「コイツだけは地獄に堕ちて欲しい」首都高6人死傷事故・初公判 遺族が絶対に許せない「被告人を睡眠不足に陥らせた不倫LINE500通」と「事故3カ月後の獄中再婚」

「率直に言わせていただければ言葉は適切ではないかもしれませんが、本当にコイツだけは地獄に堕ちてほしい。死んで欲しいと思いながらずっと傍聴していました」。初公判後の記者会見で、遺族はこう言い放った。なぜ遺族はここまで怒りをあらわにするのかーー。裁判で明らかになった新事実と被告人が法廷で見せた態度をみれば、確かに「極刑にして欲しい」という遺族の願いが伝わってくるのである。
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ヨレヨレのTシャツにスウェット姿で法廷に
5月20日、東京地方裁判所で、昨年5月に首都高速道路で6人を死傷させる事故を起こして自動車運転処罰法違反(過失致死傷)罪に問われた降籏紗京被告(29)の初公判が開かれた。

事故が起きたのは2024年5月14日午前7時36分頃。場所は、高島平方面から美女木ジャンクション方面に向かう首都高速5号池袋線下り道路上だった。
運転していた大型トラックの車中で重度の睡眠時無呼吸症候群に陥った降籏被告は、ブレーキを踏まずに渋滞の車列に衝突。衝撃で6台が玉突き事故を起こし、前方に停車していたトラックとの間に挟まれた乗用車3台が炎上した。乗用車に乗っていた、船本宏史さん(当時54)、小松謙一さん(当時58)、杉平裕紀さん(当時42)が頭部損傷などで死亡し、他3人が重軽傷を負う大事故となった。
事故から1年経過して始まった注目の初公判。降籏被告はヨレヨレのグレーのTシャツにスウェット姿で法廷に現れた。いがぐり頭の頭頂部は禿げかかっており年齢よりは老けて見える。起訴状が読み上げられた後、降籏被告は裁判長から「間違っているところはありますか」と問われ、「ありません」と述べた。
法廷で明かされた「不倫LINE」の詳細
検察側の冒頭陳述では、降籏被告が重度の風邪症状を抱え、睡眠不足の状態で車を運転していた状況が詳細に明かされた。
事故3日前の5月11日には喉の痛みを伴う風邪症状を発症。翌12日夕方頃には、唾液を飲み込めないほどの強い痛みを喉に感じていたという。傍聴人を驚かせたのは、検察官の口から発せられた「不倫」というワードだった。
「その頃交際していた不倫関係にあった女性に対し、LINEで『熱出てきた』『38.4』などとLINEメッセージを送信していた」(検察側の冒陳より)
だが、降籏被告は病院にもいかず、市販薬「ルル」を服用するだけでその後も勤務を続けたのである。ルルは眠気成分を含有する抗ヒスタミン剤だ。
事故前日の13日は午前3時頃に起床。熱はさらに上がっていたが出勤した。不倫相手の女性には「喉と頭痛」「今熱測ったら8.9」などとLINE。昼頃に帰宅したが、一見して顔面が真っ赤で、明らかに体調不良がわかる状態だったという。
事故直前にも運転しながら不倫相手に「めっちゃ美味しそう」とLINE
だが帰宅後も療養に努めず、不倫相手へのLINEも続けたのである。
「午後7時16分頃から翌14日午前1時41分までの間、『全身汗だく 熱は7.3だいぶ下がった』『喉の片側だけ痛いのと熱がまだ上がってきてて市販の風邪薬効かない』などの体調不良の話や仕事の話、女性の家族の話などについて断続的にメッセージのやり取りをして睡眠を十分に取らなかった。その頃までの間に抗ヒスタミン剤である風邪薬を合計5回服用した」(検察側の冒陳より)
そして1時間ほどの睡眠で午前3時頃には起床。再び仕事に出掛けて事故を起こすのである。
会社で代替要員の申告ができた状態だったにもかかわらず、仕事を休むと言えなかった理由として検察官が述べたのは「借金」だった。
