掲載:THE FIRST TIMES

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昨年デビュー30周年を迎えた古内東子。昨年はデビュー記念日の2月21日に30周年プロジェクト第一弾としてオリジナルアルバム『体温、鼓動』を発売。続いて9月に、1998年のヒットアルバム『魔法の手』のデラックスエディションとアナログ盤をリリース。そして、プロジェクト第三弾として、全曲書き下ろしによる新作アルバム『果てしないこと』が到着した。本作は昨年開催した30周年記念ライブのバンドメンバーでもあったTomo KANNO(Dr)、山本連(Ba)、石成正人(Gu)、松本圭司(P)、井上薫(Key)と共に作り上げた一枚。今回体験した“初めてのこと”や、作詞作曲の手順、さらにレコーディングで起きた偶然など、アルバム制作の舞台裏を語ってもらった。

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■バンドで作りたいと決めて制作に入りました

──昨年秋に30周年を記念した『TOKO FURUUCHI 30th ANNIVERSARY SPECIAL LIVE』を大阪と東京で開催されました。東京公演の模様は新作アルバム『果てしないこと』初回生産限定盤に収録されていますが、ライブを振り返るとどうでしたか?

まず200曲近くある中から25曲を選ぶ作業が大変でした。

──曲選びはどのように行ったんですか?

バンマスを務めてくれたギターの石成(正人)さんが、デビュー前から私の曲を聴いてくださってるんです。ファン出身みたいなことを公言してくれているので、ファン目線で石成さんが選んでくれたものに私が赤ペンを入れて少し直したのがあのセットリストです。

──観客からの声で印象的だったものは?

「全部網羅してましたね」という人もいれば、「聴きたい曲が外れていました」という人もいました。「とにかくたくさんやってくれましたね」という声が多かったです。25曲、2時間半くらいあったので。でも、選んだあとに、裏25曲があっても良かったくらい、他にもやりたい曲があったんですよね。

──じゃあ、次は裏ベストライブに期待します(笑)。

そうですね(笑)。

──今回のアルバムは、前作『体温、鼓動』完成後に制作が始まったんですか?

そうです。2023年のデビュー記念日、2月21日辺りにもう一枚出そうという話になって。つまり1年後ですよね。じゃあ、どうする?となったときに、ピアノトリオアルバムの『体温、鼓動』を経たし、私はよく一緒にやっているバンドがいるから、その人たちとバンドで作りたいと決めて制作に入りました。

──大きなテーマやコンセプトは決めたんですか?

コンセプトがあるとしたらバンド録音ということですね。なぜなら、いわゆる固定バンドで1枚作る経験を意外と今までしていないんです。

──初めてですか?

初めてだと思います。ある程度の固定メンバーはいても、ゲストミュージシャンがいるとか、プロデューサーが集めてくるミュージシャンがいるとかが多かったから。バンドでリハーサルということも今回初めてだったんです。私はデビューのときから、口を利くのも怖いような一流ミュージシャンが来て、初見ですごいプレイをして帰って行くというのをずっと見てきて。本当にひとつひとつのプレイが素晴らしかったし、瞬発力というか、反応力で、すごく良いものが出来ることももちろんあると思うんです。それはそれであるんだけど、今回は真逆。みんなでねりねりしていく感じをやってみたい。この人たちならばやってみたいというメンバーと出会ったからこそ浮かんだアイデアでした。

──ご自身で作詞作曲された楽曲を、どんな手順/行程でバンドに落とし込んでいくんですか?

曲が出来たらデモをメンバーのいるグループLINEに流して「聴いといてね」「了解」みたいな感じから始まるんです。それが3曲くらい溜まると、一回リハをしようということで、それぞれが曲を聴いた印象を持ち寄って音を会わせてみる。基本的には私のデモがアレンジ済みということで進めていきました。

──バンドで構成やアレンジを練っていくということではなかったんですね。

イントロを少し延ばそうとか、ソロのところを2小節足そうとか、それくらいはあったんですけど、基本的にはコードや構成はデモのまんま。

──そうして演奏が固まったあとに歌詞を書くんですか?

ううん。デモの時点で歌詞も出来ていて、歌も入ってるんです。なんならちょっとコーラスも入っている状態です。

──日頃からそういう作り方なんですか?

そうなんです。時と場合によりけりなんですけど。

──今回の収録曲はすべてそう?

