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未就学児を持つ親ならば、一度は意識したことがあるだろう言葉「小一の壁」。働きながら子を育てる親たちにとって、それは恐怖の言葉だ。放課後や夏休みの過ごし方、平日に開催されることが多いという保護者会やPTAの役員会をどう乗り切るか……やがて訪れる小学校生活を前に、その「小一の壁」という言葉に怯える。小学生の子どもがいる筆者もそのひとりだった。

特に、まことしやかに“大変だ”と聞くのがPTAである。「任意と言いながら強制的に加入させられる」「仕事をやりながらの両立が大変」など、PTAにまつわる話題はネガティブものが多い。その実情やPTAの利点、問題点などを、東京都内の公立小学校でPTA会長を務めている岡田卓巳弁護士に聞いた(ライター・高橋ユキ)。

●「どちらかというと、冷めた目で見ていた」

――どうして会長をやってみようと思われたのですか?

「会長になって、今年で3年目になります。2人の娘がいますが、実は長女のときは、土曜授業や学校公開も年に一度顔を出すぐらいで、PTAなんて手伝ったこともなかった。住んでいる地域にはPTAと別に町内会の子ども会が盛んですが、それにも顔を出したことがなかったんです。

ある時、子ども会主催のスポーツ大会へ応援に行きました。いつも指導してくれてる子ども会のお母さん、お父さんたちが娘を励ましたり応援してくれる様子を目の当たりにした。そのとき『こういうママさんやパパさんたちがいたことで、娘が子ども会に馴染んで育ててもらったんだ』と本当に感激したんです。

そんなタイミングで『子ども会やってみない?』と声かけてくださったんで、じゃあ、やってみます、と足を踏み入れたのが最初です。その後、PTAの会長をやってみないかと誘われ、引き受けることにしました。それまではどちらかというと、子ども会もPTAも、冷めた目で見ていました」

――実際にやってみて、いかがでしたか?

「僕はPTAとの親和性が高かったのか、あれほど外で冷ややかに見ていたにもかかわらず、飛び込んでみたら、いいところがこんなに多いのだと感じたんです。お互いの親が子ども達に目配りがきくようになりますし、安全や安心につながる大事な要素だったりするんですよね。

大げさな話をすると、コミュニティの危機というものがいろいろなところで言われている中で、親同士のつながりが薄れている。とくに首都圏はマンション住民が増えていますから。顔を見て『あの人、同じマンションなんだな』と思っても、話したことのない人っているじゃないですか。

PTAもひとつの同じコミュニティとして、お互いの顔と名前が一致して言葉が通じる関係になっていると、安心ですし、何かトラブルがあった時にも対応しやすくなるはずです。PTAだけがその役割ではないですが、やはり重要な役割を担っていると思います」

●「本来は、加入申込書の提出が必要」

――PTAのメリットがある一方で、どうしてもネガティブな側面もあるのではないでしょうか。たとえば、任意と言いながら、ほぼ強制なのではないかという声があります

「本来は、加入申込書の提出が必要です。いま現在、PTAの加入は数パターンあるようです。ひとつは本当の強制加入。次が『任意団体だけど入ってくださいね』という趣旨のお知らせをして、会費引き落としのための個人情報登録をしてもらう方法です。1つの行為をもって、入会の意思表示とみなすという形です。

ですが、それもやっぱり姑息なすり替えなので、本来は正面から『PTAに入会します』という、申込書をもらうべきなんでしょうね。毎年でなくても、自動繰り上げの内規になっていれば、その手続きは入学以降は一度ですむはずです。

僕が会長になってすぐに、規約を見せてください、と役員さんに言ったら『データがないんです。どこかにいってしまってありません。そんなの見ないですから』と言われてしまった。紙に印刷した古い規約を打ち込んだのが最初の仕事でした。そもそも現状では、規約を読んでいる役員の親御さん自体がそんなに多くないのではないかと思います」

――PTAに加入してから、実はポイント制で本部やクラス役員などをしなければいけないと分かったりもします。このような現状であれば、ネガティブな印象が広まるのではないでしょうか

「卒業までに全員、1、2回は役員をやらなければいけないという学校もあります。加入前の段階で、どこまで勇気をもって説明するかなんでしょうね」

●「役員が決まるまで教室の出口を封鎖」

ーー岡田弁護士の学校では、どのように決めていますか

「娘の通っている学校では、会長になる前の年までは、4月の保護者会で、役員が決まるまで教室の出口を役員が封鎖していたそうです。恐ろしいですよね。しかも、卒業までに役員を複数回やらなければいけなかった。本来は任意にもかかわらず、です。

さすがにそれはまずいだろうと、役員の義務化につながるポイント制をなくした直後のタイミングで、私が会長になりました。でも、いざ役員を決めようとしても、候補者は出ませんでした。結局、出口封鎖まではしませんでしたが、実質的なお目付役がいて、やっていない人に声をかけたりもしていました。

急激には変えられませんが、でも少しずつよくはなっていると聞いています。役員の人数を減らしたり、規約を明確にして仕事内容を減らすなど毎年見直しています」

――これから小学校に上がるお子さんの保護者に対して、恐怖感を植え付けるような情報が多いですよね。卒業までに何か役員をやらなければならないという不文律がありますよね。会に入る一方で役員をやらなければならないというルールは、問題はないんでしょうか。

「それは組織の内部の規約の問題になります。たとえばあるPTAでは、会員になれば必ず一度は役員をやりなさいと規約で定めています。まさにそれは決め事で、外からとやかく言われることではありません。規約で認められれば、問題ありません。

でも前提として、入会前に伝えるべきです。規約を読んで理解してくださった人が入ってくるならばいいですよね。そうじゃないから問題なので」

●「2割はこぼれても、8割ぐらいは入るかもしれない」

――説明不足が衝突を生んでいるようにも見えます

「青くさい理想論ですが、全部きちんと加入前に説明することで、2割はこぼれるかもしれませんが、8割ぐらいの方は入ってくださるのではないかと思うんです。

今年度は、本部役員さんを延長を認めない2年任期にしたんです。そのように内規を変えたら、それに飛びついてくれた親御さんが結構いたんです。1度、本部の役員をやれば、あとはやらなくていいですよ、というルールにしたので。やはりゴールが見えていればやってくれるんじゃないのかなあと思いました」

――岡田弁護士が会長を続けられる中で、見えてきたPTAの課題はありますか?

「色々なところで言われていますが、やはり、何のためにやっているのかわからない活動が多いと思うんです。特に、直接子どもと向き合わない活動です。研修会や講演会の強制参加などについては、以前に比べれば随分そういうものは減ったようですが。

時代や、地域によってPTAの役割は違うと思います。学校と保護者が協力して、より良い教育環境を整えていきましょうというのが、ざっくりとしたPTA理念。行事のお手伝いや、登下校の見守り。教育環境に直接意見を言うPTAも最近増えているようです。先生に対する苦情も含めて、積極的に伝えるPTAもある。サポートのかたちは様々ですね」

【取材協力弁護士】岡田卓巳弁護士 東京弁護士会所属。賃貸借に関する紛争解決、IT・システム開発に関する紛争解決等が主な専門分野。プライベートでは小学校のPTA会長を務め、3年目となる。事務所名:志賀・飯田・岡田法律事務所事務所URL:http://www.s-i-olaw.com

【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。近刊に「つけびの村  噂が5人を殺したのか?」(晶文社)。主な著書に「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(霞っ子クラブ著/新潮社)、「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)など。好きな食べ物は氷。