三浦透子、30歳を前に「年齢と自分の感覚が馴染んできてる」 リスペクトを持って演じた島倉千代子役の反響に安堵
◆初めての一人芝居は「今上演する意味のある作品」
英国の法廷、司法制度を背景に、性暴力を受けた女性たちが法廷でどのような扱いを受けるかを描いた本作。タイトルはラテン語に由来し、「一応の事実」「反証がない限りの有力な証拠」という意味合いの法律用語だ。各国の実力派俳優たちが体当たりで取り組んできた一人芝居を、三浦とは『ロスメルスホルム』『星の降る時』に続いて3度目のタッグとなる栗山民也の演出で届ける。
三浦が演じるのは、勝利だけを追い求めてきた気鋭の法廷弁護士テッサ・エンスラー。意気揚々と上昇気流に乗る彼女が、ある事件により一夜にして被害者の立場に立たされる。極限の感情が揺れ動く中、彼女が向き合い、追い求め、闘おうとしているものは何なのか…。
――世界中で絶賛されている話題作の日本初演となる本作。オファーを聞かれた時のお気持ちはいかがでしたか?
三浦:とても光栄でした。この作品に自分を、と思っていただけたことが純粋にうれしかったです。一人芝居は、やってみたいなんてことを思えないくらい自分にとっては遠いものだったので驚きもありました。
台本を読んで、今の時代だからこそやらなければいけない作品だと感じましたし、今上演する意味のある作品だとも思いました。
――演じられるテッサの印象はいかがですか?
三浦:自分に正直な人だなって。それは欲望とかも含めて。自分の未来をちゃんと自分で選んで自分でつかみ取るエネルギーを持った人ですね。
でも一方で、とても強い立派な女性としてだけでは描かれていなくて。ちゃんと悩んだり間違えたり弱さの面も描かれているがゆえに、より魅力的に感じられる、そんなキャラクターだなと思います。
――ずっと正しいと思っていたことが、あるきっかけで全く正反対になったりする。テッサは名誉男性的な感じで生きてきたのが、立場が変わるとこんな心境になるというのが印象的に描かれていました。
三浦:自分が信じてきたものが崩れるみたいな瞬間って、誰にでも起こりうると思うんですけど、その時にどう振る舞えるかというところにすごく人が表れますよね。
テッサが加害者側を弁護していたというところが、問題のより深いところを描くための、とても大きいポイントになっていると思います。
――弁護士としてさまざまな裁判を経験し、証拠を残しておかなきゃダメだっていうのが分かっていても、いざ当事者になると分からなくなってしまうところもリアルでした。
三浦:例えばニュースなどでも、客観的な場所から事件や出来事を見た時に、「じゃあ、なんでその時こういう風に振る舞わなかったの?」などと、人って結構簡単に言ってしまいますよね。
この作品では、一番冷静に物事が判断できそうな弁護士という立場の女性を通して描くことで、簡単にジャッジをしてしまう外側の人間の問題にも焦点が当たるような構造になっている。そこがすごく面白いなと思いました。
――三浦さんは、役作りをされる時は、そのキャラクターに共感する部分を探されるタイプですか? それとも、自分とは違う客観的なところから作り上げていくタイプですか?
三浦:理解したいなというスタンスが大きいかもしれないです。
私もその感覚分かる!みたいなところに当てはめてしまうと、「自分があの時ああ思ったっていうことは、この役もこう思うだろう」とその方向に狭めてしまう時があって。なので、自分と同じか、違うかというところはあまり意識せず、この人のことは私が一番説明できる、一番理解してる、みたいな状態に持っていけたらいいなと思って役と向き合うようにしています。
◆舞台、映像、音楽、バランスよく臨めている感覚がある
――演出を務められる栗山さんとは三回目の顔合わせ。栗山さんの演出作に臨む際は、ワクワク、ドキドキ、ビクビク、どんな感情が大きいですか?
三浦:全部(笑)。楽しみもすごくあるんですけど、決して楽しみだけじゃないんです。タフな稽古場になることは分かっているので、いつも気合いを入れて臨みます。
――初めてのタッグは、紀伊國屋演劇賞 個人賞や読売演劇大賞 優秀女優賞を受賞された『ロスメルスホルム』でしたが、栗山さんの稽古場で驚かれたことはありましたか?
