もう勘弁してくれ…〈年金月23万円〉〈老後資金4,200万円〉68歳元中学教師、「趣味三昧の老後」が一転、わずか3年で「貯金1,500万円」を失った「まさかの理由」
長年、教職という安定した職業に身を置いてきた人が退職という大きなステージの変化を迎えた際、現役時代には見えていなかったリスクが露呈することも。ある元教員のケースから、現代の高齢者が直面する家計管理の死角を考えます。
「自由」という時間の増加が招いた支出の増大
68歳の佐々木健治さん(仮名)は、35年間、公立中学校の数学教師として勤務しました。60歳での定年後、5年間の再任用を経て65歳で完全に退職しました。退職金と合わせた貯蓄額は4,200万円。共済年金の経過的職域加算を含めた年金受給額は月額約23万円です。
総務省統計局の『家計調査報告(家計収支編)2023年(令和5年)』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における1カ月の実収入(主に公的年金)は平均28万2,497円で、不足分は3万7,916円となっています。単身世帯の場合、実収入は12万6,905円で、不足分は3万7,682円です。
佐々木さんの受給額は平均を大きく上回っており、本来であれば生活に困窮するはずのない水準でした。しかし、完全引退からわずか3年で、4,200万円あった貯蓄から1,500万円を失ったといいます。
最初の要因は、教職時代に制限していた趣味への支出です。佐々木さんは現役時代、部活動の指導などで土日も拘束されることが多く、趣味のカメラと旅行を中断していました。引退後、その反動から海外の撮影ツアーに年3回以上参加し、機材も最新のプロ仕様を買い揃えました。
「現役時代に我慢した分、これくらいは許容範囲だろうと……」と佐々木さんは振り返ります。これだけで年間300万円近い支出が常態化していきました。
「教育支援」という選択が奪う老後資金
佐々木さんの資産をより深刻に目減りさせたのは、30代の長女夫婦への援助でした。長女夫婦は共働きですが、都内での生活費と住宅ローンの負担が重く、孫の教育環境について佐々木さんに相談を持ちかけました。
「孫の将来のためなら、できる限りのことはしてやりたい」
元教師ということもあり、子どもの教育への投資が重要であることはわかっていました。佐々木さんは私立中学校の入学金から授業料、さらには塾の費用まで、その大半を肩代わりすることに決めました。
文部科学省『令和5年度 子供の学習費調査』によれば、私立中学校の学習費総額は年平均で156万0,359円。公立中学校(54万2,450円)と比較すると3倍近い開きがあります。
佐々木さんは、3年間で援助額が累計500万円近くになった時点で、ようやく自身の通帳の残高に目を向けました。趣味の支出と合わせ、年間で500万円を貯蓄から取り崩す生活が続いた結果、資金は急速に底を突き始めました。
公務員でも逃れられない「家計赤字」の実態
「元公務員なら一生安泰」というイメージとは裏腹に、実際には家計に苦慮する元職員は少なくありません。
人事院が公表した『令和5年退職公務員生活状況調査報告書』では、60歳以降の退職公務員の生活実態が明らかにされています。同調査によると、日常生活において「常に赤字である」と回答した世帯は18.2%、「時々赤字になる」は23.3%で、合計41.5%の世帯が家計に赤字を抱えています。さらに、生活のゆとりについて「まったくゆとりがない」と回答した割合は10.6%に達しています。
佐々木さんのケースは、現役時代の高い所得水準に基づいた生活レベルを維持したまま、自由な時間が増えたことで支出が増大した典型例といえます。現役時代の信用があるがゆえに、家族も「父には余裕がある」と思い込み、継続的な援助を求めてしまう構造がありました。
佐々木さんが危機感を抱いたのは、自身の健康不安を感じたときだったといいます。膝の持病が悪化し、将来的な手術やリハビリ、さらには介護施設への入居費用を算出した際、残された預貯金では心許ないと感じたのです。
「すまん、もう勘弁してくれ。これ以上面倒をみていたら、自分の生活が維持できなくなる」
佐々木さんは長女夫婦に対し、継続的な学費支援の中止を願い出ました。それまでいい顔をしていただけに、何とも情けなかったといいます。それでも、恥を忍んで伝えてよかったといいます。
「お金が底をつき、子どもたちに世話になるのも迷惑な話。きちんと自分で人生を終わらせるだけのお金は残しておかないといけません」
