TVerを“すべてのコンテンツ”の入口に 取締役・佐竹正任に聞く10年の歩みとテレビの価値
2015年10月にローンチしたTVer。当初は53番組・7コーナー、計60コンテンツのVOD配信だったが、現在では常時800番組以上のVOD配信に加え、地上波放送のリアルタイム配信、オリジナルのコンテンツなども配信。サービス規模も順調に拡大していて、月間再生数は4億9,600万再生(2024年12月)、月間ユーザー数は4000万以上となっている。
参考:TVerはなぜユーザー数を伸ばし続けることができたのか “出会いと発見”の狙いを聞く
いまや映像コンテンツの主軸になっていると言っても過言ではないTVer。この10年の軌跡、現在のサービス内容、プラットフォームとしての今後のビジョンなどについて、TVer取締役の佐竹正任氏に聞いた。(森朋之)
●想定以上のスピードで進んだ10年、テレビに不可欠なプラットフォームへ
――TVerが10周年を迎えました。今やTVerは日本の映像コンテンツ配信を代表するプラットフォームですが、この状況をどう捉えていますか?
佐竹正任(以下、佐竹):TVerに出向する前は、フジテレビ編成の人間として、コンテンツを提供させていただく立場でした。当初は「どれくらいコンテンツを出していくか」というところから始まったのですが、今や各テレビ局のコンテンツがほぼすべて格納されるまでになり、テレビ放送だけではリーチできない視聴者にコンテンツを届けてくれる、きわめて大事なプラットフォームになっていると思います。“自宅で家族そろってテレビを観る”のは主流の時代から、社会やインフラの変遷に応じてスタイルが変化を続け、今は好きな時間、好きな場所で好きな番組を観られるようになった。生活のあらゆる場面でテレビのコンテンツを楽しんでもらえる状況になり、より身近になっていると思います。その変化のスピードは想定以上でしたね。
――TVerの浸透によって、視聴者のテレビを観るスタイルも大きく変化しました。
佐竹:そうですね。当初は見逃したドラマやバラエティを観るためにTVerを使う方が多かったと思いますが、今はお目当ての番組だけではなく、TVerのなかで新しいコンテンツに出会い、さらに広がっていくフェーズに入っているのかなと。その傾向をさらに促すためには、やはりコンテンツ編成がポイントになると思います。ドラマで言えばランキングが導線になることも多いですし、俳優さんで括ったり、“90年代”“00年代”など時代で区切ったり、名作ドラマをまとめて紹介したり、様々な施策を行っています。こちらから「ぜひ観ていただきたい」とオススメする特集もありますし、その一つ一つが、次のコンテンツとの出会いを作っているのかなと。今後の課題としては、One to Oneのマーケティングを充実させていきたいですね。特定の“あなた”のニーズに合った番組を確実にお届けできる仕組み作りは、これからやらなくてはいけないことだと思っています。
●『silent』が示したテレビとの相互作用
――なるほど。ドラマに関しては、『silent』(フジテレビ系)や『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)などがTVerで大きな話題を集めたことが大ヒットにつながりました。
佐竹:TVerだけ、もしくはテレビだけでヒットするという事例はあまりなく、相互作用によってヒットにつながっているのだと思います。『silent』で特徴的だったのは、TVerの再生数が上がったことで、テレビの視聴率にも跳ね返ったこと。初回から記録的な再生数となり、それが高止まりしたことで「リアルタイムで観たい」という欲求に結び付いた。テレビとTVerがいかに密接につながっているかを示した例だと思います。また「一人でストーリーに没入したい」という視聴の形も生まれました。
――ドラマのヒットの指標にも影響を与えているのでは?
佐竹:ドラマはもちろん、バラエティ番組もそうですが、配信再生数はとても大きな指標になっています。以前は視聴率がいちばんの評価軸でしたが、今は各局とも、視聴率とともに配信再生数も評価するのが一般的になっています。
――スポーツ中継などで実績を積んでいる生配信についてはどうでしょうか?
