「メアリー・アニング」で岩石の試料を採取した後に火星探査車「キュリオシティ」が撮った自撮り写真=2020年/JPL-Caltech/MSSS/NASA

(CNN)米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「キュリオシティ」が採取した岩石のサンプルに、地球上で生命の構成要素になったのと同じ有機分子が20種類以上含まれていることが分かった。火星で見つかった有機分子の種類としては最も多く、このうち7種類は初めて検出された。

サンプルを試薬に溶かして組成を分析する「湿式化学分析」が、火星上で初めて実施された。この結果は先週、オンライン学術誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に発表された。

研究チームを率いる米フロリダ大学のエイミー・ウィリアムズ教授によると、見つかった有機分子は35億年前から火星に保存されていたとみられる。

ウィリアムズ氏によれば、火星の強烈な放射線環境にもかかわらず、分子の大きい複雑な有機化合物が何十億年も保存されていたことを確認した点に、発見の重要な意義がある。

太古の火星は生命の存在し得る惑星だったという説が、ますます有力になった。

慎重に狙いを定めて

キュリオシティは火星に生命が存在し得た可能性を探るため、2012年に火星表面の「ゲール・クレーター」に着陸。火星周回探査機から観測されていた粘土質の地層をめざし、クレーター内の「シャープ山」に登り始めた。

粘土層は有機分子の保存に適した性質を持ち、太古の火星に水が存在したことだけでなく、その場所に水が消えたりまた現れたりしたことを示唆している。

キュリオシティは着陸から6〜7年かけて、シャープ山の「グレン・トリドン」と呼ばれるエリアの粘土層に到達した。そこには太古の湖に形成された泥岩や、水の流れが湖に注いでできた砂岩の層があった。

ミッションチームはどこからサンプルを採取するのがいいかを慎重に見極め、19世紀英国の古生物学者の名前にちなんだ「メアリー・アニング」という地点に狙いを定めた。

キュリオシティは粘土鉱物を含む砂岩を掘削、粉砕し、採取した粉末サンプルを車体内部の「火星試料分析装置(SAM)」に投入した。

SAMはサンプルを加熱し、そこから放出されたガスを検出する。同装置を使い、これまでにも火星上で重要な有機化合物が見つかっている。

今回は、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)という試薬の水溶液にサンプルを溶かす湿式化学分析が実施された。ウィリアムズ氏によれば、この試薬を使うことによって大きな分子を分解し、従来の方法では見つかりにくい成分を特定することができる。

その結果、21種類の有機分子が見つかった。炭素原子と窒素原子で構成される環状構造の化合物「窒素複素環式化合物」も含まれている。この分子構造は、遺伝情報を担う核酸「RNA」と「DNA」の前駆体の役割を果たす。

ウィリアムズ氏は「窒素複素環式化合物はこれまで火星表面で見つかったことも、火星由来の隕石(いんせき)で確認されたこともなかった」と説明する。

今回の分析ではさらに、炭素と硫黄を含む「ベンゾチオフェン」の分子も見つかった。ベンゾチオフェンは、地球のような惑星に衝突した隕石から検出されることが多い。

ウィリアムズ氏は「隕石から火星に降り注いだのと同じ化合物が地球にも降り注ぎ、地球ではこれがおそらく生命の構成要素になった」と指摘した。

今回の研究の一環として、地球上でも実際の隕石を使った試験が実施された。1969年にオーストラリアで発見された40億年以上前の隕石で有機化合物を含む「マーチソン隕石」をTMAHと反応させた結果、ベンゾチオフェンなどメアリー・アニングのサンプルと同様の成分に分解された。

深いなぞの解明に向けて

キュリオシティからはここ1年の間に、火星上で過去最大の有機分子を検出したという発表もあった。後継の火星探査車「パーサビアランス」が採取した岩石には、古代生命の痕跡とも考えられるヒョウ柄のような斑点が見つかった。

今後さらに、欧州宇宙機関(ESA)による火星探査計画「エクソマーズ」の探査車「ロザリンド・フランクリン」や、土星の衛星タイタンの探査を目的としたNASAの探査機「ドラゴンフライ」にも、同じ湿式化学分析の装置が搭載されることになっている。

パーサビアランス・ミッションのチームに参加する米パデュー大学のブリオニー・ホーガン教授は「これらの有機物が生命由来かどうかはまだ断定できないが、われわれはその疑問に答えるためのデータを蓄積し始めている」と述べた。そのうえで「完全な答えを出すにはサンプルを火星から持ち帰り、地球上の実験室で調べる必要がある。パーサビアランスのサンプルを回収することは、惑星科学界の最優先課題だ」と強調した。

NASAとESAはパーサビアランスが採取したサンプルを回収する計画だったが、米議会では1月、その中止が決まった。これに対して科学者らは、地球以外に生命が存在した可能性を探るうえで欠かせない計画だと主張し続けている。

今回の研究チームに参加したNASAジェット推進研究所(JPL)のアシュウィン・バサバダ氏も、サンプル回収は過去数十年に及ぶなぞ解明への努力を完結させる唯一の道だと述べた。