(※写真はイメージです/PIXTA)

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こども家庭庁が発表した令和7年公表分の報告書によれば、母子家庭の平均年間就労収入は236万円にとどまっています。特に子どもが小さい時期は、家賃や生活費の重圧から「親を頼らざるを得ない」ケースが後を絶ちません。しかし、そこには「親子共倒れ」という深刻なリスクが潜んでいることも。本記事では、Aさんの事例とともに、実家へ身を寄せたひとり親世帯が陥りやすい「親子共倒れ」のリスクについて社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。

ひとり親家庭の「厳しい現実」

さまざまな理由により、ひとり親になることがあります。2025年1月のこども家庭庁の「ひとり親家庭等の支援について」では、⺟⼦家庭は119.5万世帯、⽗⼦家庭は14.9万世帯。ひとり親世帯の8割以上を母子家庭が占めています。

母子家庭の就業率は86.3%と非常に高い水準です。しかし、その「中身」には大きな格差があります。就労形態が正規の職員・従業員の割合は48.8%、パート・アルバイト等が38.8%(「派遣社員」を含むと42.4%)と、非正規の割合が約半数と高くなっています。特に、子どもが小さいときは思うように就労することができないことも多いようです。さらに正規職員の平均年間就労収入344万円に比べ、非正規の平均年間就労収入は150万円と、正規と非正規では、収入に倍以上の開きがあります。

さらに、養育費の取り決めをしている世帯は46.7%と半分にも満たしていません。そもそも、1人での子育ては⽇々の⽣活に追われ、家計管理や子どものしつけ・育児、子どもだけでなく自身の健康管理など、さまざまな⾯において困難になるケースも少なくありません。

その結果、実家の親の元へ身を寄せるという選択肢が現実味を帯びてきます。

70歳、待望のリタイア生活を襲った「一本の電話」

Aさんは70歳。60歳での定年から5年間は再雇用で働き、さらに70歳までは年金を受け取りながらアルバイトで働いてきました。ようやく迎えた「完全リタイア生活」では、夫婦でのんびり過ごすことを楽しみにしていたのです。

Aさん夫婦の年金は合わせて300万円(月額25万円)。住宅ローンは完済済みで、日々の生活には困りません。退職金や貯蓄は、家の修繕や車、家電製品などの買い替えに充てつつ、年1回程度は旅行に行こうと話していました。

ところが、36歳のひとり娘から夫と離婚した、と連絡を受けました。娘がいうには、「夫がギャンブル依存症になり、借金が膨らんでパートで働いていても借金を返しきれない」とのこと。やっとの思いで協議離婚することができたものの、娘の子どもたちはまだ5歳と2歳。1人で育てるにも正規職員で働くこともできず、アパートの家賃が高くて生活が苦しいと泣きながら訴えるのです。

Aさん夫婦は、精神的にも不安定な娘を助けようと、自宅に娘と子ども2人を迎え入れることにします。娘の体調を心配し、引っ越しを機にパートの仕事も辞めさせて静養させました。

「のんびり老後」が「孫の世話と経済的負担」へ

Aさん宅での5人の生活が始まりました。元夫の借金に疲れ果てていた娘をAさん夫婦は心配し、全面的に協力するものの、無職の娘と孫2人を加えた5人分の生活費は年金だけでは到底賄いきれません。「少しのあいだだから」と、貯蓄を切り崩しながら生活します。

同居から1年を過ぎるころには、娘の体調も落ち着いてきました。Aさんは「そろそろ働いてくれるだろう」と期待して待っていましたが、娘の行動は正反対のものでした。就職活動をする気配はなく、友人と遊びに行ったり、家事を手伝うこともなく暇さえあればスマホをみたり……。孫の世話をAさん夫婦に任せて娘1人がのんびり過ごしていると、だんだん腹が立ってきます。

ある日、事件は起きます。Aさんがいつものように特売のオムツを抱えて帰宅すると、玄関に見慣れない大きな段ボール箱が届いていました。宛名は娘。中から出てきたのは、最新型のゲーム機でした。

「これ、どうしたんだ?」と問うAさんに、娘は悪びれる様子もなくこう答えました。「値上げするって聞いたから、その前に買いたくて」。

ついに、Aさんは堪忍袋の緒が切れてしまいます。

「いい加減にしなさい! いますぐこの家を出ていけ!」

ひとり娘ということもあり、父親に怒鳴られたことのなかった娘は驚いて泣き崩れました。しかし、彼女の目を覚まさせる愛の鞭となったようです。無職の娘は子どもを連れて出ていくところもなく、Aさんに懇願します。

「就活するので、仕事が決まるまで待ってほしい」

親子共倒れを防ぐための「同居のルール」

その後、娘はハローワークを通じて母子家庭の支援がある会社に就職が決まりました。子どもたちは保育園に預け、自立に向けてアパート探しを始めます。

働きはじめて3ヵ月が経ったある日、仕事から帰宅した娘にAさんは、新しい提案をしました。

「これから子どもたちの教育費が掛かってくるだろう。アパートの家賃分は教育費のために積み立てしなさい。自分たちの生活費を家に入れるなら、この家に住み続けていい」

娘は、ようやく近くに親がいるありがたみに気づきます。現在は、生活費を家に入れながら、将来に備えて着実に貯蓄を増やしています。

子ども以外の同居者がいる母子世帯は38.8%となっており、「親と同居」が51.8%と最も多くなっています。ただ、親も親自身の生活があり、親子共倒れにならないよう、経済的な境界線を引くなど、同居のルールを話し合っておくことが必要です。

〈参照・出典〉
■こども家庭庁:ひとり親家庭等の支援についてhttps://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0a870592-1814-4b21-bf56-16f06080c594/7cf5dd42/20250107_policies_hitori-oya_73.pdf

三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
共同代表