シーズン終盤で再び、序列を上げている田中。期待に応えたい。(C)Getty Images

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 田中碧は試合後、ウェンブリー・スタジアムを足早に後にした。

 クラブにとって39年ぶりとなったFAカップ準決勝。リーズはチェルシーに0−1で敗れ、決勝進出を逃した。田中はミックスゾーンで「リーグ戦に集中したいので」とだけ言い残し、立ち止まることなくスタジアムを去っていった。

 田中は3−4−2−1のセントラルMFとして先発した。隣に立つMFイーサン・アンパドゥが守備的な位置を取り、田中は比較的自由に動く“8番”の役割を担った。

 序盤の入りは悪くなかった。開始からわずか25秒、相手のボールをカットすると、すぐに縦パスを差し込み、攻撃にスイッチを入れた。直後には味方が得たFKを蹴り、ボールは惜しくもバーの上へ。6分にもパスカットから前方へつける場面があり、中盤を動きながら相手のパスコースを消し、奪った後に縦へ運ぶ田中らしさは確かに出ていた。

 この時間帯のリーズは、田中がリズムを作っていた。後方でボールを受けるだけではなく、相手の攻撃の芽を摘み、そのまま前方にパスを出す。昨季のチャンピオンシップで見せていた、試合の流れを読みながらチームを前進させるプレーが、ウェンブリーの大舞台でも見えた。

 だが試合が進むにつれ、リーズ全体の動きが重くなっていく。

 チェルシーの先制点は23分。ペドロ・ネトのクロスにエンソ・フェルナンデスが頭で合わせた。1点を追う展開になっても、リーズはなかなかテンポが生まれない。田中もその流れに引きずられるように、序盤に見せた存在感が次第に薄れていった。
 
 象徴的だったのが30分の場面だろう。自陣ペナルティエリア手前で田中がボールを失い、ジョアン・ペドロに決定機を許した。失点にならなかったが、リーズが抱えていた不安定さを示すプレーだった。

 実際、チェルシーの決勝点も、味方のボールロストから生まれている。ミスが流れを断ち、相手に主導権を渡す。その悪循環の中で、田中もまた流れを引き戻すことができなかった。

 後半の立ち上がり、負の流れを断ち切ろうと、ダニエル・ファルケ監督はシステムを4バックに変更した。田中は4−2−3−1の「中盤2」の位置でプレーを続けた。リーズは前半よりも押し込む時間を増やし、チェルシー陣内でプレーする場面も多くなった。

 だが、最後のクオリティが足りない。クロス、カウンター、こぼれ球への反応。どれも決定的な一撃につながらなかった。

 田中にもチャンスはあった。65分、クロスのこぼれ球に反応し、フリーでシュートを放った。しかしボールがミートせず、枠を大きく外れた。この場面で決めていれば、試合の評価も、田中自身の見方も大きく変わっていたに違いない。田中は74分に交代を命じられ、リーズも最後までゴールを奪えなかった。

 今回のFA杯準決勝に先立ち、田中の状況は好転していた。

 一時はリーグ戦でまったく出番が与えられず苦境が続いたが、なぜ田中はこの大舞台で先発を任されるところまで序列を上げてきたのか。

 振り返ると、チャンピオンシップで戦った昨季、田中は不動のレギュラーとしてフル稼働した。守備的MFとして後方からボールを動かし、攻と守のバランスを整え、最終的には選手が選ぶ年間最優秀選手賞を受賞。リーズのプレミア昇格を支えた中心選手だった。

 しかしプレミアリーグに舞台を移すと、状況は簡単ではなくなった。シーズン序盤こそ先発の機会を得ていたが、シーズンが進むにつれベンチスタートが増えた。とりわけ、1月31日のアーセナル戦を機に、リーグ戦では7試合連続でベンチスタートで出番を与えられず、厳しい状況が続いた。

 それでも4月に入り、流れは再び田中の側へ傾いた。