現場で作業中の交通管理隊

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1年で10万キロ走行

 日本には約70路線もの高速道路が存在する。なかでも列島の東西をつなぐ大動脈の安全を日々守っているのが、NEXCO中日本グループである「中日本ハイウェイ・パトロール名古屋」に所属する交通管理隊だ。

 前回紹介した交通管理隊の「落下物回収の現状」には大きな反響があった。今回はNEXCO中日本ハイウェイ・パトロール名古屋の豊田基地に赴き、日ごろどのような活動をしているのか、隊員たちにリアルな話を聞いた。

【写真で見る】これが高速道路上に!? 実際に落下したユニットハウスやバスタブなど……交通管理隊員たちの活動に迫る!

 部屋には多くの関係者がいたが、誰が隊員かはひと目で分かった。その作業服の色だ。非常に目立つ色をしている。

現場で作業中の交通管理隊

「高速道路をご利用されるお客さまからより早く視認していただくことで、事故リスクを低減し、お客さまや交通管理隊員の安全を守ることを目的に、制服を青色からJIS規格の定めである蛍光レッドに変更しました」

 交通管理隊の仕事は、「高速道路の安全を守ること」。事故や故障車が発生した時の交通規制などのために出動しているが、なかでも日常的に行っているのが、巡回や落下物の回収作業だ。

 普段、交通管理隊は日々の決まった業務として2人1組になり、豊田基地では日勤は2回以上、夜勤は3回以上、決められた路線の巡回パトロールをしている。

「1回の巡回で約160キロを走行します。人間は日勤と夜勤の交代制ですが、クルマはずっと走り続けます。そのため、基地によっては1年で15万キロ以上走り、4年で約60万キロ走行する巡回車もあります」

 巡回中に落下物を発見したらその場で回収するのだろうか。

「もちろん。車線上にあれば回収します。路肩にある目立たないものも、できる限り回収するようにしています。運転中に気になって目で追ってしまうこともあり、脇見運転・事故に繋がることもありますから。なのでパトロール車の後部座席には人が座れないほど、回収に必要な工具や機材が積まれています」

死と隣り合わせの現場

 交通管理隊の現場は、まさに死と隣り合わせの現場だ。次から次へと時速100キロのクルマが向かってくる高速道路に、生身の体で進入するのだ。回収現場では、1人が旗を振り、もう1人が作業をする。

「走行中の人に、我々の存在を示すことに加え、車線変更を促す意味で旗を振ります。ただ、振り方によっては、こちらが車線変更してほしいと思っても、通行者が勘違いして止まってしまうことも。意思疎通がうまくいかないせいで隊員が事故に巻き込まれるリスクもあるので慎重にしています」

 道路内では、こちらに走行してくる車に背を向けてはいけないという鉄則がある。隊員たちはヘルメットを装着しているが、体をガードすることはほぼない。危険な目に遭ったことはないのだろうか。

「車線規制をしている時、規制のために立てている機材を避けていただけない車両もあります。逐一、目を離さないようにして、すぐに逃げられるような体勢は取っていますが、目の前を猛スピードでクルマが通りすぎるとやっぱり背筋がゾクゾクと凍り、怖いです」

 ブルーカラーあるあるだが、冬はもちろん、夏でも隊員はけが防止のため長袖で作業を行う。素材の違う夏用の作業服の着心地を隊員に聞いてみた。

「暑くないですか?」

 すると一人の隊員が、上司の顔色をうかがいながらこう漏らす。

「あの、ぶっちゃけていいんだったら……暑いです」

 会場から笑いが起きた。

今まで拾ってきたもの

 前回もサバや生きた豚、ブロッコリーなど、報道された散乱物・落下物について紹介したが、今回集まってくれた4人の隊員たちにもどんなものを拾ったことがあるのかを聞いてみた。

「カヤックですね。どうやって落ちたのかは分かりませんが。あれを本線上から排除しましたが、大きすぎて車に乗りませんでした。そういう場合は、落下物を路肩のガードレールの外の方にいったん置き、別のメンテナンス業者に回収をお願いしています」

 よく車の屋根に荷物を載せているクルマを見かけるが、高速道路では必ず後ろに落ちるため、落としても気付かないことがある。この件ではその後、落とし主が現れたかは分からないようだが、湖について、さあ漕ぐぞとルーフを見たらカヤックがない、ということになっていなければいいが……。

