ガソリン不足に「日本だけ何も対応していない」 塗装工事業の会社を畳んだ男性が明かす「苦し過ぎるリアル」
【全2回(前編/後編)の後編】
訪中後のトランプ大統領と電話会談した旨を笑顔で語った高市早苗首相。日米の親密さを高市スマイルでアピールしたが、先の見えないイラン情勢で原油やナフサの調達不安は増すばかり。対策を講ずべき高市政権が目を背ける、日本経済の深刻な危機を解き明かす。
***
【写真を見る】「激ヤセ」が心配される高市首相 現在と比較すると「まるで別人」
前編では、倒産件数が急増する中でも「特に厳しい」という3業種について解説した。
埼玉県内で塗装工事業を営んでいた男性に聞くと、
「高市さんは“ナフサはある”と言っているでしょう。あれはデタラメだと思いますよ。塗装業の仲間は皆、塗料や溶剤が手に入らなくて困っているのに、高市さんが大丈夫みたいに言うから、お客さんたちから在庫があるように思われてしまう。なので“ナフサ不足で施工ができない”と説明すると、企業努力が足りないのではと誤解される。そういうクレームを山ほど受けました」

この男性は、もうやっていけないと会社を畳んだが、今でも元同業仲間から悲痛な叫びを耳にすると明かす。
「原油からナフサを精製して塗料や溶剤が作られますが、もうメーカー側に在庫がほとんどないそうです。どんな仕事もそうだけど、商売道具を売ってもらえなければ、塗装会社は施工そのものができません。一番かわいそうなのはお客さんですけどね。新築の家を注文したのに、材料が仕入れられないとなれば工事が止まる。納期が先延ばしになれば大工さんにもお金が入らなくなる。このままだと大手より中小のハウスメーカーで、つぶれる会社がかなり出てくるのでは……」(同)
塗料など建設資材の品薄が続けば、中小は圧倒的に不利になるというのだ。
「塗料メーカーは、大量の仕入れの実績がある大手のハウスメーカーを優先しますからね。中小は発注量が少ないので断られてしまう。ただでさえ在庫がないのに、来月からは、さらに値上がりするという話もあるらしい。ウチは辞めてよかったかもしれないけど、今も頑張っている仲間は本当に大変ですよ」(同)
そう話した上で、
「高市さんはガソリン代には補助金を出して安くしているけど、結局は一時しのぎで原油不足の根本的な解決になっていませんよね。別の国から原油を調達すると言っているけど、ナフサの場合は精製してプラスチックや塗料になるまで数カ月かかる。そこから現場に行き渡るのには、さらに時間がかかるという状況を、もっと世間に伝わるように話してくれないと、現場の人間が困ってしまいます」(同)
高市氏の発言と現場の実感にズレが生じる理由
ポテトチップス騒動しかり、なぜ高市氏や閣僚たちは現場の混乱に目をつぶって、石油やナフサが「足りている」と言い張るのか。
「高市氏の発言と現場の実感にズレが生じているのは、ナフサの総量を論点にしているからだと思います」
とは、石油流通システムに詳しい桃山学院大学経営学部教授の小嶌正稔氏だ。
「国が言うように、ナフサの総量はなんとか足りているのかもしれません。ところが、ナフサは基礎化学品であるエチレン、化学誘導品のポリエチレンなどに加工され、最終的にプラスチックや塗料などの製品として消費者に届く。非常に複雑な製造工程と流通経路を伴います。例えば小麦はこねればうどん、焼いたらパンになりますよね。そのパンだって具材の違いでジャムパンやアンパンになる。ナフサも小麦と同様、多種多様な製品へと姿を変えるのです」(同)
「供給と製品不足は別問題」
ちまたのナフサ不足は、「小麦」そのものではなく「うどん」や「パン」などの製品が足りていない状況だと、小嶌氏は指摘する。
「高市さんをはじめ政府が“ナフサは確保されている”と言うのは認識不足で、目指すべきはナフサ由来の製品を欲しい人が買えるようにすることです。しかも品薄の医療用手袋など多くの製品は国産ではありません。100円均一ショップで売られるプラスチック製品なども大半は海外で生産されていて、日本同様ナフサ不足は深刻です。いくら政府がナフサを国内で確保したとしても、消費者には製品が届かないという構図に気付くべき。ナフサの供給と製品不足は、別問題なのです」(小嶌氏)
日本は何も対策していない
こうした原油危機への高市政権のちぐはぐな姿勢に疑問を呈するのは、エネルギー問題に詳しい常葉大学名誉教授の山本隆三氏だ。
「不思議なのは、アメリカなどの産油国を除いて、世界主要国の大半が国民向けにガソリンなどの節約を呼びかけている中で、日本が何も対策していないことです。欧州やアジアで資源を自給できない国々は、車通勤を減らすため在宅勤務を推奨、大学の講義などをオンラインにする国もあります。高市政権は経済活動への影響がないように、まだまだ石油備蓄もあると言っていますが、現状の使用量を考えて節約を要請する方向にかじを切らないと、ホルムズ海峡の閉鎖が長引けば長引くほど大変なことになっていくと思います」
7月中旬に会期末を迎える国会で、高市政権は今年度補正予算を編成する方針を決めた。ガソリンのみならず、高騰する電気・ガス料金への補助金に充てられるが、ナフサ危機への支援は盛り込まれない見通しだという。
「高市政権のエネルギー政策は一種の“賭け”」
政治ジャーナリストの青山和弘氏によれば、
「とにかく高市さんは経済活動にブレーキをかけたくない。食料品の消費税減税にしても、減税幅を上回る物価高な上、財源も厳しいという声は強いのにこだわっています。仮にエネルギーの節約を呼びかけるなら、補正予算に盛り込む補助金のあり方も変更しなければいけない。これまでの政策の大転換はできるだけ避けたい。そんな高市さんの強情さを感じます。官邸周辺を取材してもいまだに節約を呼びかける話は出てきません」
青山氏はこうも言う。
「高市さんが粘れば粘るほど、いざ節約に転じた際に飛び降りる崖は高くなる。それだけに、高市政権のエネルギー政策は一種の“賭け”だといえます。このまま経済にブレーキを踏まずにホルムズ海峡が開放されたら、結果オーライ。一方、イラン情勢が収束せずに時間がたてば、備蓄した石油は減っていく。結局節約を呼びかけないといけない状況にまで追い込まれた時、もっと早く対応していればよかったのにと批判されるのは必至です」
折しも補正予算編成を受けて、市場では赤字国債への懸念などから長期金利が上昇、円安が加速している。
日本経済の状況が深刻さを増しても、お得意の高市スマイルを見せるだけでは、笑い話で済まなくなるのだ。
前編では、倒産件数が急増する中でも「特に厳しい」という3業種について解説している。
「週刊新潮」2026年5月28日号 掲載
