【三ツ谷 誠】トヨタが進める「脱・新車依存」…テスラ、BYDも追いつけない勝ち筋「2兆円超えビジネス」の正体
メディアが見落としているトヨタ「事業構造の変革」
少し前の話になるが、5月8日、トヨタ自動車は2026年3月期の決算発表を行い、同日に決算説明会を開催した。翌週5月13日には日産自動車が、14日にはホンダが2026年3月期決算を発表した。2026年の感覚ではトヨタ1強、苦境に喘ぐ日産、日産ほどではないと考えられていたが脱エンジンの賭けに現時点では失敗し、今期初めての赤字に追い込まれたホンダ、という構図が明確化し、もはや同列に感じない向きもあるかもしれないが、我が国の自動車メーカー、ビッグ3の決算発表が終わった。
各社の決算発表はそれぞれが当日のニュース番組やネットや新聞の経済記事として報道されたが、例えばトヨタ自動車であれば、米国の関税措置の影響や中東情勢から来る資材価格高騰の影響から、2027年3月期の営業利益は2026年3月期の3兆8000億円から約20%減益の3兆円の予想であること、や、その一方で日本企業として初めて売上高が50兆円を超えたこと、が中心議題になっていた。
そうした報道について、それでも3兆円というのは膨大な利益であり、減益という部分のみが強調されることにミスリードはないのか、という疑問や、その前提となった為替レートは対ドルで150円なので、現状の為替レートを考えれば上積みが予想できる数字ではないか、など突っ込みどころは事欠かないが、もっと本質的な部分で筆者がこうした報道に大きく欠けている点と感じるのは、本当に伝えられるべきは、トヨタ自動車が新車販売に強く依拠するこれまでのビジネスモデルからの事業構造の展開を図ろうとしている、そこを伝えていないこと、になる。
もちろん、どうしても売上が増えた減った、利益が増えた減った、が目先の確認事項にはなるし、米国のトランプ関税や中東情勢の悪化(それもやっぱりトランプだ)が影響している、という「物語」も消費しやすい言説にはなるけれど、もう少ししっかりと「軸」を押さえた報道も、誰かがしっかりとすべきではないだろうか。
それでは、その「軸」とは何か、だが、繰り返しになるがトヨタ自動車の場合のそれは、彼らがこれまでの新車販売に強く依拠したビジネスモデルから脱却し、モビリティカンパニーとして違う土俵を設定し、新しいビジネスモデルへと脱皮しようとしている、その点になる。
それは近社長や宮崎副社長が臨席した当日の決算説明会の構成の最後に「事業構造の変革について」というパートが設けられていたことにも強く表れている。
図1はそのパートの最初に置かれたスライドになるが、まずは基礎となる「もっといいクルマづくり」への取組みが示された後、「モビリティカンパニーへの変革について」、その方向が示されている。特に重要なのは「既存VC(バリューチェーン)収益の更なる拡大」になるが、それを説明するスライドが図2になる。
バリューチェーン収益とは、クルマを販売した後に発生する収益、例えば車検、修理、修理に伴う部品や用品の販売、アクセサリーの販売、保険・金融、中古車などの収益になるが、図2が示すようにその額は巨大で2021年には1.4兆円(これだけでも凄いが)だったものが、毎年1,500億円程度、販売店での取り組み強化などで加算され、2025年には2.1兆円まで拡大している。そしてトヨタは更にグローバルな販売拠点・顧客接点を使ってこの取り組みを強化しようとしている。
日本の自動車メーカーを取り巻く過酷な競争環境
昨年の秋にも記事を書いたが、トヨタはテスラや特にBYDなどEVで台頭する中国メーカーとの競争に際し、自らの最大の強みである「1億5000万台を超える現時点での保有台数」(顧客数)を武器に、この領域でのビジネスに勝ち筋を見つけているのだ。
(参考記事:トヨタの新たな「勝ち筋」にはテスラもBYDも追いつけない…決算でわかった「進化するビジネスモデル」)
そこには、トヨタが世界に対し・社会に対し果たすべき役割とは、単にいいクルマを開発し、新車を販売していく、というだけのものではなく、人々にその暮らしを豊かにするモビリティを提供していく、というものだ、という深い理解が横たわっている。
ただ、逆に言えば、それはグローバルな競争環境のなかで、国家戦略として原料から精錬から、電池の領域で他国の追随を許さない体制を築いた上で、EVへと展開し、AIなど関連領域を含み圧倒的な競争力を育みつつある新興中国メーカーの脅威が、トヨタにおいても無視できないものであることを語ってもいる。
図3は、経済産業省の作成資料になるが、いま自動車産業に何が起こっているのか、を考える上で基礎となる、世界市場のマーケット規模と我が国メーカーの係わり方を示す図になる。資料そのものは2025年3月に作成されたもので、市場規模は2023年であることに注意が必要だが、2026年の現在についても、ほぼ同じような規模を想定できるだろう。この図を見ると、視覚的にもいかに中国市場が重要な市場なのか、が分かるし、次いで北米市場、欧州市場と規模が続き、インド市場と我が国の市場がほぼ同じ規模であることが分かる。また、この図が優れているのは、我が国の自動車メーカーが現地生産を行っているそのシェアも理解できることだ。
