(分身)を通じて原爆で破壊された広島の街を体験できるVR(仮想現実)や、被爆者の人生を追体験するデジタルマップなどが展示され、来場者は大学院生らから説明を受けながら、会場を巡った。

 幼い頃から海外で育ったカリフォルニア大教授の重松セツさん(57)は、すべての展示の説明を聞き、「分かりやすく学べ、核兵器の問題に関心を持ついいきっかけになる」と語った。長崎で被爆した浜中紀子さん(82)(埼玉県行田市)は再検討会議傍聴のため、現地入りしており、「カラー化された昔の街の写真を見て懐かしくなった。直接、被爆者が語りに行かなくても、原爆の歴史に触れる機会が増えるのはいい。平和教育の場面でも活用しやすそう」と話した。

 渡邉教授は現地入りしておらず、読売新聞のオンラインなどでの取材に、「これから戦争の記憶を継承していく若者はデジタル技術に親和性があるため、関心を広げやすいと思う。VR体験などはリアルに近い形で戦争被害を学べるので、記憶にも残りやすく、海外展開も期待できる」と答えた。

3世の大学院生、「日常」を再現

 研究室メンバーで、大学院生の片山実咲さん(27)は、広島県尾道市出身で被爆3世だ。被爆地の広島や長崎の小学生らを対象に、3Dブロックを組み合わせて仮想空間に街や風景などを自由に作り上げていく人気ゲームを使って、原爆投下前の街並みを再現するワークショップ(WS)に取り組んでいる。

 28日の展示会では、ワークショップの様子をスライド写真で説明し、人気ゲーム「マインクラフト」で実際に再現した、被爆前の広島市中心部の商店街や長崎市の旧浦上天主堂の姿なども紹介。「原爆によって何が失われたのか、考えることができる取り組みだ」と来場者らに語った。

 片山さんの祖母(2024年に死去)は、広島に原爆が投下された翌日、父親を捜しに広島市内に入って被爆した。当時11歳で、がれきの中を、腕の皮膚が垂れ下がった人たちが歩く姿を見たという。父親は救護所で見つかったが、やけどの状態がひどく、その後、亡くなった。

 片山さんは幼い頃、夏休みなどに祖母から被爆体験を聞いて育った。核兵器の問題に関心を深め、広島県立広島高校時代には「高校生平和大使」として、核兵器廃絶を求める署名をスイス・ジュネーブの国連欧州本部へ届けた。職員らの前で祖母から聞いた体験を話すと、「原爆の悲惨さを伝え続けてほしい」と言われた。「記憶の継承の重要性を実感した」と語る。

 平和教育を学ぶために東大に進み、大学院進学後、ワークショップを始めた。被爆前の日常を伝えたいと、子どもたちにはマインクラフトに取り組む前に、昔の街並みが分かる地図や写真を見てもらうほか、より理解を深められるようにと、被爆者から当時の話を聞く機会を設けている。

 片山さんは「被爆前の日常を知ることで、原爆のむごさがよりはっきりと伝わる。多くの人に核兵器の問題を自分のこととして考えてもらいたい」と語る。今後は、海外でのワークショップ開催も検討している。