そうです。今回はそれでやろうと決めて。

■ちゃんと完成されたものを渡すことによってぐうの音も出ないようにするっていうか(笑)

──そこまで決め打ちしたデモをミュージシャンに渡す理由は?

歌詞をとことん聴いてくれ、とは言わないんですけど、ちゃんと完成されたものを渡すことによってぐうの音も出ないようにするっていうか(笑)。こういう歌詞があるのにそのプレイですか?っていう(笑)。そんなやりとりはないけど、そういう気持ちで作ってます。

──ちゃんとデモから情感を汲み取ってくださいよ、と。

そう。歌詞は完成させているし、歌も入れてあるんだけど、歌詞の世界観について私から彼らに語ることは絶対にないんです。向こうから聞いてもこないし、言いもしない。なぜなら彼らは“音”を作る人たちだから。だから、曲の主人公になる必要もないんだけれど、でも、このメロディーにこの言葉が乗っている、そこがセットで音楽だからっていう。そこまでを感じ取ってもらいたいんです。

──前作から1年という短い期間でのリリースになりますが、そもそも作詞作曲をすること自体はどうでしたか?産みの苦しみみたいなことはありましたか?

『体温、鼓動』が3年4ヵ月ぶりだったんですけど、“すごく作詞作曲、楽しいじゃん”となって。その間、ライブはやっていましたけど、ぶっちゃけ作詞作曲に関しては何もしてなかったんです。普段から書きためるタイプではないから、作詞作曲から離れていた感じだったんですけど、『体温、鼓動』のときに“あ、乗ってるかも”みたいな感覚があって。もう一枚出すという話になったときに全然できると思ったんです。だけど、制作が始まってみたら、やる気はあるんだけれど、30周年ライブとか、過去の曲を振り返る機会が同時にあって。新しいモノを作ること、過去に思いをはせる時間。それが思った以上に難しかったです。

──頭の切り替えが?

そう。1日の中で同時にできなかったというか。新曲を作るときはそっちに集中したいんだけど、「じゃあ、午後から『魔法の手』のプロモーションします」みたいな。それはできないなっていう。それで時間を取られちゃって、そういう意味では大変でしたけど、作詞作曲の作業自体は楽しかったです。でも、結局それで時間が足りなくなって、お尻に火がいつも付いてたところはあります。

──ここからは個々の楽曲に触れていきます。リード曲「素肌」はどのようなイメージから作り始めたんですか?

少し甘美な世界というか。言葉がたくさんある感じじゃなくて、言葉を置いていく感じの曲なんですけど、バンドでやる前提があったので、歌詞の世界観とバンドのクールさを思い描いてバランスを取りながら作った曲です。

──「素肌」というタイトルがエロティックだと思いました(笑)。

あはは。そうですね。

──歌詞に“素肌に重ねた薄手のシャツ”というフレーズが出てきますが、ここからタイトルを取ったんですか?

ちょっと記憶が定かじゃないんですけど、たしか「素肌」はタイトルが先だったような気がします。で、あとから歌詞に「素肌」という言葉を入れ込んだ気がします。だから甘美感を出した曲にしたかったんだと思います。

──「素肌」はイントロのピアノの音に懐かしさを感じました。

あれ、DX7なんですよ。

──狙いですか?

私のプロフィールに「高校生の時 姉のDX-7を拝借しているうちに作曲に目覚める」と書かれているという伏線がまずあって。で、スタジオでバンドメンバーが「DX7といえば名器だ」みたいな話になったんです。あれがどうのこうのとか、男子特有のメカについての会話が始まって、「東子ちゃんが持ってたヤツはどれだった?」「それは2機目だ」とか、そういうどうでもいい話が始まって(笑)。そしたら、偶然、そのスタジオにDX7があったんです。「実はあって」ということで倉庫から出してきてくださって。

──それは2機目?

私はちゃんとよく見なかったんですけど(笑)、男子たちは、やいのやいの言ってて。しかも、そのDX7の状態が良くて「これを使いたい」ということになったんです。

──イントロが流れた瞬間にタイムスリップするような感覚がありました。

わかります。それは、そういうことなんですよ。だから世のオジサンたちは、目頭を熱くするんじゃないですか?(笑)。80sな感じに。

──タイトル曲の「果てしないこと」は、30周年の思いをラブソングに重ねて書いた曲のように思いました。

『体温、鼓動』を出したときに、こうしてインタビューを受けていて、30年について語っていたんですけど、インタビューっていつも、口に出すことで頭が整理されていくところがあって。30年って全然自分では考えていなかったんだけど、「どうですか?」と聞いていただくと、自分から出てきた言葉で「あ、こう考えてるんだな」って初めて気づくことがあって、そこから出来た曲です。

──デビューした頃は、30周年なんて果てしないことのように思っていた?