この図を見ればその巨大さからも、北米市場が日本の自動車メーカーにとってとても重要な市場であることが分かるだろう。そしてトランプ関税はその市場で日本メーカーが利益を得ることの大きな障壁になった。また、更に巨大な中国市場においては現地のEVメーカーが台頭し、その市場を押さえつつある。そして、鉄鋼などでも繰り返されたように政府の補助金など政策の後押しを受け過当な競争が生じ、そこで生まれた過剰な生産力が、その捌け口を求めて、北米同様、多くの日本メーカーの主要市場だったASEANに製品を(伝え聞く範囲では薄利で)送り出しつつある。この図だけでは分からないが、この図を参考にして、少し状況を考えてみれば、日本メーカーの陥った競争環境の熾烈さが、腹落ちする気がする。
台頭する中国メーカーにどう向き合うか
内燃機関においては高い優位性がなお日本メーカーやドイツメーカーにあったとしても、EVにおいては、逆に日本は相対的に劣位にあり、かつ、上海などでのモーターショーの様子を伝える専門誌の記事や自動車メーカー、部品メーカー関係者の危機感を酒の席の話で聞く限りにおいては、自動運転やSDVなど通信やAIなどが次の付加価値を生み出していく世界においての競争力については、とても厳しいものがある、日本メーカーのそれが冷静な認識なのだろう。
ホンダが三部社長の号令で脱エンジンに大きく舵を切ったのも、そのような危機感の顕れだったのだろうし、3月12日に2.5兆円という2年に亘る損失と共に、逆に舵を切り戻す経営の意思決定の発表となった「四輪電動化戦略の見直しとそれに伴う損失の発生および今後の方向性について」のホンダの記者会見の質疑応答においてさえ、なお、三部氏は、今後、四輪事業においてはグローバルに中国メーカーとの競争を強く意識していく必要があるが、現状の延長線上では中国勢に勝つことは難しい、との見解を、だからこそ抜本的な改革が必要になる、との結論とともに吐露している(開発費、開発期間、開発工数を2025年比でそれぞれ半減する、などの開発効率化を含む改革案が2026年5月14日、決算発表とともに発表された)。トヨタが次のステージを自ら設定し、そのステージに向けて進化を始めたのも、こうした時代背景を前提に考えていく必要がある。
実際、台頭する中国メーカーに絡む質問は5月8日のトヨタの決算説明会でも質問されていた。北米やASEANなどへの中国メーカーの進出をどう考えるか、と言うニュアンスの質問だったが、宮崎副社長が回答のなかで、大切なのはその土地に根付き、その国の経済全体に貢献できるかどうか、がポイントで、単に輸出していく、という話しではないと考えると話されていたのは、トヨタという企業の在り方やいかに中国メーカーと向き合うべきか、を考える上で大切なヒントが示されている。
ひねくれた視点にはなるが、彼らは革命を輸出はしないが、資本主義的な財を全体主義的に過剰な生産力で生産し、資本主義国の資本が本来得るべき利益を限界化させ、当該国を窮乏化させている。
市場に対する「公約」の中身
さて、トヨタは自らの果たすべき役割を再定義し、次のステージに進化を始めている、と書いたが、それではそれは投資家にとってどう見返りのある選択になるのだろうか。その答えもまた5月8日の説明会で語られている。
このスライドの表題は「モビリティカンパニーへの変革:ROE20%」とされているが、ここに掲げられたROE20%の達成が、トヨタがこの変革において投資家に、市場に公約した達成すべき経営目標になる。この数字が語られ始めたのは2024年前後だったと記憶するが、それは東証のPBR1倍要請を受けて日本企業各社が本腰を入れてその課題を考え始めた時期とも重なる。
このドラフトが書いているように、新車販売中心のビジネスモデルは(トヨタは強いのでそうではない気も外部からはするが)収益変動が大きい、それは資本コストが高くなる理由に繋がる。なぜならリスクとは「振れの大きさ」だからだ。だが、VC収益は打率とは異なり本塁打が累計の数字であるのにも似て、累計の販売台数に依拠するので、売れるかどうか、不確定要素の多い新車販売に比べて、収益変動の少ないビジネスになりうる。そして、それは資本コストを抑制する。
また、この図が示唆するのは、ROE20%を目指す上で、トヨタは新車販売の伸び率をほぼ横這い(僅かに伸長する)と見積もっていて、むしろVC収益やSDV・ロボティクスなどこれからの新規ビジネスを伸ばす計算をしている、ということだ。そして、やはり書かれているように生産ラインや研究開発施設など、どうしても避けられない固定費がのしかかるビジネスではない、或る意味「軽いビジネス」を前提にすれば、適切な資本はその展開において、おそらくは軽く決まる(分母の資本が軽くなる)その可能性が示唆されている。
ここで、最近のとても大きなイベントだった源流にあたる豊田自動織機へのTOBを想起するのは筆者だけではないだろう。5月12日の臨時総会を経て6月1日の上場廃止も決まったこの案件も、トヨタがROE20%を目指す過程で、グループ間の持合い株の整理を含め、どのような資本政策を選択していくのか、に深く関係する事案と言える。そして、それは当然、上部構造となるビジネスの展開がどうなるか、にもよるが、とても興味深い事項であり、当面、目を離す訳にはいかない(ただ、すぐに、ではなく少し時間軸を長く設定して観察すべき)話になる。
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