イスラエル国旗とアメリカ国旗

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2月末以降、中東情勢はかつてない激化の一途をたどっている。イスラエルと米国によるイランへの直接的な軍事行動が引き金となり、レバノンへの戦線の拡大、紅海での緊張、そして国際的なエネルギー市場の混乱などが重なり、事態は地域紛争の範囲を越えている。

こうした中、イスラエルのネタニヤフ政権が国際社会の懸念を押し切り、一貫して強硬な軍事的手段をいとわない姿勢を貫いている。これまでのイスラエルによる軍事行動は国際法違反であり、国際社会からの批判は当然のことと言える。

しかし、その背景には、1948年の建国以来、イスラエルが抱え続けてきた宿命的な特殊事情と、現在の政治的力学が複雑に絡み合っている。

イスラエルの国防戦略を規定する最大の要因は、地政学的な脆弱(ぜいじゃく)性である。広大なアラブ世界に囲まれた極めて小さな領土を持つこの国にとって、一度の軍事的敗北は国家の消滅になりかねない。これをイスラエルでは生存の脅威と呼び、伝統的にベギン・ドクトリンに代表される先制攻撃の正当化がなされてきた。

敵対勢力が核兵器といった決定的な武器を保有することを断じて許さないというこの方針は、2026年4月現在のネタニヤフ政権の行動原理として色濃く反映されている。

また、イスラエルは建国以来、戦略的縦深(領土的ゆとり)の欠如を補うため、戦場を自国領内ではなく敵地に移す能動的防御を軍事教義の根幹としてきた。ガザやレバノン、そしてシリア、イランへと続く軍事展開は、彼らにとっての自衛の延長線上にあり、緩衝地帯を物理的に確保し続けることこそが国民の安全を保障する唯一の手段であるという信念が政権内に深く根付いている。

ホロコーストなど歴史的トラウマが影響

さらに、ネタニヤフ首相個人の政治的立場も、この強硬姿勢に拍車をかけている。国内で続く汚職裁判や司法改革を巡る分断、そして右派連立政権の維持という内政上の課題に直面する中、外部の脅威を強調し、強い指導者を演じることは、支持基盤を固めるための強力なカードとなる。

2026年3月に予算案を可決し早期選挙を回避した背景には、国防費の大幅増額を通じた戦時体制の維持が政治的生存戦略として機能している側面も否定できない。

しかし、最も本質的な特殊事情は、イスラエルが抱く孤立感と不信感である。ホロコーストという歴史的惨劇を経て建国された経緯から、彼らは最終的に自国の安全を他国や国際組織に委ねることはできないという教訓を骨の髄まで刻んでいる。

たとえ最大の同盟国である米国であっても、外交交渉によって脅威が取り除かれないと判断すれば、独断で軍事行動に踏み切る。この自立自衛の徹底こそが、中東情勢を激化させているネタニヤフ政権のブレーキなき独走の正体といえる。

現在の中東情勢は、単なる宗教対立や領土争いではない。それは、生存の極限状態に置かれ続けてきたイスラエルの歴史的トラウマと、核の影におびえる存亡の危機感が、政治的な野心と結びついた結果生じたものと言える。

国際社会がいくら停戦を求めても、イスラエル側から見れば、それは生存の権利を放棄せよとの要求に聞こえるのかも知れない。イスラエルによる行動に対する国際社会の批判は自然なものであるが、イスラエル側には上記のような事情がある。

文/和田大樹 内外タイムス