そうですね。まずデビューということがすごく遠いところにあって。当時、「おばあさんになっても歌い続けていたいですか?」とか聞かれると「そうですね」なんて言いながら、全然想像がついていなくて。今はおばあさんになっても歌いたいですか?って聞かれないですもんね。果てしなくないからですよ、それは(笑)。

■今の立ち位置に来てみると、かつて夢だったものがこんなに生活の基盤になっているということ自体が考えられない

──そんなことないですよ(笑)。

デビュー自体も遠いと思ったし、実際、今の立ち位置に来てみると、かつて夢だったものがこんなに生活の基盤になっているということ自体が考えられないし。あと「果てしない」という言葉がすごく好きで、それを使いたいというところもあったんです。

──「素肌」にも“果てしない”という言葉が出てきますよね。しかも、2曲が並ぶ曲順になっている。これは意図的ですか?

偶然です(笑)。

──“果てしない”が好きだから出てくるんですね(笑)。

そうなんです。果てしないという言葉が好きだなと今回思っていて。あまり日常会話で登場しないじゃないですか。

──なんだか奥ゆかしい言葉ですよね。

そう。似たような言葉はたくさんあるんだけど、果てしないという言葉は、現実味がなさすぎて、ちょっと俯瞰で見ている気がして。これからヒーヒー言いながら進む道というよりも、“うわ、遠っ!”ってちょっと笑っちゃう感じ。ちょっと引く感じが私っぽいというか。だから好きなんだと思います。

──1曲目「Soda」は、サビでメロディーが低音に進行したり、途中でドラムパターンが変わったりとクセになる曲でした。

「Soda」は今回の1曲目に出来た曲です。今回のアルバムをこういうカタチにして、この人たちと録音すると決めて、じゃあ、曲を作り始めましょうというときに出来たので、ある意味アルバム全体の方向性が定まったというか。それと同時に、このメンバーに演奏してもらうということがわかったうえで書いた曲だったので、彼らの演奏を想像しながら書いた曲です。

──「Soda」はフュージョンをイメージしたんですか?

昔のソウルというかブラックミュージック。私はマリーナ・ショウの『Who Is This Bitch Anyway』(1975年)というアルバムがバンド録音ぽくて好きなんです。あれは、ほぼ固定メンバーで作られているんです。

──名盤ですよね。

あとはスティーリー・ダンとか、そういうイメージでした。バンドメンバーとは基本的に好きな音楽がみんなどこかで一緒なので。リファレンスというより、会話の中に出す程度ですけど、そういう話をすると「ですよね」っていう感じで理解してもらえるから。「東子ちゃん、そういうの好きだし、それを感じるから」っていう、その共通言語があるから今回自分が呼ばれているっていうこともみんなにあるだろうし。イメージを伝えることに苦労はなかったです。

──「girl」は、若さが弾けるような疾走感と甘酸っぱさがある曲ですね。

「Soda」が最初に出来て、次に何が出来たか忘れちゃったんですけど、2~3曲くらい出来てくるとだんだんバランスを取り始めるんですよ。アルバムとしてこういう曲がないとか、アップテンポがもう1曲くらい欲しいとか。そういう意味で、「girl」はいちばんラストに出来た曲です。アップテンポをもう1曲こしらえとこうかって。

■どんなタイプの女子でも若いときはこうだったんじゃないかと

──ご自身の学生時代を振り返って書いたところはあるんですか?10代の頃とか、あるいは大学生の頃とか?

デビューしてからのことかな。たしかにそういう部分はあるんですけど、わりとほとんどの女子に当てはまるんじゃないかと思います。どんなタイプの女子でも若いときはこうだったんじゃないかと。自分が何物でもないのに男子を品定めしたりとか(笑)、自分は何も持ってないのにこんな人と出会いたいなとか。そういう日本の女子特有の何かがあると思っていて。自分のことですけど、結果的にみんなもありますよね?っていう曲ですね。

──ラストの「1AM」は、ハチロク(6/8拍子)の王道R&Bですが、テンポ感からイメージを膨らませて書いたんでしょうか?

どの曲もそうなんですけど、キーボードを弾いてリズムを入れだして、という感じで作るので、ハチロクが1曲あってもいいかなという始まりだった気がします。

──テーマは?

