日本代表MF堂安律と同じくMF久保建英【写真:高橋学】

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パラグアイ戦での2人のプレーを分析 堂安は「悩んでいるようにも見える」

 昨夏のロシア・ワールドカップ(W杯)後に就任した森保一監督の下、日本代表は2022年カタールW杯に向けた戦いをスタートさせる。

 10日の敵地ミャンマー戦(ヤンゴン)から、いよいよアジア2次予選が幕明け。日本のグループFは、そのほかにタジキスタン、キルギス、モンゴルと比較的組分けに恵まれたとはいえ、W杯予選の舞台は実力差を覆す“何か”が起きる怖さが存在する。

 そんな負けられない戦いに臨む現在の日本代表において、生命線と言えるのが発足当初から前線を支える4人だ。不動の1トップであるFW大迫勇也(ブレーメン)を頂点に、2列目は左からMF中島翔哉(ポルト)、MF南野拓実(ザルツブルク)、MF堂安律(PSV)の3人が並ぶ。個々が高い技術を誇るだけでなく、“カルテット”として阿吽の呼吸を見せており、華麗なコンビネーションで相手ゴールを強襲。そのスピード感は、これまでの日本代表ではあまり見られなかったものだ。

 現役時代に“名ドリブラー”として名を馳せ、日産自動車(現・横浜F・マリノス)の黄金期や日本代表の一員としても活躍した解説者の金田喜稔氏も、4人が見せる連係を「抜群のバランス感覚と距離感が素晴らしい」と称賛する。そのうえで、5日に行われた国際親善試合パラグアイ戦(2-0)では、1人の選手のプレーが気になったという。

「カルテット全体で考えれば、堂安は外せない駒。中島や南野との絡み、中へ動いて右サイドバックの酒井を上げるタイミングなどには、やはり上手さを感じる。でもパラグアイ戦では軸足が間に合わずシュートを打てない場面や、最後のところでコントロールミスが出たり、少し粗いなと……。自身のプレースタイルについて、悩んでいるようにも見える」

 金田氏が現在の堂安のプレーを見て、“悩んでいる”と指摘したのはパスを受ける際の動きだ。「かつてのような仕掛けの迫力がない」と語った金田氏は、次のように続ける。

「彼はフィジカル能力が高く、相手を背負ってキープができる選手だ。パスを受ける前に、まずはマークしてくる相手に体をぶつけてボールを取られないことを選ぶ。そのプレー自体が悪いと言うわけではない。ただ、最近はもっと簡単にできる場面、ファーストタッチでターンをして、次に仕掛けるボールコントロールができる場面でも、無理に相手が詰めてくるような持ち方しかしていないように見える」

「“一歩目の躍動感”を相手に見せられるかで、プレーの選択肢の幅は変わる」

 金田氏によれば、以前の堂安であれば横パスやバックパスを選択するにせよ、まずはファーストタッチで前を向き、対峙した相手に縦へ行くと見せかけるような動きが多かったという。しかし、オランダで体格の大きな相手と戦う機会が多いためか、そうした仕掛けるプレーが減り、パラグアイ戦を見る限りはボールロストをしないことが優先されるプレーが増えていたと指摘する。

「もちろん、ボールを取られない持ち方の良さはある。ただ、攻撃側が“取られないスタイル”でボールを持つと、守備側は“取れるかもしれない”と間合いの距離をもっと近づけてくるもの。そうなるとますます、横パスやバックパスの選択肢しかなくなってくる。前を向ければ、局面の展開は絶対に変わる。前を向いて仕掛けられれば相手を下げることができるし、先手を取れればアウトサイドを使って切り返して逆にも行ける。

 “一歩目の躍動感”を相手に見せたうえで次のプレーへ移行するのか、それとも常に“安パイ”のキープから入るのか。ファーストタッチの姿勢によって、その後のプレーの幅は大きく変わってくる」

 これに対し、パラグアイ戦の後半から堂安に代わって右サイドハーフに入った久保は、こうしたファーストタッチの上手さを見せている。以前から金田氏は、久保はトップ下ではなく右サイドが適正ポジションと語っていたが、その理由の一つが“ゴールから逆算したプレー”にあり、常に仕掛ける意識があることを挙げていた。

「久保は前を向くボールコントロールが抜群に上手く、ファーストタッチで全部仕掛ける。しかもドリブルでもパスでも、すべて同じフォームから繰り出せる。これは対峙する相手DFからすれば厄介だ。左サイドの中島とともに、2人とも縦にドリブルで運べるし、パス出し役として起点にもなれる。今のプレーを見る限り、堂安より久保のほうが上。右サイドのファーストチョイスが久保になっても、全く不思議ではないだろう」

堂安の“使われる動き”を評価 「ダイアゴナルに走れる力は大きい」

 もっとも、「久保は使われる選手ではない」とも金田氏は語る。「堂安はダイアゴナルに走れる力は大きい。久保はそれをあまりやらない」と指摘するように、現在の日本代表では左の中島が攻撃の起点になるシーンが多いため、全体のバランスを考えれば効果的なフリーランニングができる堂安のほうが監督としては計算がしやすいのかもしれない。

 パラグアイ戦の後半、連動性を失ったチームのなかで再三にわたってチャンスを作った久保を「異次元。別格です」と絶賛した金田氏。得点を奪えなかったことや守備面における課題はあるものの、格下であるミャンマーとのW杯予選初戦で久保をスタメンに抜擢する価値はあると語った。

 21歳の堂安と18歳の久保。若き2人のレフティーが日本代表で共存する道はもちろん存在するが、今後右サイドのレギュラーの座を巡り、ハイレベルなバトルを繰り広げていくのかもしれない。

[PROFILE]
金田喜稔(かねだ・のぶとし)

1958年生まれ、広島県出身。現役時代は天才ドリブラーとして知られ、中央大学在籍時の77年6月の韓国戦で日本代表にデビューし初ゴールも記録。「19歳119日」で決めたこのゴールは、今も国際Aマッチでの歴代最年少得点として破られていない。日産自動車(現・横浜FM)の黄金期を支え、91年に現役を引退。Jリーグ開幕以降は解説者として活躍。玄人好みの技術論に定評がある。(Football ZONE web編集部)