“生成AIが任天堂を脅かす”説に識者は「さすがに話を盛りすぎ」…まだまだ「AIは任天堂の敵ではない」と断言する4つの理由
第1回【「Switch2」爆売れも「任天堂株」は半年で「40%超」大暴落のナゾ…“生成AIの進化でゲームメーカーは終焉を迎える”は本当か】からの続き──。任天堂の株価が下落を続けている。昨年8月には過去最高の1万4795円まで上昇したのだが、今年1月を過ぎると下落の傾向を強め、2月9日午後12時すぎで8646円。下落率は41・6%だ。(全2回の第2回)
***
【写真を見る】眉をしかめて困惑の表情を浮かべ…ハリウッドで議論が白熱したAI女優の“リアルな演技”。今後もAIはエンタメ業界に激震をもたらし続ける。
任天堂ほどの優良企業で、なぜ突然に株価が下落してしまったのか。当然ながら様々な分析が報じられた。担当記者が言う。

「まずは半導体メモリーの価格が急騰していることです。AIの世界的ブームで半導体の“争奪戦”が起きています。価格が高止まりすると、当然ながら任天堂がゲーム機を作る際のコストが上昇してしまいます。そもそもゲーム機は消費者に買ってもらわないと話にならないので、価格は安く設定されています。価格を据え置けば『売るほど赤字』の悪循環が起きるかもしれませんし、値上げすればユーザーが離れる危険性があります。それを株式市場は嫌気したと見られています」
だが、「もっと根本的な問題がある」と指摘する識者、関係者も少なくない。彼らが挙げるのはAIの劇的な進化だ。
「1月にGoogleはAIモデル『Project Genie』を発表しました。Genieを使えば誰もが簡単に架空の3D空間を作ることができます。今のGenieにゲームを作る能力はありませんが、個人が上手に活用すれば3D空間を使ってゲーム製作のハードルが劇的に下がると考えられています。Googleの発表後、『近い将来、誰でもゲームが作れるようになり、特別のメーカーは必要なくなる』という見解が一気に拡散しました」(同・記者)
“プロ”の作品は常に評価される
Genieの影響を受けたのは任天堂だけではない。アメリカなどのゲームメーカー数社の株価も下がっている。
ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「確かにAIがどれだけ人間の仕事を奪うのか、AIはどれだけ私たちの生活に影響を与えるのか、という問題は極めて現代的で、非常に関心の高いテーマだと思います」と言う。
「とはいえ、AIを過大評価する傾向が認められるのも事実です。なぜ任天堂の株価が下落したのか。その理由として一番に挙げられるべきは半導体メモリーの値上げでしょう。そして補足としてAIの発達を挙げるのはフェアな指摘だと思います。一方、半導体メモリーの値上げよりも『AIの発達はゲーム業界にとって脅威なのだ』という論点を重視する分析は、少し盛りすぎだと言わざるを得ません」
井上氏は「映像や音楽など、他のエンターテインメント業界を思い浮かべればすぐに分かるはずです」と言う。
「例えば音楽です。今では楽器が弾けなくても、歌が音痴でも、自分で作詞作曲した楽曲を自動演奏させ、ボーカロイドに歌わせることが可能です。映像の世界ではスマートフォンを使って動画を撮影すれば、インターネットを通じて世界中の人に見てもらうことが可能です。音楽や映像が“個人の趣味”として楽しめる時代になっても、ネット上で“粗製濫造”のひどい楽曲や動画が氾濫しても、プロのクリエイターが制作したレベルの高い作品は世界中の人々が強い関心を持ちます。YouTubeに問題だらけの動画が大量に投稿される一方で、映画『ズートピア2』は世界各国で大ヒットしました。つまりAIで簡単にゲームが作れる時代になっても、消費者はプロの任天堂が作ったゲームに関心を失うことはないと考えられます。これが第一の理由です」
AIに“創造”は不可能
どんなにAIが優秀であっても、「人工知能は絶対に閃かない」──これが最も重要なポイントだと井上氏は指摘する。
「私は配信サイトで芥川賞と直木賞の発表と記者会見を中継する番組の司会を担当しています。最近は編集者や書評家の皆さんと『AIが書いた小説』について議論する機会も増えてきました。AIに小説を書かせると、ネット上に公開されている作品や、著作権が切れた過去の名作を“学習”し、一定のレベルに達したものを脱稿するそうです。ただし文学新人賞でいえば2次予選を通過するかどうかというところで、最終選考に残るほどではない。その理由はAIの学習能力や計算能力、推測能力など論理的な部分は人間をはるかに凌駕していても、今のところ『無から有を生み出す』という創造行為は無理だからです。AIがクリエーターに成長するには、まだまだ時間が必要ということでしょう」(同・井上氏)
AIは過去に書かれてきた小説を学び、その延長線上にある作品を手堅くまとめることはできる。だが「閃き」というクリエイティビティは欠如しているため、どこかつまらない。読者を驚かせるような個性的な作品は絶対に書けない──。
井上氏は「ポケットモンスター」を例に挙げる。ポケモンがない時代にポケモンのコンセプトを発案することができるのは人間だけだ。
完全にオリジナルな世界観やキャラクターをゼロからAIが作り出すことはできない。もしAIに「『ゼルダの伝説』っぽいゲームを作って」と頼めば簡単に完成するだろうが、真にオリジナルのゲームは生み出せない。
「AIが得意なのは完成したポケモンを使って、どんなビジネス展開をするか、といったコンサル的な場面でしょう。クリエイティビティの観点から考えると、AIが作ったゲームが任天堂のゲームを凌駕することはあり得ない。これが第2の理由です」と井上氏は言う。
任天堂もAIを活用する可能性
「任天堂の強さは他にもあります。インディーズ出身の人気バンドを思い浮かべてください。ファンの数が増えるほど、最後は大手のレコード会社と契約を結ぶはずです。大企業は販売力と宣伝力を持っていますし、著作権が侵害された時など、ミュージシャンを守るノウハウも蓄積しています。同じことはゲーム業界にも言えます。10年に1人の天才がAIを使ってゲームを作り、全世界のユーザーを驚かせたとしましょう。その天才が任天堂と組んで仕事をする可能性は非常に高いと思います。実際、ファミコンの時代から、外部の優れたゲームクリエイターが話題作を提供してきました。第3の理由として任天堂が外部の天才と仕事を共にしてきた歴史を挙げます」(同・井上氏)
そもそも任天堂とAIを対立的に考えるほうが間違っているかもしれない。井上氏は「任天堂ほどの企業が最新のAI技術を参考にしないとは考えにくいです」と言う。
「任天堂ほどの資金力と技術力があれば、自社でAIを開発しても不思議ではないでしょう。将来的には任天堂もAIを活用して素晴らしいゲームを量産すると考えたほうがよほど自然です。今、この瞬間にもAIの専門家と任天堂の社員が技術的な交流を深めていたとしても私は驚きません。任天堂がAIを活用する可能性のほうが高いというのが第4の理由です」
井上氏は任天堂の株安を考えるにあたり、まずは半導体メモリーの不足のほうが不安材料としては大きいと指摘した。
第1回【「Switch2」爆売れも「任天堂株」は半年で「40%超」大暴落のナゾ…“生成AIの進化でゲームメーカーは終焉を迎える”は本当か】では、昨年8月に過去最高の株価を記録した任天堂に“半導体ショック”が直撃し、あっという間に株価が下落していった経緯などについて詳細に報じている──。
デイリー新潮編集部
