孤高のロッカー

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 夕刊紙・日刊ゲンダイで数多くのインタビュー記事を執筆・担当し、現在も同紙で記事を手がけているコラムニストの峯田淳さんが俳優、歌手、タレント、芸人ら、第一線で活躍する有名人たちの“心の支え”になっている言葉、運命を変えた人との出会いを振り返る「人生を変えた『あの人』のひと言」。第67回は佐野元春さん。今も第一線で歌い続ける佐野さんの原点とは何か?

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「ロックンロール!」

 ちょっと前置きが長くなるが……。

 シティポップを代表する大瀧詠一(享年65)と山下達郎(73)、伊藤銀次(75)によるナイアガラ・レーベルの企画アルバム「NIAGARA TRIANGLE Vol.1」のリリースは76年のこと。その第2弾、「Vol.2」がリリースされたのが82年だった。

孤高のロッカー

 大瀧は前年の81年に出したアルバム「A LONG VACATION」が大ヒットして次が期待される中、伝説的な「Vol.2」では、佐野元春(70)と杉真理(72)を誘った。大瀧がこのアルバムを作ろうと思ったのは、佐野が81年にヒットした「SOMEDAY」を歌っている姿を見たことだったという。

 杉には「秘蔵写真」というテーマでインタビューした際、その経緯などを伺い、大瀧とのツーショットを掲載した。「Vol.2」収録後、3人はご褒美としてハワイ旅行に出かけている。その時に撮った、海辺の崖のようなところで3人が足をブラブラしながら寛いでいるスリーショットも見せてもらった。

 ここからが佐野元春についての本題――。

 この時、3人は佐野と杉がツインの一緒の部屋、出不精の大瀧は1人部屋に泊まった。佐野と杉だが、早寝早起きの佐野は部屋で過ごし、杉は毎晩、仲間と飲み歩いた。夜遅くに部屋に戻り、佐野を起こさないようにしながらベッドに潜り込もうとした。すると、佐野が毛布を蹴りながら、「ロックンロール!」と寝言で叫んだそうだ。「この人、本当にロッカーなんだなって思いましたね」と杉。

「佐野元春は何者か?」

 多くの人は、その答えをこのエピソードで理解できたのではないか。

「アンジェリーナ」で80年にデビュー、81年に「SOMEDAY」、「Vol.2」には「彼女はデリケート」「Bye Bye C-Boy」などが収録された。その20年近く後、佐野が音楽活動をクリエイティブに続けるアーティストについて「Cafe Bohemia」98年10号でこう語っている(城山隆編『佐野元春語録 1980−1999』=メディアファクトリーから)。

「同世代で言えば、サザンオールスターズの桑田佳祐君、それ以上はあまり思いあたらない。彼は僕と同世代だからね。浜田省吾さんもそのうちの一人かもしれない。あるいは松任谷由実さんとか、まあ僕より上の世代だけど…僕はたまたま幸運にもこれだけ長い間続けられてきた、幸運な、僕はラッキーマンだって思っている」

 桑田、ユーミン……この分析は21世紀の音楽シーンを的確に表現している。慧眼というべきだろう。

「佐野さんの曲は小説っぽい」

 そんな佐野に「人生を変えた一曲」というテーマでインタビューしたのは、コロナ禍真っ只中の2021年だった(記事は15日付)。

 レコード会社経由でお願いしたのだが、まさか実現するとは思っていなかったので、OKしてくれたと聞いて正直、慌てた。とても一人で太刀打ちできる人ではないと思い、音楽通の同僚に助けてもらい、リモートでの短い時間だったが、2人で総力取材となった。

 佐野がまず影響を受けたのは両親で、とくに母親だったという。舞台俳優で後に東京・青山でジャズ喫茶を開いたというから、佐野の生い立ちがなんとなくわかる。その、気になる子供時代は――、

〈当時はまだ珍しいことだったのですが、家にはレコードプレーヤーがあり、両親は海外のポピュラーソングを聴きながら一緒にダンスをしていました。6歳くらいの時にぼくがよく好きでかけていたのがザ・ロネッツの「Be My Baby」です〉

 そして、生まれた初めて買ったシングルは「モンキーズのテーマ」(A面)だが、魅かれたのはB面に入っていた「I Wanna Be Free」。

〈つまり両親の影響で無意識に聴いていたのが「Be My Baby」、ステキだなと最初に体験した曲が「I Wanna Be Free」ということ〉

 佐野が音楽活動の中で影響を受けた人をランダムにあげるなら大瀧、ビートルズ(なかでもジョン・レノン)、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、シュープリームス、音楽プロデューサーではフィル・スペクター…。

 そのスタイルについては後輩のBONNIE PINKが「佐野さんの曲は小説っぽいというか、情景が浮かぶ歌詞が多い」と『別冊カドカワ』(10年12月発売)で語っている。

 佐野が目指しているのはアーバン・ロックだが、その存在を「ボブ・ディランと同じ」と語った人もいる。本人もアイドルはボブ・ディランといっているほどで、つまり詩人のようなロッカーか。それが一番わかりやすい。

アーティストの武器

 そんな佐野が影響を受けた言葉として「free」をあげ、こう語った。これが佐野には重要なメッセージだったのではないか。

〈成長するにつれて“free”という言葉が人間にとっていかに大事な概念か徐々に知るようになりました。今でいえば表現の自由。これはアーティストにとってとても大切なものです。アーティストはそれを武器にしているし、検閲にかかったりすると生きづらくなる。そんな最初のキッカケを作ってくれたのがモンキーズの「I Wanna Be Free」です〉

 そしてこんな風に締め括った。

〈人生の大事なことはすべてポピュラーソングの歌詞の中にある〉

 やっぱりカッコいい。

 ちなみに、大変失礼かもしれないので、ご容赦いただきたいが、佐野元春の曲を流しっぱなしにしていたら、飼っている猫がもっとも反応したのが「アンジェリーナ」だった。興奮していた。

峯田淳/コラムニスト

デイリー新潮編集部