「まだ先が見えない」と語る田代

「千里の道も一方通行」

 10月27日に、人生で3回めの服役を終えた田代まさし。今の心境を色紙に書いてもらったところ、出てきたのが冒頭の言葉だ。

薬物依存症を治療するために、千里進もうと思ってるんだけど、一方通行で一歩も進めないし、一歩も戻れない状態。まだまだ先は見えないね」

 田代いわく、刑務所での生活は、決して依存症を治療するのに向いた環境ではなかった。

「俺の名前が知られているから、近づいてくる悪いヤツがいるんだよ。笑い話だけど『マーシーさ、どっから覚せい剤のネタ、ひいてた(買ってた)の?』って聞かれるわけ。それで、ここからだよって話すと『ダメだよ、そんなとこからひいてたら。今度出たら、俺から買ってくれ』って営業してくるんだよ。『俺から買ったら絶対捕まんねえから』って言うんだけど、じゃあ、なんでここにいるんだよって話だよな(笑)。

 ほかにも『外に出たら兄貴分に紹介したい』とか、あやしいヤツはいっぱいいるんだよね。悪いコネクションが生まれるだけなんだよ。そういう人間関係をつくらないように、なるべく他人とは話さないようにしていたんだ」

 また刑務所内では、薬物依存症への正しい治療がおこなわれることもなく、更生にはあまり効果がないという。

「体は健康になるかもしれないけど、精神的に追い詰められて、夜、眠れない状態になっちゃうヤツも多い。それに、たいていの刑務所では、シャブ教室、略して『シャブ教』という教育があって、違法薬物とはどういうもので、どれほど恐ろしいものなのかといったことを学ぶ。でも今回、入った刑務所では、『シャブ教』すら開かれなかったよ。刑務所次第なんだね。

 治療という意味では、専門的な施設のほうがよっぽど効果があると思うよ」

 出所後も苦難が待ち受けている。仕事が見つからないのだ。

「仕事って、基本的には毎日、働くことが前提じゃない。でも、治療や尿検査などを受けていると、不定期で休みを取る必要があるでしょう。『この日とこの日だけは出られます』なんて、そんな甘い仕事は、なかなかないからね。以前はダルクのスタッフとして働いていたんだけど、ある事情でクビに近いようなことになってしまって。今後もダルクで治療は受ける予定だけど、スタッフとして再び雇われるのは難しい」

 そこで、ハローワークにも通ったという。

「新宿のハローワークに行って仕事を探したんだけど、見つからなかったな。もう66歳だしね。自動車整備工場など、出所した人たちを支援するために積極的に採用してくれるような会社もあるんだけど、薬物と出会ってしまう危険も高くなるから、躊躇してしまう。できれば、俺のことを知らない普通の会社がいいんだけど、そうなると候補が限られるし、断られてしまうよね。

 ブラックな関係の人たちは、すぐ仕事くれるって言うんだよ。『マーシーを呼びたい。お小遣い出すからパーティに来てよ』みたいな。でも、その人脈は危険でしょ(笑)」

 当面は、講演やYouTubeなどを通じて、薬物の危険性を訴える活動を続けていきたいという田代。社会貢献という目的もあるが、何より、自分が再び薬物に手を染めないために、おこなうのだという。

「ありがちなんだけど、薬物で逮捕されて出所するじゃない。そうすると、もう2度と関わらないぞと決めて、治療も受けず、薬物をやったという過去から目を背けてしまう人がいるんだよね。でも、そういう人ほど簡単に再び手を出してしまう。

『油断大敵』じゃなくて『油断大切』といつも言っているんだけど、まずは自分の弱さを認めて、薬物をやりたくなってしまうという、その気持ちと向き合うことが大切だよ。

 たとえば講演会や、施設のグループディスカッションとかで、自分はこんなときにやりたくなってしまうとか、こうやってなんとか耐えているんだって話をするじゃない。するとそこで『薬物と闘っている』と話した自分を裏切りたくない、同じように闘っている仲間たちを裏切りたくない、という気持ちになるんだよ。だから自分がやったことから目を背けず、治療という形でつねにつき合っていくべきなんだよ」

 薬物依存症に対する社会の目も変わってきている。

「以前、捕まったときは、俺やダルクに寄せられたメッセージのほとんどがバッシングだった。でも今回、捕まったとき、半分ぐらいの意見が『薬物ってこんなにやめられないんだ』という内容だったんだって。薬物依存症というのは、たいへんなことなんだってことを伝えられているんだとすれば、嬉しいよね。別に、そのために捕まったわけじゃないんだけど(笑)」

 薬物と闘う“第4ラウンド”は始まったばかりだ。