「自分は牛の皮を回収したことがある。管制センターから指令を受けたんですが、普通、牛の皮が落ちていると聞けば、『革ジャンみたいなものが落ちてるのかな』と思うじゃないですか。でも、対向車線から対象物を見たら、ホルスタインの白と黒の生皮がベチョっと5枚ぐらい落ちていたんです。まさに今剥いだばかりというような」

 実際の回収は、思った以上に難航したようだ。

「牛の生皮って、重たいですし臭いんですよ。落とし主がいらっしゃったので来ていただいたんですが、作業員と落とし主、共に中央分離帯で嘔吐してしまうほど臭かったです(笑)」

 しかし、この牛皮にはもう1つ難点が。

「生皮だったので、油がびっしり路面に付いてしまって。油処理剤を撒いて綺麗にして、滑らないように掃除しました。ガソリン・軽油、オイル漏れは頻繁に起きるので、油処理剤は巡回車に常に積んでいます。それで牛の油もいけました(笑)」

夜間の回収作業

 夜間の回収になると、危険度が一気に上がる。

「夜はそもそも落下物が見えない。ヘッドライトが頼りですが、こちらもクルマ側も距離感がつかみにくい。極力目立つように体に光り物を付け、轢かれないような対策をしっかり取って回収します」

 特に暗い中、小さいものを回収する時は大変だという。

「建設業者さんなどのトラックから、釘が入った箱が落ちて散乱することがある。無論タイヤのパンクに繋がるので無視できず、安全確保しながらひとつひとつ回収するんですが、非常に骨が折れます」

 一方、夜間の場合、時速100キロで走るドライバー側は「あれ、今のは何だったんだろう」と、通過してから障害物の存在に気付くことがある。

 筆者自身も、怖い思いをしたことがある。

 夜中に東名高速を走行中、突然、煌々と光るライトが出現した。工事かと思ったが、速度規制や車線規制などは全くされおらず、何だろうと思いながら車線を変更しそのままの速度でそのライトの脇を通過したのだが、目にした光景を脳が画像処理するのに数秒、すでに100メートルは走った後だった。

 走行車線と追い越し車線をまたぐ形でクルマがひっくり返っており、その横に女性が立っていたのだ。

 恐らく事故を起こした直後だったのだと思う。改めて夜中の高速道路でスピードをあげて走ることの怖さを知った瞬間だった。

季節感のある落下物たち

 落下物にはその道路特有だったり、季節ごとに多くなったりするものがある。

「やはり田舎道だとロードキル(動物の死骸)が増えます。我々の管内だと、岐阜県の高山あたりではカモシカや狸、猿が多いですね」

「季節でいうと、冬は雪がたくさん降った地方から来た車が、ボンネットなどから直径30センチくらいの、カチカチに固まった雪の塊を落としていくことがあるんです。危ないので当然、出動します」

「夏はタイヤのバースト片も結構ありますね」

 真夏の炎天下では、路面温度が60度を超えることもある。走行中の摩擦熱と高温の路面から熱を受け続けるのだ。

「あと、夏はキャンプ用品、冬になると岐阜県の方ではスノーボードや、スキー板が結構落ちてたりします」

現場で最も厄介なのは〇〇

 季節はもちろんだが、彼らの仕事においては天候にも大きな影響を受ける。なかでもやっかいなのは「風の強い日」だそうだ。

 高速道路には、ビルなど風を遮るような高い建物がないところが少なくないうえに、車が作る気流などの影響で、もともとどこも常に風が強い。強風の日や海上にかかった橋の上では作業が難航するのだ。

「旗を振る際も、風の抵抗などが大きいんです。風向きなどが影響して、思うように旗がはためかないこともあるので、技術が必要です」

「現場では、車線規制などで使用する方向指示板などを設置するんですけれど、海上近くの道路なんかでは突風で飛んでしまうため、毎度車内に積んである重石を載せたりしています」

 回収作業そのものにも影響があるという。

「ベニヤ板など、面積が広いものを回収する時は、風圧がかかって体ごと持っていかれる。非常に危険なので、車に背を向けないようにしつつ、できるだけ風に広い面積が当たらないように回収しています」

「前出のロードキルですが、見た目はもちろん、実はニオイが非常にきついんです。回収時、風下にいるとそのにおいを一気に体で受けてしまうため、立ち位置にも工夫が必要です。もちろん、走行してくるクルマには背を向けないことを第一条件としています」

