柿木厚司・JFEホールディングス社長

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中国を抜きには語れない世界の鉄鋼業
「今、我々は大きな転換点を迎えている」と話すのは、JFEホールディングス社長の柿木厚司氏。

 コロナ禍は世界的に、様々な産業に悪影響を与えているが、鉄鋼業界はそれ以前から構造的な問題を抱えていた。

 2019年頃から、世界生産の6割を占める中国の生産が増える中、原料価格が高騰した一方で、中国などからの製品供給が需要を上回り「原料高、製品安」という状況に陥った。そこでグループの鉄鋼事業会社・JFEスチールは20年3月27日、東日本製鉄所京浜地区(神奈川県)の高炉を、23年度を目途に休止することを柱とする構造改革を発表した。

 その最中に訪れたのがコロナ禍。特に20年度は上期だけで約25%需要が減少し、上期は1100億円の最終赤字となったほど(通期は380億円の最終赤字)。だが、下期に入って自動車を中心に鉄鋼の需要家である製造業の生産が回復、「コロナ以前とは言わないまでも、8~9割回復した」(柿木氏)という形で、コロナに翻弄された。

 JFEの22年3月期の業績は、最終利益で1300億円を見込む。黒字となるのは3期ぶりのことで「V字回復」と言っていい数字。だが「非常にいい数字が出ているが、難しいのは、足元の需要が一時的なものなのか、継続するのかの見極め」と柿木氏は慎重。

 なぜなら、今の世界の鉄鋼業は中国を抜きには語れないが、足元で中国の内需が好調で、輸出市場に製品がほぼ出てこない状況だから。背景には米中貿易摩擦や、21年7月の中国共産党結党100周年を控えた内需振興策もあると見られる。輸出された中国製品が市場を荒らさず、東南アジアの生産量も伸びていないことから、バランスの取れた需給になっている。

 柿木氏自身は、この状況は22年の年央くらいまで続くのではないかと見ている。だが、問題は内需が続かなくなった時に中国政府がどのような対応を取るか。中国の鉄鋼メーカーが輸出をし、少しでも収益を上げようとしたら、世界の鉄鋼市況は再び下落基調を強める可能性があるという難しい状況。

 この状況下でJFEが策定したのが第7次中期経営計画。「ある程度の収益を上げながら、カーボンニュートラルにも対応することを目指している」(柿木氏)

 今回の中計で、柿木氏はこれまでとは違う方針を打ち出した。それが「量から質への転換」。もちろん、JFEを始め日本の鉄鋼メーカーの売りは技術であり品質。第6次中計の時にも高付加価値品の生産を強化することを謳ってはいたが「単独粗鋼3000万㌧の安定生産の実現」を掲げるなど「量」へのこだわりも強かった。

 国内製鉄所をフル稼働させて固定費を下げ、ミドルグレードの汎用品も生産して輸出市場でも一定の存在感を確保していくことを目指してきた。

 だが、6次中計期間中に米トランプ政権の誕生で、各国に「自国第1主義」傾向が強まり、鉄鋼も「地産地消」が進んだ。日本の内需が人口減少で伸びない中、「量」を確保しようと思えば輸出する他ないが、その市場ではミドルグレードの汎用品の価格が乱高下するなど、激しい国際市況の波にさらされた。

 さらに、中国が国内のみならず東南アジア域内にも生産拠点を持ち、さらに技術が向上してくれば、JFEが輸出しようとしているミドルグレード品の価値が失われる恐れがある。

 そこで「我々が生き残る道は差別化された高付加価値品」(柿木氏)という方針を改めて打ち出した。前述の構造改革で粗鋼生産量を落とした上で、高付加価値品の比率を50%まで高めるという目標を掲げた。