降籏被告は23年6月にも勤務中に事故を起こして罰金70万円に処されていたが、罰金が払えず、会社に金を借りていたため「会社に迷惑をかけられない」「事故を起こすことはないだろう」と考えたというのである。
事故を起こす30分ほど前に、20回以上、車線を踏み外しながらふらふら状態で運転していたことも明かされた。しかも、事故を起こす28分前の7時8分頃には、右手でハンドルを操作しながら左手で携帯電話を操作し、愛人がLINEで送ってきたお弁当の画像に対し「めっちゃ美味しそう」と返信していた。風邪をひいてから事故を起こす直前まで続いた4日間で愛人と交わしたLINEは500通に及ぶという。
検察官は、事故翌月の24年6月、降籏被告が前妻と離婚し、8月には別の女性と“獄中再婚”していた事実も明かした。供述調書を読んだ遺族によれば、再婚相手はLINEしていた女性とは別の女性とのこと。LINEしていた女性には不倫していた自覚はなく、妻とは別れていて独身と嘘をつかれていたという。
事故4日前の10日には、飲酒していて、不倫相手に「やめた方がいい」と止められていたにもかかわらず、車に乗って会いに行っていたことを示す証拠LINEも読み上げられた。
法廷に響きわたった遺族の嗚咽
法廷では事故発生時の証拠映像が流された。ドライブレコーダーには、ブレーキを踏まずに時速約70キロで前の車に激突し、フロントガラスに激しい衝突音と共にバリバリと亀裂が入るまでの生々しい様子が映っていた。監視カメラ映像には、ぶつけられた車から炎が上がる様子が映し出された。
この映像が流れると、遺族席から大きな嗚咽が響き渡った。だが降籏被告はみじろぎもせず検察官の話を聞き入ったままで、閉廷するまで涙ひとつこぼすことはなかった。
遺族側によれば、降籏容疑者や会社側から一度も謝罪や示談交渉の話が来ていないという。
かくして公判後の記者会見で、遺族は冒頭のような怒りの言葉をぶちまけたのである。「死んで欲しい」と訴えたのは、夫の杉平裕紀さんを亡くした妻の智里さん。杉平さんは高校生と中学生の2人の子供がいたが、事故に巻き込まれて帰らぬ人となった。
「被告人に同情しないで」。遺族の叫び
杉平さんの妻が訴えたのは、故意による事故と認められなかったため、危険運転致死傷罪が適用されなかった無念である。
「過失運転致死傷罪の最高刑は7年で、危険運転致死傷罪は20年です。あまりにも差がありすぎる。素人の考えかもしれませんが、ながら運転、数日前の飲酒運転、過去の犯歴、降籏の人物像、反省の色がない人柄も加味できないものでしょうか。このように点数で加算されていけば、7年を越える事案だと思います。これまで会社側の責任を問う報道があったためネット上には降籏に対して同情する声が出ていましたが、今日の公判で明らかになった通り、降籏に事故の責任があるのは明白です」(杉平智里さん)
夫の船本宏史さんを亡くした、妻・恵津子さんも涙を流しながらこう訴えた。
「供述調書の中には、数日間の愛人とのLINEの記録が大量に載っていました。愛している、早く一緒になりたい、次はもっとチュッチュしようね…。低俗な会話が延々と続きます。一体私たちは何を見せられているのだろう、という強い怒りと落胆の気持ちでいっぱいでした」(船本恵津子さん)
「(降籏被告が再婚した)8月というと、まだ主人が亡くなったことを受け入れられない中、主人の会社の社宅から退去を命じられていた時です。私自身、4月から働き始めた勤務先から勤務日数が足りないということでクビになる可能性を示唆されるなど、本当にどん底の地獄のような日々でした。その中で、降籏は税金で面倒を見てもらいながら、再婚し、出所後の生活に期待を抱いて生きていた。これは心から反省している人間がとる態度でしょうか」(同)
次回公判では、遺族が被害者参加制度を用いて被告人質問で直接質問をする予定だ。遺族が何を問い、降籏被告がどう答えるかに注目したい。
デイリー新潮編集部