(左から)塚原あゆ子、宮本信子

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 伊丹十三4K映画祭『お葬式』上映記念登壇イベントが2月22日、TOHOシネマズ日比谷にて開催され、女優の宮本信子、塚原あゆ子監督が登壇し、伊丹監督の偉大さを語り合った。

参考:『お葬式』『マルタイの女』などがスクリーンに 「伊丹十三4K映画祭」2月21日より開催

 伊丹十三4K映画祭は、故・伊丹監督がこの世に残した10の映画を4Kでリマスターし、10週連続でTOHOシネマズ 日比谷、TOHOシネマズ 梅田にて上映するというもの。その第1弾上映となった映画『お葬式』は、それまで広告デザイナーやエッセイスト、俳優など幅広い表現で活躍していた伊丹の初映画監督作品。1984年に封切られた本作は、妻・千鶴子(宮本信子)の父親が亡くなったことで初めて喪主を務めることになった侘助(山粼努)に巻き起こる騒動をコミカルに描いた傑作。初監督作品ながら伊丹監督は本作で、第8回日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ監督賞、脚本賞、主演男優賞、助演男優賞など5冠達成。そのほか数々の映画賞を受賞するなど、映画界に大きなインパクトを与えた。

 伊丹監督の妻であり、名女優として現在も数々の作品に出演し存在感を示している宮本は、この日の劇場のチケットが完売したという知らせを聞き「映画公開から40年も経って、昔の映画がこうやって大きなスクリーンで上映される。こんなに嬉しいことはありません」と感無量な表情を浮かべる。

 『お葬式』は宮本の父が亡くなったことがきっかけで、伊丹監督が脚本を書いたというのは有名な話だが、改めて宮本は「お葬式の最後の火葬場の煙を二人で見ていたとき、伊丹さんが『小津(安二郎)さんの映画に出ているみたいだね。これは映画になるね』とつぶやいたんです。それから少し間があって『映画を作ろう』ってね」と当時を振り返る。

 それから父親の葬儀だというのに「とにかく脚本を書くので、あなたはメモをしなさい」と宮本に手伝ってもらい、1週間で脚本を書きあげたという。そんな思い出話を披露した宮本は「でも映画のように愛人はお葬式には来ませんでしたよ」とちゃめっ気たっぷりに披露し、会場を笑わせていた。

 第1作目から日本映画界に残る傑作を世に送り出した伊丹監督。宮本は「それまでイラストやエッセイなどいろいろなことをしてきました。美術もすごく詳しいんです」と伊丹監督の多彩ぶりを明かすと「そんな伊丹さんが『これだってものを見つけた。こんな楽しいことはない』と映画監督について話していました。それからは好きなお酒も辞めましたし、たばこも辞めました。ご飯も『食べると頭が鈍る』と言っていましたから」と映画に没頭するようになっていったという。

 伊丹作品の大ファンで「DVDボックスも持っている」という塚原監督は『お葬式』という映画について「錚々たる俳優さんが出演されていますが、やっぱりキャラクターが魅力的。よくもこんな人物を練り上げられたな」と作品を観るたびに感嘆したというと「抑揚のない葬儀屋さんや、ずっとお金の話だけをしているマネージャーさんなど本当に面白い。第1作目なのに本当に素晴らしいと思います」と絶賛する。

 宮本と塚原監督は、2024年に放送されたTBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』で作品を共にした。塚原監督は「台本をお読みになって現場に入るとき『私、こういうことを考えてきたわ』と仰ってくださるんです。監督としてはとても幸せでした。一緒に考えて挑んでいける感じがとても素敵だなと思えたんです」と俳優としての宮本の姿に、大きな感銘を受けたという。特に最終回で端島に降り立った宮本が昔の家に向かって走っていくシーンは「まさか走られるとは思わなかったので、スタッフもみんな驚かされたんです」と楽しそうに語っていた。

 そんな塚原監督について宮本は「本当に頼もしいんです」と笑顔を見せると「とにかく決断がはやい。ご自身の頭のなかにしっかりと絵があるんでしょうね。余分なカットを取らないんです。とても撮影のリズムが良いのでやりやすいですし、とにかくカッコいい。しっかり俳優ともコミュニケーションを取ってくださるので、とても幸せな現場でした」とこちらも大絶賛していた。

 監督と共に作品を作り上げていたという宮本。しかし伊丹監督の現場では「一切言いません。言える雰囲気ではございませんの」と笑う。それでもリハーサルのとき、台本と違ったことをやることはあったというと「たまに『そうきたか』と言われたときは嬉しかった。でも本が完璧で“てにをは”も間違えてはいけないので、一字一句正しく自分のものにして芝居をする必要がありました」と伊丹組ならではの緊張感を述べていた。

 最後に宮本は「伊丹さんが亡くなって27年になります」としみじみ語ると「そんな長い時間が経っているのに、こうした映画祭をやっていただけるというのは、皆さんが伊丹映画のファンでいてくださったからこそだと思います。伊丹さんもこういう映画祭を開催してくださるなんて、とても幸せだと感じていると思います。皆さんありがとうございます」と深々と頭を下げ、感謝を述べていた。

(文=磯部正和)