なぜ「日立製作所の株価」は5年で5倍になった?ノジマへの家電事業売却が物語る「大いなる覚悟」
日立の家電事業をノジマが買収
4月、わが国の電機業界にとって、無視できないM&A案件が出てきた。家電量販店を運営するノジマが、日立の家電事業を買収することが明らかになった。具体的には、国内の家電品、空調機器などの事業を運営する日立グローバルライフソリューションズ株式会社(日立 GLS)が家電事業の新会社を設立し、ノジマが株式の80.1%を取得する。
今回のM&A案件は、双方の立場から見るとなかなか興味深い。ノジマは家電の川上部門=製造分野を手に入れることで成長を加速できると判断した。日立ブランドを活かして、高付加価値型の冷蔵庫や洗濯機などを供給し、収益力を高めようとしている。
一方、日立は、自社の事業の中で、家電分野の重要性は低下したと判断し、売却した。
今回のM&Aによって、日立はヒト、モノ、カネを、これまで強化してきたAIなどのソフトウェア分野に多く配分できるだろう。リーマンショック直後から、日立は総合電機メーカーから、ソフトウェア企業への構造改革を推進し、業績を拡大してきた。
注目すべきポイントは、ノジマと日立、どちらの戦略がよりうまく運ぶかだろう。
家電分野では、韓国、中国、受託製造分野で台湾企業のシェア拡大が鮮明だ。国内では、人口減少・少子高齢化の加速により、家電需要は減少している。
また、企業向けのソフトウェアやAI関連事業では、米中欧州勢との競争が急速に激化している。その中で日立は、事業基盤の拡充を着実に進めてきた。今回のM&A案件は、日立にとって、これまでの事業戦略の延長ともいえる。それだけ、日立は相応に高い勝算があるのだろう。
買収を進める「ノジマの思惑」
近年、ノジマは積極的に買収戦略を実行し、収益分野を拡大してきた。
2015年、スマホの販売を行うITXを買収した。インターネット接続事業(ニフティの個人向け事業など)、スルガ銀行への出資(一時筆頭株主、2022年全売却)も行った。昨年は、パソコン製造(元ソニーのVAIO)分野にも進出している。日本企業の中でも買収に積極的だ。
今回の家電事業買収によって、同社は国内外で一定の製造基盤を確保することになる。
家電の消費者(川下)を基点に見ると、徐々に事業領域は川上分野に広がっている。同社の主な狙いは、店舗での従業員との対話や、購買データから得られた消費者の潜在的な需要を、迅速に製品の設計開発に反映することだろう。それによって、ノジマは、他の家電メーカーにはない新しい機能を、スピーディーに製品に搭載できると踏んだとみられる。
また、ノジマは今回の取引で、海外の家電販売と製造、両面でも橋頭堡を築く。2021年に日立は、海外の白物家電事業をトルコのアルチェリクとの合弁会社に移管した。アジア地域で販売店などを買収してきたノジマとしては、日立の海外家電事業を傘下に入れることで、欧州地域でも拠点を持つことができる。
国内の家電販売額は右肩下がりにある。その環境下、成長期待の高い海外市場への進出は重要だ。
日本に加え、アジア、欧州の3極で店舗を運営し、現地の消費者の声に耳を傾ける体制を構築する。海外を含め、消費者が思わず手に取りたくなる新しい家電を、相応の価格帯で販売して粗利率を引き上げる。
そうした狙いから、ノジマは日立の家電事業を買収したのだろう。
日立の鮮やかな構造改革
一方、今回の取引により、日立は、リーマンショック後から取り組んだ構造改革に目途をつけることになった。空調事業は残すが、家電事業は自社から切り離す。
それが意味するのは、洗濯機や冷蔵庫の製造は非中核事業に変化したということだ。今回の売却で得た資金を、中核事業である産業向けのソフトウェアやAIサービスに配分することになる。
2009年3月期、リーマンショックの発生により、日立の最終損益は7873億円の赤字に転落した。その直後から、日立は急速に構造改革を実行した。
日立の“御三家”と呼ばれた、主力上場子会社の日立化成工業、日立金属、日立電線のみならず、重電や民生分野のハードウェア製造事業も次々と手放した。20以上あった上場子会社は、今ではゼロになった。こうした売却で得られた資金は、産業用のITプラットフォーム構築、さらにはスイス重電のABBの配送電システム買収などに配分した。
昨年、同社は欧州でAIを使ったデータ分析企業も買収している。まさに、総合電機メーカーから、エネルギーや鉄道など対企業向けのITサービス業へと業態転換を遂げたのである。
株価は5年で5倍に
特に、AIプラットフォームである“ルマーダ”の性能向上によって、機器のメンテナンス需要を安定的に取り込むビジネスモデルを確立した。さらにAIでビッグデータを分析することで、これまで知られていなかった(非連続の)ニーズを発掘し、需要を創出する体制も整備した。
リーマンショック後から現在まで、歴代の日立トップは、デジタルやAI分野での収益性向上に一貫して取り組んだ。日立は、企業の在り方そのものを、根底からつくりかえたといってもよいかもしれない。
その成果として、同社は、わが国で数少ないIT・AI分野の有力企業として世界の投資家から認知されている。2021年4月に1000円近辺だった同社の株価は、2026年4月24日時点で5000円を超えるまでに成長した。
ただし、家電分野、ソフトウェア関連分野ともに、グローバルの競争は激化している。
つづく記事〈VAIO&日立の家電事業を買収で「ノジマの家電メーカー化」が加速…中国メーカーの安い家電が障壁に〉では、ノジマと日立に待ち受ける今後のリスクを中心に解説する。