 もう一つ、強風時に厄介なのが、紙束の落下物だ。

「ポスターとかリーフレットのようなものは、もう追いかけっこ状態です。回収しても回収しても追いつきません」

トンネルでの作業は命がけ

 交通管理隊員たちが「怖い」と口を揃える場所がある。「トンネル出口付近」だ。

「トンネルを走ってくる一般のお客様のなかには時折、ヘッドライトをつけていないことがあるんですね。最近はオートライト機能が付いた車も多くなりましたが、年式が古い車や、ドライバーの操作でライトのつけ忘れなどがあると、向かってくる車を非常に認識しにくいんです。車が来たことを見落とすことがありすごく怖いです」

 3月20日、三重県亀山市の新名神高速でトラックが渋滞の車列に追突し、6名の命が奪われた大きな事故が起きた。犠牲者の身元すら分からないほどの大惨事。まだ詳細は分からないが、ただでさえ視界が狭く、自然光が入って来ないトンネル内は、とにかく自身の存在を知らせる意味でもライトは必要になる。

 ドライバーのなかには、「トンネル内は明るいからライトなんか付けなくてもいい」、と話す人がいるが、交通管理隊はもちろん、道路利用者にとってトンネル内のそれは、自分たちの命を守る「道しるべ」になるのだ。

落下物の落とし主の多くがトラック

 落下物の回収場所に案内してもらった。

 そこで目につくのは、フォークリフトで運搬する際に使用する板状の台「パレット」や、養生に使われる毛布、角材、フレコンなど、やはりトラックによく載っているようなものだ。

 トラックのなかでも特に落下物が多いのは、「平(ひら)ボディ」だ。平ボディはクレーンで吊らないと積めない鉄筋や金型、大型の製造物などを運ぶ際によく使われるタイプの車両だ。

 荷台が箱型のトラックは何かの拍子でクルマが跳ねても、荷物が車外に飛び出ることはほとんどない。が、平ボディは「幌(ホロ)」と呼ばれる布で上を覆っているだけ。そのゴムが緩かったり、荷締め(積んだ荷物を固定する作業)が甘かったり、そもそも固定していなかったりすると、荷物が容易に荷台から落下する。

 一方、普段トラックの荷締めを経験していない一般の人たちが、軽トラックを借りて落としたと思われる家具などの落下物も見受けられた。先述した「季節ごとの落下物」には、家具や引っ越し関連の落下物も少なくないという。

 落とし主が業者なのか一般人なのかは分からないが、実際、落下物置き場の一角に「バスタブ」が置かれていた。

 これほど大きなものが時速100キロのクルマが走る高速道路のど真ん中に落ちていれば、それは「障害物」ではなく、もはや「凶器」だ。バスタブをよく見てみると、クルマと接触した跡がある。

「こうして衝突痕や乗り上げの形跡がある落下物においては、証拠で使われることがあったりするので、すぐに廃棄せずにしばらく残しておくようにしています」

落下物のその後

 こうした落下物は、回収後どう処理しているのだろうか。

「落とし主が分かっていれば引き渡し、または会社に回収を依頼しています。判明していない場合は、明らかな廃棄物を除いて、先ほどのバスタブのように一定期間保管し、その後に破棄しています。生ものは基本的に廃棄していますね」

 落下物や散乱物を回収するには、人的にも物的にもコストがかかるはず。これらに対して、落とし主に費用を請求したりはしているのだろうか。

「落下物が原因となり、道路に汚損や破損が生じた場合には、その復旧にかかる費用を請求する場合がありますが、通常の高速道路の維持管理の中で行っているので、費用は基本的に請求していません。通行止めを実施した場合の減収に対する損害賠償等も請求していません」

現場からの切なる願い

 最後に、高速道路利用者に対して隊員からのお願いを聞いた。

「私たちパトロール隊は、落下物の回収時は必ずパトロールカーの赤色灯と車載標識でお知らせをして作業しています。高速道路上にまさか人が立っているとは思われないかもしれませんが、私たち交通管理隊はそんな危険な場所で生身の体で作業しています。パトロールカーを見つけた時には、速度を落とし、前方によく注意した走行をお願いします」

「落下物の情報は、道路管制センターで制御する情報板によって情報提供していますが、必ずしもお客さまが確認出来る場所に情報板があるとは限らず、突然目の前に落下物が現れる可能性も。速度規制50キロの時は、その先で作業していたり、何か事故や故障・落下物が発生しているので、より注意して走っていただきたいです」

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部