住所不定だった男が名脇役に…利重剛が語る映画、母、そして横浜

みなとみらい、赤レンガ倉庫、海ほたるパーキングエリア――。そのすべてを見渡せる横浜の湾岸にある、レストハウス「象の鼻テラス」。通りには歴史ある建物が並び、少し足を延ばせば中華街だ。
「横浜って空が広くて海も近いでしょ。ここに来てソフトクリームを舐めてコーヒーを飲んでると、『どうにかなるか』って気分になるんです。煮詰まるってことがないんです。ここのソフトクリームは、お袋も大好物なんですよ」
そう語るのは俳優の利重剛(57)。2019年だけでも5本以上の連続ドラマや映画に出演している彼は、現在横浜を拠点に活動している。
「お袋が年をとって病気もしたので、なるべく近くにいようと、17年前に都内から横浜に戻ってきたんです」
利重が親しみをこめて “お袋” と呼ぶ母は、『3年B組金八先生』シリーズ(TBS系)などで知られる脚本家、小山内美江子氏(89)だ。
「東京に行くのは、ドラマや映画の撮影のときだけ。リハビリ中のお袋を連れて、この店には月に数回は来ています。ソフトクリームを食べて景色を見ていると、お袋も僕も調子がいいんです」
利重は、高校時代に頭角を現わす。在学中に監督した8ミリ映画『教訓I』が、1981年の「ぴあフィルムフェスティバル」に入選。そして、19歳でさらに大きな転機が訪れる。
「映画監督の岡本喜八さんにファンレターを書いたら、僕の映画を観て、連絡をくださったんです。監督の家に遊びに行ったら、分厚いシノプシス(あらすじ)を持ってきて『これ、一緒にやらないか』って」
それがのちに利重の主演・共同脚本・助監督作となった、岡本喜八監督『近頃なぜかチャールストン』だ。
「監督の家に住み込んで、脚本を毎日一緒に書きました。僕が書いた台詞は2行しか採用されませんでしたが(笑)。僕は岡本喜八監督の最後の弟子なんです」
このころ、岡本監督からある助言を受けた。
「『(助監督として修業し、やがて監督になる)撮影所システムは崩れた。映画監督をやりたいなら、役者も続けなよ。これからは、有名な奴が映画を撮る時代が来るから』と」
その後、俳優としてテレビや映画に出演しながら、27歳のとき『ZAZIE』(1989年)で監督デビュー。当時の取材記事には、「住所不定の映画監督」と紹介されていた。
「(当時の記事を見ながら)ああ、ありましたね(笑)。『ZAZIE』を完成させたあと、宿無しで人の家を泊まり歩いていたんです。そのままニューヨークに渡って半年間。そこで満足したんでしょうね。寝袋を現地のホームレスの人にあげて、日本に帰ってきました」
同作は、手持ちカメラによるドキュメント風の撮影など、現在ではスタンダードになったテーマや手法を先進的に取り入れ、話題になった。
さらに、1995年の『BeRLiN』で、日本映画監督協会新人賞を受賞。2001年の『クロエ』は、第51回ベルリン国際映画祭に招待されるなど、利重は順調に監督としてのキャリアを重ねていく。

脚本家である母・小山内美江子氏と
そして2002年、横浜に拠点を移す。2014年から2019年にかけては、横浜を舞台にした連作短編映画『ライフワークス』(現在24作品)を監督・プロデュースした。
「僕は、初期の12本を監督しました。市内の映画館で、本編の “おまけ” として、1年間365日、毎日自分の映画が上映されたんです。嬉しかったですね」
横浜で暮らし、映画を撮る利重にとって、この街の魅力とはなんなのか。
「街ごとに、いろいろなカラーや顔があるのがいいですね。中華街、港、みなとみらい、飲み屋街も高級住宅地もある。狭い地域に、さまざまな街がひしめき合っていて、あらゆるドラマが撮れるんです」
かつての「住所不定監督」も、50歳を過ぎて、『半沢直樹』(TBS系、2013年)での電機メーカーの経理課長役や、『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』(テレビ朝日系、2019年)の警視庁・捜査一課長役など、「ネクタイ姿の役」が増えている。
「昔は、住む家もなくて、路上で警察官によく職質を受けていたのにね(笑)。年齢によって演じる役が変化することは楽しいです」
役者として、「リアルでありたい」と利重は言う。
「観た人が『こういう人いるな』と感じられる人を演じたいです。ドラマでは主役の視点から物語が描かれているので、脇役は一瞬しか登場しません。でも、人生では誰もが主役として生きているわけですから。脇役でも、記号的に演じずに、リアリティを持たせる。それをいつも考えて演じています」
初期の監督作品では、「怒り」を登場人物に託していた部分もあったと振り返る。
「でも、怒りでは世界は変わらないとわかった。50代になって、『なるべく柔らかでいたい』という思いがあります。ゆるやかに効果のあることをして、へなちょこな言葉で世界を変えていきたい。年をとって自分の考え方がこのように変化していくことを、自分で楽しんでいます」
10月の横浜は爽やかな陽気だ。こんな日に、テラスから眺める海のパノラマが、利重を “柔らか” にしてきたのだろう。
りじゅうごう
1962年7月31日生まれ 神奈川県出身 1981年、高校時代に監督した映画『教訓I』がぴあフィルムフェスティバル入選。19歳で岡本喜八監督の『近頃なぜかチャールストン』で主演・共同脚本・助監督を務める。以後、俳優、監督として活動。おもな監督作品に『ZAZIE』、『BeRLiN』など。出演作に『孤高のメス』(WOWOW)、『インハンド』(TBS系)など多数
【SHOPDATA/象の鼻テラス】
・住所:横浜市中区海岸通1丁目
・営業時間:10:00〜18:00
・休日:年中無休
(週刊FLASH 2019年11月5日号)
