10円のもやしで腹を満たすことばかり考えている⋯「年金月16万円」都内72歳男性が直面する老後安泰の崩壊、物価高に潰される残酷な現実「50年働いた結果がこれか」
「真面目に働いていれば、老後は安泰」というかつての常識が、今や過去のものとなりつつあります。50年ほど働き、人並みの年金を受給しているはずの人でさえ、止まらない物価高や都市部での高い生活コストという現実に、苦しい状況に追い込まれているのです。ある男性のケースを見ていきましょう。
「普通に働いてきたはずなのに」……72歳、都内一人暮らしの日常
東京都内の築40年ほどのマンションで1人暮らしをする佐藤和夫さん(72歳・仮名)。毎週末、近所のスーパーへ足を運ぶのが習慣です。お目当ては土日限定で「1袋10円」になるもやしだといいます。
「毎回5袋は買いますね。結構、周りの人も複数買っているようですよ。ただ、たくさん買っても飽きるので、どうやってこのもやしを、飽きずに、かつお腹に溜まるおかずに変えるか……。そんなことばかりを考えて毎日を過ごしていますよ」
苦笑しながら話す佐藤さんは、専門学校を卒業後、都内の中堅商社に就職。定年の60歳まで正社員として勤め上げました。その後も、体力が続く限りはと、ビルの清掃や管理の仕事で70歳まで働き続けたそうです。
「そろそろ働くのもしんどいし、年金だけでやっていけるだろうと思って、仕事を辞めました」
現在は、厚生年金と国民年金合わせて月額約16万円を受給しています。元会社員の平均的な受給額に近い水準であり、自分自身でも「人並みの老後」が送れると考えていました。しかし、その見通しは甘かったと佐藤さんは唇を噛みます。
「年金だけでは、家賃や光熱費、社会保険料を引いた後に手元に残るのは、わずかな金額。そこへ近年の物価高です。以前は100円程度で買えた卵もパンも、今では1.5倍から2倍近い感覚です。電気代が上がる冬場は、本当に食費を削るしかありません」
佐藤さんの夕食の定番は、10円のもやしに少しの豚こま肉を加え、片栗粉でとろみをつけた炒め物や、もやしをかさ増しに使ったお好み焼き風の料理。
「本当は、たまには寿司や刺身を食べたいのですが。でも、この先どうなるのかわからないので、ちょっとした贅沢をするのも怖いですよね。50年も汗水垂らして働いてきた結果が節約の日々だと思うと、情けなくて涙が出そうですよ。何のためにあんなに頑張って働いたのか、わからなくなってしまいました」
物価高が直撃する「年金生活者」の厳しい台所事情
厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金(第1号)受給者の平均年金月額は、基礎年金を含めて15万1,142円。前年度と比較すると平均で3,700円ほど増えています。また65歳以上・男性の厚生年金受給権者に限ると、平均受給額は月額17万3,033円。こちらも前年から平均で3,500円ほど増えています。さらに年金受取額の分布をみてみると、男性で月17万円以上を受け取っている人は36.2%。元会社員の6割以上は平均以下の受取額というのが現実で、佐藤さんもそこに含まれます。
一方で、総務省『家計調査』によると、単身高齢者の1ヵ月の平均的な支出は15万円程度。年金の受取額から税金や保険料などを差し引くと、たとえ年金受取額が平均的であっても、年金だけで暮らすのは厳しいのが現状です。
そこにきて、家計を圧迫している最大の要因が物価高。総務省『消費者物価指数(CPI)』によると、生鮮食品を除く食料品やエネルギー価格の上昇が顕著です。賃金が上昇傾向にある現役世代とは異なり、年金受給額は物価変動に完全に連動して増えるわけではありません。「マクロ経済スライド」などの調整メカニズムにより、実質的な購買力は低下傾向にあります。
今の年金世代の多くは、真面目に働き、保険料を納めていれば、老後は安泰と考えてきました。しかし2019年、金融庁の報告書で「高齢夫婦無職世帯が老後30年で約2,000万円不足する」と試算され、老後を見据えた資産形成の重要性が声高に叫ばれるようになりました。今の年金世代は時すでに遅く、ただ耐えるしかありません。
一方で、そんな高齢者を目の当たりにする現役世代には、「今後、年金は2割目減りする」というさらに厳しい未来が待っています。時間を味方にして、できるだけ早く資産形成に取り掛かるしか、防衛策はなさそうです。
