浮上する「粗品=ポスト松本人志」説…フジテレビが「ツッコミ特番」をプロデュースさせる意味
23日に放送
5月23日、フジテレビで霜降り明星の粗品がMCを務める「ツッコミ芸人No.1決定戦 ツッコミスター」が放送される。粗品は司会を担当するだけでなく、出場者の選定、お題の方向性、競技設計にまで深くかかわるとされている。これは単に気鋭の若手芸人が新番組のMCに抜擢されたという話ではない。フジテレビが、純粋にお笑いそのものを主題とする番組の中心に粗品という芸人を据えたということである。そのことの持つ意味は大きい。【ラリー遠田/お笑い評論家】
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【写真】「テレビじゃ見たことない」…後輩芸人から“鬼ヅメ”された瞬間の粗品
これまでのフジテレビでお笑いそのものを競技化し、番組化し、権威化してきた最大の存在はダウンタウンの松本人志だった。「人志松本のすべらない話」は、芸人の話芸を「すべらない話」というフォーマットに落とし込み、テレビの前の視聴者にわかりやすい形で提供した。「IPPONグランプリ」は、実力派芸人たちによる大喜利バトルをスリリングな知的格闘技へと変換した。

これらの番組で松本がやっていたのはただの司会業ではない。お笑いの一分野を切り出し、芸人たちの技量を比較可能な形に変換して、それを独立したエンタメとして提供する一種のプロデュース業だった。
粗品が手がける「ツッコミスター」も明らかに同様の系譜にある。これは、粗品が「お笑いを構造化し、競技化し、テレビ番組として成立させる側」に回ったということである。
ここで浮かび上がるのが「粗品=ポスト松本人志」説である。もちろん、これは粗品が松本と同じ芸風であるとか、松本の後継者的な存在であるという意味ではない。ただ、少なくともフジテレビにとっては、かつて松本が果たしていた役割を粗品に求めているというのは間違いない。
フジテレビは、中居正広氏をめぐる一連の問題でスポンサー離れが続出したことで、開局以来最大の危機を迎えた。その状況を踏まえると、性加害疑惑が報じられて地上波に復帰できずにいる松本を、今後起用する可能性はきわめて低いと考えられる。松本を中心にしたお笑い番組を作る道を絶たれたフジテレビが、次世代の笑いのカリスマとして粗品に期待をかけているのだ。
お笑い文化をリード
一昔前のフジテレビはお笑いとバラエティの王者として君臨していた。「笑っていいとも!」「オレたちひょうきん族」「めちゃ×2イケてるッ!」をはじめとする数多くの人気番組を世に送り出しており、テレビにおけるお笑い文化をリードする存在だった。
しかし、近年のフジテレビはその地位を失っていた。単に視聴率が低迷しているだけではなく、時代の感覚からズレている、内輪の論理を優先している、古いテレビの体質を引きずっている、といった悪いイメージが重なっていた。中居正広氏をめぐるトラブルが起こったことで、そのイメージは決定的なものになった。
それを踏まえると、「ツッコミスター」のキャッチコピーとして提示されている「スカすなよ。フジテレビ。」という言葉は、単なる宣伝文句以上の深い意味を持つ。今のフジテレビに求められているのは、無難な番組を作ることではない。安全なキャスティングで、そこそこの笑いを取り、それなりの視聴率を狙うのでは意味がない。
むしろ、局として今も真剣に笑いに向き合っているのか、芸人の技術を信じているのか、視聴者を本気で驚かせようとしているのかということが問われている。粗品という芸人を押し出すことは、その問いに対する明確な「回答」である。
粗品は毒舌キャラとしても知られており、過激な発言でたびたび世間を騒がせてきた。仕事に対するこだわりも強く、スタッフのミスを許さない厳しい一面もあると言われている。しかし、そんな彼は誰よりもお笑いに対して真剣である。粗品のあり余る情熱をフジテレビは自局の立て直しに活用しようとしている。
「ツッコミスター」が話題になっているのは、その企画の背景にお笑い史における「世代交代」が透けて見えるからである。粗品をこの番組の看板に据えたのは、フジテレビが「松本以後」のお笑いをどう作るのかということの意思表示である。粗品が本当に「ポスト松本人志」になれるのかどうかは、この番組がどれだけ面白いものになるのかにかかっている。
ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。
デイリー新潮編集部