三浦:栗山さんの演出についてよく話されることだと思いますが、稽古時間がとにかく短いんです。1日の稽古時間が短くて、でも1日に進むスピードがものすごく早くて。とにかく密度が高くて、一瞬たりとも気が抜けないというか。ものすごい集中力で全体が進んでいくから、稽古が短いのではなくこの密度で何時間もできないからなんだと分かってしまうくらい、濃い時間でした。
海外戯曲も初めてだったんです。なので、セリフも自分にとってはちょっと新鮮な言い回しがあったり、難しい内容だったので、チャレンジングな現場でしたね。
――濃密な稽古場に今回は1人で立ち向かうことになります。
三浦:栗山さんの稽古場は成長できる場所で、とても学びが多いですし、鍛えられる。本当にできるのだろうかと思ってしまう自分が全くいないかといえば、そうではないですけど、栗山さんを信頼していますし、その栗山さんができると思ったから声をかけてくださったと思うので、その自分を信じて頑張ろうと思っています。
――三浦さんにとって舞台とはどんな存在ですか?
三浦:好きですね。ちゃんと時間をかけて本と向き合ったり、共演している方々と話したりできるって、すごく贅沢な時間だなっていうのを、映像をやっているからこそより感じるといいますか。
映像は本当にものすごいスピードで進んでいくんですよね。その奇跡の一瞬みたいなものを切り取っていく芸術にも、私はとても魅力を感じているし、映像の現場も文化も大好きなんです。でもそういう現場に長くいたからこそ、こうやって長い時間をかけてチームを築きながら作品を深めていく、幕が開いてからも何度も何度もその作品と繰り返し向き合う舞台は、最初はとても新鮮で難しいことだらけでした。映像の現場では1回できればよかったことが、舞台だと1回の奇跡ではダメで、何回も確実にその奇跡をちゃんと狙って起こさなくてはいけない。そこにすごくプロフェッショナルを感じるというか、カッコいいなって舞台を続けられている方を観て思ったので、自分もそのカッコよさを手に入れられたらいいなと積極的に舞台に挑戦するようにしています。
映像と舞台、どっちもやるというのが自分にとっては大事で。特に今年は、映像、舞台、音楽をバランスよくできている感覚があります。3つやるといっても体は1つなので、その辺の自分の体調やキャパを測る1年というか、どんな形でやっていくのが一番心地いいかを考えている時期なのかなと思います。
◆大反響の島倉千代子役はモノマネじゃなくリスペクトを持って体当たり
――『エルピス−希望、あるいは災い−』『ブラッシュアップライフ』『大奥』『銀河の一票』と三浦さんがご出演されると聞いたら、これは面白くなるに違いない!と信頼しかないのですが、『地獄に堕ちるわよ』での島倉千代子役は圧巻でした。モノマネにならず、でもしっかり島倉さんの空気をまとい、歌声もしっかりあの作品の中の島倉さんの歌声として心に届きました。出演オファーを聞かれた時はどう感じられましたか?
三浦:聞き返しちゃいました。「島倉千代子役ってあの島倉千代子さんですか?」って(笑)。
――細木数子さんの生涯がドラマになるというところから驚きますよね。
三浦:もちろん島倉さんのことは存じていましたが、お二人に関係があるとは知らなかったので、すごい話だなと。だいぶハイカロリーな現場になるだろうというのと、やっぱり私にオファーしていただいたというのは歌もやってほしいということだなと思ったので、これは大変な準備が必要になるぞ、と感じました。
島倉さんを応援している方、島倉さんを愛している方に対して失礼のないように、ちゃんとリスペクトを持って演じたいという思いと、でもモノマネをするだけじゃいけないというか、ちゃんとその人として生きるにはどうしたらいいかなというところはすごく悩みました。お芝居だけじゃなく歌でも表現するということで、アプローチの仕方が難しかったです。
――2000年代の島倉さんが、真相を知ろうと押しかけてきた美乃里(伊藤沙莉)と対峙する姿には痺れました。
三浦:島倉さんのインタビューであったり、歌っている映像だったりをたくさん観たのですが、とても可愛らしい方だと感じる一方で、なんかカッコいいんですよね。その私が受け取ったどちらをも表現できないかなと考えて、ああなりました(笑)。
――実在の方を演じる難しさはありますか?
