【社説】賃上げ進む春闘 中小企業にも勢い持続を

今年の春闘は大手企業で高い賃上げ回答が相次ぐ。労使交渉がこれから本格化する中小企業も、賃上げの勢いを持続させたい。
賃上げの相場に影響を与える自動車業界では、トヨタ自動車が6年連続で労働組合の要求に満額回答した。3月期決算で上場以来初の最終赤字に転じる見込みのホンダも満額で応じた。
九州では、九州電力が平均5%程度の賃上げを示し、労組と妥結した。賃上げの水準は比較可能な2003年以降で最も高い。
イオン九州は正社員の賃金を6・42%、パート従業員の時給を8・14%引き上げた。賃上げが非正規労働者に波及していることを歓迎したい。
連合がまとめた今春闘の最新の集計では、1506組合の平均賃上げ率は5・12%だった。前年同時期に及ばないものの、目標とする「5%以上」は達成できている。
消費者物価の上昇が続き、賃金が上がっても家計が苦しい状況が長期化している。実質賃金の改善に向け、大手企業が高い水準の賃上げを維持したことは評価できる。
今後の焦点は働く人の7割を占める中小企業に移る。賃上げが経営の重荷になっている中小企業は少なくない。
日本商工会議所の調査によると、26年度に賃上げ予定の中小企業の約7割は業績に改善が見られない。人手不足も深刻なままだ。人手を確保するため、利益を削ってでも賃上げせざるを得ない苦境がうかがえる。
さらに賃上げに影を落としそうなのが、中東情勢の緊迫化である。
燃料だけでなく幅広い製品の原材料となる石油の価格高騰は、さまざまなコスト増につながる。経営が悪化し、賃上げに慎重になる企業が出かねない。連合の芳野友子会長も「中東情勢は労使ともに懸念している」と述べた。
労使交渉と並行して、賃上げが持続しやすい環境づくりに官民で取り組みたい。
賃上げの原資を確保するには、コストの適正な価格転嫁が一層重要になる。
中小企業庁による昨年の調査では、コスト全体の転嫁率は50%台にとどまった。官公需も変わりない。大企業だけでなく、官公庁も中小企業の価格転嫁を受け入れる取引に努めるべきだ。
政府は中小企業の賃上げを促すため、助成金や税制の優遇措置といった支援策を用意している。まだ十分に活用されているとは言い難い。
全国商工会連合会の25年度調査では、賃上げ支援策について事業者の2割弱が「利用したいが、問題があり利用できない」と回答した。申請書を作成する負担や、手続きに時間がかかることが足かせになっているようだ。
助成金を不正受給する事業者もあり、厳格な手続きが必要なのは理解できる。支援制度の実効性が高くなるように工夫してほしい。