京セラやホンダ、パナソニックなどの大企業には今でこそ高学歴の技術者が集結しますが、創業当時はそのような状況は望むべくもありませんでした。そんな中でも画期的な製品開発を成し遂げられてきたのは、「平凡」と称される人材を育てる組織の信念があったこそ。今回の無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では、そんな企業の人材育成術を詳細に紹介しています。

“人材”の優劣について

京セラの稲盛和夫さんが、取引先から「博士号を持っている技術者の集まりに出てひとつ教示してほしい」と依頼を受けたときのエピソードです。参加者の一人に「京セラさんは研究開発したもので失敗したものがないと言うておられるようですが、我が社はこれだけの技術陣を擁しながら10やって成功するのは2つか3つです。信じられません」と問われたのです。

それに対して、稲盛さんはこう答えたのだそうです。

「それは簡単なことです。いったん決めたことは、成功するまでやめない。それだけのことです」

これが、それに対する答えでした。近い姿勢としてすぐに思い浮かんでくるのは、日本電産の永守重信さんが言われた「すぐやる。必ずやる。出来るまでやる」で同じ趣旨の言葉です。

稲盛さんはこんなことを言っています。

「成功する人と、そうでない人の差は紙一重だ。成功しない人に熱意がないわけではない。違いは、粘り強さと忍耐力だ。失敗する人は、壁に行き当たったときに、体裁のいい口実を見つけて努力をやめてしまう」

「情熱は、成功の源となるものだ。成功させようとする意思や熱意、そして情熱が強ければ強いほど、成功への確率は高い。強い思い、情熱とは、寝ても覚めても、24時間、そのことを考えている状態だ」

と。

ところで京セラも日本電産も「画期的な製品開発」によって急激に中堅企業にまで一気に駆け上がった企業ですが、創業間もない頃には高学歴者の技術者などは望むことすらできなかった企業でした。これはパナソニックにしろホンダにしろ創業時はそんなもので、なんらかの手だてがあったからそれが可能になったのでしょう。

そこで、こんな声が聞こえてきそうです。「それについての答えは簡単だ。創業経営者がえらいからそれが可能になったんだ。ホンダは特に『技術の天才本田宗一郎』がいたからだ。他もそれに似たようなものだ」と。確かにその一面はあるでしょうが、あの組織をあげての「製品開発」を一個人の功とするには無理があります。

確かに、秀でた創業者の存在なくしてはありえないことですが、創業者の思いに共鳴した多くの人の存在なくして成し得ることではなく。ただし、それらの超優良企業にいた最初の人材は「高学歴の専門家」でなかったのは事実で、そこにいた“人材”について言えるのことはどこにでもいる平凡と称される人たちだったということです。

「組織の信念」は、経営者が普遍性のある「価値観」にもとづいて創造しなければならない「基本活動」であります。「あるべき考え方(価値観)」の注入は、企業に強い活力をもたらし、「価値観(理念)の構築」は経営者が貢献をはたすための専権的責務であるとともに、これこそが「卓越した事業」を実現させるための手段です。

多くの“卓越した経営者”は、この「経営のコツ」をハタと気付くのです。「あるべき考え方(価値観)」を顕した理念があり、それを根気よく浸透させて企業文化を構築させます。それなのにほとんどの企業では、この“致命的な意味”が認識されずに“人材”が等しく持つ“潜在力”を引き出さず育てないので勝てません。

「簡単な論理」で、松下幸之助さんが言うように「雨が降ったら、傘をさせばよい」で「よほどの変わった人以外は、人は等しく『良いことしたい』『自分の得意な能力を伸ばしたい』『得意で好きなことを思い切りやってみたい』そして『物心ともに豊かになりたい』が“望み”です」。まずは「私たちは“価値あること”を行っている。」を伝えることです。

本田宗一郎さんは自身を“ヒューマニスト”と言い、副社長であった藤沢武夫さんは自身を“ロマンチスト”だと言っており、期せずして、そこから「ホンダ」の価値観「The Power of Dreams」が生れ出でて“夢”と“若さ”を希求して「ホンダジェット」をすら飛ばす「企業文化」が受け継がれて行っています。

何故「価値観」なのか、それは人は「崇高なこと」を求めるからです。世界遺産の「ケルン大聖堂」は632年の歳月をかけて完成しました。スペインのサグラダファミリアは、144年をかけての完成予定です。「信仰」の力は、人をして壮大なことを成し遂げさせます。このことは、誰もが「建造物」として見ることができる事実です。

松下幸之助さんは「なすべきことをなす『勇気』と、人の声に私心なく耳を傾ける『謙虚』さがあれば“知恵”はこんこんと湧き出てくるものです」と言われています。そこには繋がりがあり“成果”を実現させるには“智恵”なくしては成し得ず、それを手に入れるには「勇気」と「謙虚」なくしてはなりません。

経営者が「謙虚」になるというのは並大抵でなく、それには「勇気」なくして起こり得ず、逆転するのですがそれこそがすべての「卓越する」ために必要な“智恵”を獲得するための根源的な“智恵”で。松下さんは「世の為、人の為になり、ひいては自分の為になるということをやったら、必ず成就します」と当然のことも言われています。

何度も繰り返していますように、企業が「卓越する」ためには「信念」となるものが必要であり「京セラの稲盛教」「パナソニックの松下教」「ホンダのホンダイズム」などで“優良企業”にはそれがあり、それに加えて従業員の“熱意”と“活力”を活かし支援するシステムを持ち得て一頭地群を抜く存在になります。

またドラッカーですが、「マジメントにできなければならないことは、学ぶことができる」「成果をあげる人のタイプなどというものは存在しないことに、かなり前に気づいた」と言っています。どうも人材には区別はあっても本来的な優劣はなく、企業が“卓越”するには個々の“能力”“長所”を活用することが“コツ”なのです。

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