佐竹:手ごたえはとても大きいですね。最近ではやはり『東京2025世界陸上』。TBSさんのご尽力のおかげでテレビ放送と同じものを配信させていただくのはもちろん、さらに4つのLIVEのラインを用意することで、同時並行で行われる競技をすべて生配信でカバーすることができました。つまり、主な競技を網羅するテレビ放送を楽しみながら、ピンポイントで「この競技を観たい」というニーズにも対応できた。テレビとTVerで補完し合いながら、どっぷりと『世界陸上』にのめりこんでいただけたのかなと思っています。
――まさにTVerならではの付加価値ですね。
佐竹:そうですね。ユーザーの皆さんにもきわめて好評で、『世界陸上』をきっかけにTVerのサービスに初めて触れた方が増えたというデータも出ています。また日本テレビさんの『箱根駅伝』『全国高校サッカー選手権大会』との取り組みもご支持をいただいています。『箱根駅伝』では、「沿道で応援しながら、TVerでレース全体を把握する」という新たな視聴スタイルを提供できたのかなと。『高校サッカー』では、放送されるカードに至るまでの勝ち上がりの試合も配信し、学校関係者の皆さん、選手の親御さんたちの熱狂につながったと思っています。2026年のミラノ五輪でもテレビ放送はもちろん、ほぼすべての競技をTVerで視聴いただけるように準備しているので、ぜひ期待していただきたいです。
●「テレビは面白い!」からこそできること
――現在、Mrs. GREEN APPLEが6月に神奈川・Kアリーナ横浜で開催したエンタテインメントショー「Mrs. GREEN APPLE presents『CEREMONY』」が独占無料配信中。この企画も大きな注目を集めています。
佐竹:ライブの独占配信についても、今後も取り組んでいきたいと思っています。各局の音楽番組もTVerで視聴できるようになっていますし、TVerならではの楽しみ方も提示していきたいと思っています。ドラマであれば最終回の後のエピソードやスピンオフ、バラエティの本放送に入りきらなかった部分なども魅力的なコンテンツになりえる。テレビとTVerの両方を観ていただくことで、さらに楽しみ方が広がりますし、そこはテレビ局と連携しながら拡充していきたいですね。
――バラエティ番組も根強い人気を得ていますし、TVerによって、テレビのコンテンツの魅力が幅広く伝わっている印象もあります。
佐竹:私も制作者の端くれとして、多くの番組を作ってきました。そのなかで実感しているのは、プロの制作者たちが「より面白いものを」と磨き上げるコンテンツはやはりすごいなと。ユーザー発信のプラットフォームがこれだけの広がりを見せ、数多くの映像コンテンツが配信されていますが、「やっぱり日本のテレビコンテンツは面白い」という評価は揺るがないと思っています。TVerでは、レギュラー番組で毎週700から800番組の新しいコンテンツが更新されています。これは凄まじい強みだと思いますし、これほど多くの新作が更新され続けるプラットフォームは、世界を見渡してもほかにはないだろうなと。
――確かにそうですね。
佐竹:さらに地方局にも「こんなに面白いものがあったのか」というコンテンツがたくさんあるんです。我々としては「TVerなら、キー局だけでなく地方局も含めた最新の面白いコンテンツと出会える」ということをさらに知っていただく努力を重ね、TVerのなかで回遊することの楽しさを伝えていかなくてはと思っています。
――ビジネスの側面についても聞かせてください。TVerは広告型動画配信ですが、広告媒体としての価値についてはどう捉えていますか?
佐竹:良質でプレミアムなコンテンツにアクセスできるのがTVerの特長であり、広告主の皆さまにもそこを高く評価していただいています。その理由は、ほぼすべてがテレビ由来のコンテンツで、放送法はもちろん、各局の厳格な放送基準をクリアしていること。安心・安全なコンテンツで満たされていますし、なおかつ週に700~800番組の新エピソードが更新されるので、広告媒体としての信頼性は群を抜いていると自負しています。TVer広告の売上も前年比221%の伸び率。現在もナショナルクライアントの皆さま、代理店の皆さまからの「ぜひTVerに広告を流したい」という依頼が増えていて、このトレンドは今後も続くと考えています。我々としては今後も、より良質で安心・安全なコンテンツを数多く用意することによって広告媒体としての価値をさらに高めていきたいと考えています。
●10周年以降のビジョンは「すべてのコンテンツの入り口」
――10周年以降のビジョンについては?
佐竹:この後もさまざまな施策やサービスを用意していますので、ぜひ楽しみにしていてほしいと思います。もっと大きな視点では、TVerをすべてのコンテンツの入り口にしたいんです。日々のニュースや必要な情報、ドラマ、バラエティ、スポーツ、アニメ、音楽から映画まで、TVerを経由することで、必要な映像コンテンツにリーチできる。そういうプラットフォームに育てることが我々の目標ですし、全社をあげて努力していけたらなと。まさに社会のインフラとして機能し、単にコンテンツが集まっているだけではなく、1人1人に“あなたに届けたいコンテンツはこれです”と提示できる場にしていきたいですね。
――テレビ番組の制作者の皆さんに対しては、どんな思いがありますか?
佐竹:私も長い間、テレビ制作の現場にいましたので、番組を作っている皆さんの力はもちろんわかっていますし、ゼロからエンターテインメントを産み出す彼らに対するリスペクトもずっと持っています。TVerに来て実感したのは、この会社は最先端のIT企業でありITリテラシーがきわめて高い優秀なスタッフばかりなのですが、テレビ局出身である私と同様に、誰もがコンテンツへのリスペクトを強く持って日々仕事にあたっているんです。なので制作者の方々も信頼してTVerを活用していただけたらうれしいですね。
――TVerの広がりによって、テレビ番組の価値を改めて知らしめることができた。そんな実感もあるのでは?
佐竹:そうですね。テレビ由来のコンテンツがどれだけの方々に届き、どれだけ人々や社会に影響を与えられるかが、これからのテレビの価値を決める尺度。TVerが大きくなれば、それをもっと高めていけると思っています。(文=森朋之)