これは「甘」テーマ(笑)。デザート的な感じというか、いちばんスウィートな歌ですね。結果的にアルバムの最後の曲になって、「1AM」ということで、ここで眠りについていただくというか。歌詞は一対一のラブストーリーです。

──深夜の恋人同士の甘い時間というわけですね。しかも、LINEとかじゃなくて、「電話越し」というところがポイントだと思います。

そうですね。親密さ。心と心の距離というか。既読がつかないとか、返事がないとか、そういう恋模様もあるでしょうけど、距離が近くなったらLINEから始まっても電話に戻るのかなって思うんです。ツールがなんであれ、というところがどこかにあって。LINEであれ電話であれ、通じる相手とは通じるし、離れる人は離れるし、みたいな。ツールのせいでもなければ、おかげでもないっていう。そういう不変的な恋愛模様を描きたいところはありますね。

──ところで、今回のアルバムが20枚目だそうですが、その枚数をどう受け止めていますか?

意外と少ないと思っています。あんなに頑張っていたのに。だって最初は10年で10枚出したんですよ。

──年イチでしたからね。

で、この20年で10枚ということなので。でも、この2年で2枚稼いで。

──「稼ぐ」という言い方が(笑)。

あはは。稼いだから(笑)。「20枚、すごいですね」って言ってくださる方が多いんですけど、自分的にはすごいと思わないですね。

■枯れるとか、もう曲が出ないとか、それはあまり感じないから

──ということは、ここで2枚稼いだし、今後ペースアップしたいですか?

ペースについて考えたことはないんですけど、ただ言えるのは、改めて曲作りは楽しいなとアルバムを2枚作って思ったことと、30年間で自分を褒められるとしたらずっと曲作りが楽しくあったということですね。枯れるとか、もう曲が出ないとか、それはあまり感じないから。

──ちなみに、音楽以外で、子どもの頃からこれは30年続けてきましたという習慣はありますか?

たとえば?

──カレーを週一で食べるとか、このぬいぐるみを30年持ってますとか(笑)。

性格的にそういうのが極端に少ない方なんです。こだわりというのかな。コレクター気質だったり、なにかにハマるとか。どちらかというと逆で、飽き性。だからこそ、30年間よく頑張ったねという話なんですよ(笑)。

──なるほど。

30年よく続いたというか。でも、それはデビューするときになんとなく肌で感じていたことなんです。その頃から自分はすごく飽きっぽいと思っていて。すぐ飽きちゃうし、これと言って集めてるものもないし、これといった趣味もない。そんな自分がこんなに曲作りが楽しくて、これは続けられそうだぞと。“これ、飽きたらヤバいぞ”って感覚があったのを覚えてるんです。こんなに楽しいと思えた趣味に出会えたことがなかったから。それが変わらずあるから、今後も曲を作れる環境にあるなら、ずっと続けていきたいですね。

INTERVIEW & TEXT BY 猪又孝
PHOTO BY 関信行

リリース情報
2023.3.8 ON SALE
ALBUM『果てしないこと』

ライブ情報
Toko Furuuchi Acoustic Live 2023 『果てしないこと』
3/26(日)【静岡】静岡 LIFE TIME
4/1(土)【新潟】新潟音楽文化会館
4/8(土)【愛知】名古屋 BOTTOM LINE
4/30(日)【広島】広島LIVE JUKE
5/12(金)【大分】BRICK BLOCK
5/13(土)【熊本】Restaurant Bar CIB
5/14(日)【福岡】ROOMS
6/3(土)【滋賀】大津能楽堂
6/4(日)【京都】京都文化博物館別館

プロフィール
古内東子
フルウチトウコ/1972年生まれ、東京都出身のシンガーソングライター。高校生の頃に姉のDX7を使用して作曲を始め、レコード会社に送ったデモテープがきっかけとなり、1993年2月にシングル「はやくいそいで」でデビュー。1995年にリリースしたシングル「誰より好きなのに」がヒットし、同曲を収録したアルバム「Hourglass」もロングヒット。恋心を鮮烈に歌い上げた都会的なナンバーで多くの女性の共感を呼んでいる。2022年2月にデビュー30周年イヤーを迎え、3年4カ月ぶりのアルバム「体温、鼓動」を発表。4月には同アルバムのアナログ盤をリリースする。2023年3月には古内東子の20作目のオリジナル・アルバム「果てしないこと」をリリース。