三浦:やっぱり皆さんの記憶の中に新しくあるということで、ジャッジのポイントが1つ増えるというか。本物がいて、これ以上ない正解がある中で、私がやる意味みたいなことをどこに見つけていくかというのはすごく難しいです。
――周囲からの反響はいかがですか?
三浦:「『地獄に堕ちるわよ』観たよ!」と言っていただくことも多いですし、配信開始前から「島倉千代子を演じるんでしょ?」とよく言われました。それだけ楽しみにされている作品なんだなというのは感じていましたから、配信されるまではドキドキしていたんです。なので、今はいったんホッとしています(笑)。
◆まもなく迎える30歳「年齢と自分の感覚がどんどん馴染んできている」
――三浦さんは今年10月に30歳を迎えられます。
三浦:年を重ねるのが楽しみなんです。今、自分の年齢と自分自身の感覚、やってほしいと言ってもらえる役とがどんどん馴染んできてる感覚があって、楽になっていってる気がします。これまでは、「私、いくつに見られているんだろう?」と感じることも多かったので。
――20代でのターニングポイントを挙げるとすると?
三浦:作品でいうとやっぱり『ドライブ・マイ・カー』が大きかったです。濱口(竜介監督)さんは、栗山さんと同様にものすごく人として学べる場を提供してくださる方。お芝居というより、人としてのところですごく見られていて、成長できるような言葉や考え方に触れさせてもらえる。自分を知ってもらうきっかけの作品が『ドライブ・マイ・カー』であったというのは、とても恵まれているなと強く感じます。
――今後、30代の俳優・三浦透子像、人間・三浦透子像はどんな姿を目指したいですか?
三浦:仕事としては、こっちの方向に向かいたいからこういうことをやっていこうみたいなことはあまり考えてきてなくて。自分らしく自然に流れに身を任せながら進んでいった結果、やりがいのある仕事に出会い続けられているので、この調子で(笑)。
自分にとってどんなものが出会えてよかったと思う作品になるのかって、自分では分からないところもある気がするんですよね。想像の外側にあるものだから出会えてよかったと思ったりもするでしょうし。たぶん地図が描けないんです。描けないものだから面白かったりするわけなので、あまり考えてもしょうがないんだろうなって思っているところもある。意識とは違う何かに誘われるようなところに向かって流れに身を任せつつ、ひとつひとつちゃんと丁寧に真摯にやっていれば、何かいい未来があるんじゃないかなって思っています。
一人の人間としては、やっぱり楽しい時間を増やしたい。楽しいって思える心の余裕とか、柔らかさみたいなものを、ちゃんと持って仕事ができるような人でありたいと思います。
でも、それは、年々ちょっとずつ、そういう理想の自分みたいなものに近づけているような気もしていて。10代とかの方がもうちょっと闘っていたし、許せないものや許せない自分もすごく多かった。そういったものや人、自分に対しても寛容に、笑ってあげられるようになってきたかなと思っているので、これからも柔らかくいたいですね。
――それでは最後に今回の『プライマ・フェイシィ』を楽しみにされている皆さんにメッセージをお願いします。
三浦:舞台って記録に残るものじゃないので、その時に出会った奇跡みたいなものをちゃんと受け取れる芸術だと思うんですよね。それで言うと、本当に見逃してほしくない作品、今の社会のあり方があって、その流れの中でこの2026年に観ることにすごく意味がある作品だと思います。
スズナリという劇場も舞台と客席がとても近いので、舞台上にいる私の地の声が全部聞こえるでしょうし、ちょっとした瞬きひとつ、息を吸う挙動ひとつ目撃できる、それぐらいの密度の劇場だと思うんですよね。そんな空間でダイレクトに受け取ることに意味のある作品だと思うので、ぜひ劇場に来てほしいです。
(取材・文:近藤ユウヒ 写真:高野広美)
『プライマ・フェイシィ −私の声を聞いて−』は、東京・ザ・スズナリにて7月1日〜26日、群馬・高崎芸術劇場 スタジオシアターにて7月29日〜30日、福島・いわき芸術文化交流館アリオス セキショウ中劇場にて8月1日〜2日、茨城・水戸芸術館 ACM劇場にて8月5日〜6日、大阪・近鉄アート館にて8月9日〜11日、兵庫・神戸朝日ホールにて8月14日〜15日上演。
